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サラマンダー・パシュート編

サラマンダー狩りの結末

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「ハッハッ、大人しくしろよ。劣等生!そうすりゃあ、テメェらの大事なお姫様の首を絞めて殺しちまうぞ!ハッハッハッ」
ケネスとマーティの二人の表情に陰りが見える。二人の表情を垣間見るに恐らく、こう考えているに違いない。
男が私の首を締め落とすよりも前に、自分たちが引き金を引く方が早いと。
私を人質にしていてばあの男も重さで身軽な動きを出来ないだろうから、あの男が単体で逃げる事は考えられないだろう。万一逃げるとしても私を離して身軽になってから逃げるだろうから、その場合ならば解放という目的が達成されるだろう。
その事から、あの男も二人が銃の引き金を引けないと踏んでいるのだろう。
だから、この男はこんな状態でも笑っていられるに違いない。
男はクックッと笑いながら、私の首を右腕を使って締めていく。
「外道がァァァァァ~やめろォォォォ~!!」
「ハッハッ、落ちこぼれどもの悲鳴は実に気持ち良いな!それに免じてこの女を離してやりたい気分だが、そういう訳にもいかんだろうな。お前らにバレた以上はもう直ぐここにクソッタレの保安委員どもがやって来るだろうからな。その前にオレはこの女を人質に帝国に亡命するんだッ!」
「……そうか、だが、そうして計画をペラペラと喋っている今の貴様はバカにしか見えないな。お前は散々オレやウェンディの事を劣等生だの落ちこぼれだのと罵倒したが、貴様の方が頭が悪いんじゃあないのか?」
ケネスの辛辣とも言える言葉に男の頬の筋肉がピクピクと動く。
「よくも言いやがったな。落ちこぼれの癖に……決めたッ!この女を殺すッ!」
より一層強くなっていく右腕に抗う事など難しい。
このまま意識を落とすのかと思われたのだが、ケネスの声で私は目覚める。
「どうした!!しっかりしろッ!最強の賞金稼ぎ!お前はそんな男に負けるような人間じゃあないだろう!?」
その言葉に私の意識はこの場に留まっていく。落ちそうな意識を必死に目を開けてケネスの次に叫ぶ声を待つ。
「お前は劣等生でありながら、優等生どもを出し抜き、多くの賞金首をその手で取ったじゃあないか!」
「そうだよ!あの時、毒婦メアリーを撃ち殺した時のキミは今、そんな風に情けなく首を絞められているキミよりももっと強かったぞ!あの時のきみは容赦なく相手を撃ち殺したじゃあないか!どんな危機的な状況になっても諦めないきみがオレは好きなんだッ!」
気のせいか「好き」という単語をマーティが口にした瞬間に、一瞬恐ろしい顔をマーティに向けたような気がしたのだが、マーティは構う事なく話を続けていく。
「だから、そんなクソ野郎なんて直ぐに振り解けよ!そして、いつものきみを見せてくれよ!」
その言葉を聞いて私は決意した。この男にもうこれ以上心地の良い思いをさせたくない。
そう考えた私は試しに、ガラ空きになっている男の腹に向かって勢い良く肘を突きつける。
男はその様子に悶絶して大きな声を上げてその場に崩れ込む。
私は男の力が弱まったその一瞬の隙を逃す事なく、その場から離れてケネスとマーティに拳銃を渡すように指示を出す。
二人は同時に私に向かって持っていた拳銃を放り投げる。
私は二丁の拳銃を受け取ると、一丁を男の前に落とす。
「これで最後にしましょう。あなたが死ぬか、私が死ぬかのどちらかでこの戦いは終わるの」
「甘ったるい事を抜かしやがって、西部劇のガンマンを気取っているのか、?クソ女」
「何でもいいから、早く拾いなさいよ」
男は私の指示に従って一丁の銃のうちの一丁を手に取る。
互いに背中を押し付け合って歩いていき、十歩まで歩いた所で勝手に銃を撃ち合うという古来からの正しい決闘方法。
これは現在でも用いられる裁判方式であり、未だに裁判でも高貴な人間に限れば、決闘裁判を受けられるのだとか。
だが、そんな事はどうでも良い。今はこの男と決着を付けるのが最優先する事なのだ。
互いに足を一歩ずつ歩き、数を叫んでいく。
だが、私は掟破りのルール。八歩目で男に対して銃口を向ける。
だが、男も私と同時に振り向く。どうやら、同じ事を考えていたらしい。
十歩でも、直前の九歩でもなく、二つ前の八歩。
恐らく、あの男も私も十歩でも九歩でもなくその前に止まり、銃口を向ける事で相手の先手を打てるだろうと考えていたに違いない。
だが、互いに同じ事を考えていたのが運の尽きであったに違いない。呆気からんとした表情で見つめ合う二人。その瞬間に訪れる膠着状態。
だが、その状態から脱却し、引き金を引くのは私の方が早かったらしい。
私が引き金を引いた後に、二歩遅れて男の銃弾が放たれる。
男の銃弾は私の右腕を掠めたが、あの男は私の銃弾を額に喰らって地面に倒れた。
私は顔一杯に信じられないと言わんばかりに両目を大きく広げた男に向かって呟く。
「どうやら、私の勝ちだったようね。最後だから警告しておくわ。エリートさん。あまり、落ちこぼれを舐めない事ね。エリートに馬鹿にされ、追い詰められた落ちこぼれはその気になればなんだってできちゃうんだから」
当然、返事は返ってこない。相手は死体なのだから。
だが、返事を返そうが返さまいが私にとってはどうでも良い事だ。
私は死体の手に握られていたマーティの拳銃を抜き取ると、素早く二人から借りた拳銃を返しに向かう。
沈黙していた二人は私の無茶を怒鳴ったが、私が拳銃を返すとゴホゴホと空咳をして私に地面に降りるように指示を出す。
なんと、下には長銃を持った保安委員の方々が集まっており、我が部活メンバーと共に社員を制圧しているではないか。
どうやら、この会社は完全に警察の手に落とされたらしい。
私はそれを見ると、どっと疲れが押し寄せてきて床の上で意識を失ってしまう。
結局、私が目を覚ましたのは例の事件の翌日の朝だった。
その翌日に、心配するピーターを他所に、馬で学校に通うと教室はおろか全校で私や賞金稼ぎ部の面々の活躍が噂になっていた。
このニュースを聞いて明るい反応を見せたのは杖の描かれていないバッジを付けた各クラスの生徒であり、このサラマンダー壊滅の事件でアナベルの起こした連続殺人事件で失墜した〈杖無し〉の名誉が回復したのだという。
だが、バッジに杖を持つ先輩たちの大半は私やケネス、マーティの三人の活躍を聞き各々がそれぞれ別個の怒りを見せており、一年生の杖を持つ生徒たちも例に漏れずに〈杖無し〉に活躍を取られたのが悔しいのだとか。
他にも教師陣も射撃の教師を除いて、全員が良い顔をしなかったらしい。
その事を笑顔で馬繋場で報告してきたジャックの顔がものすごく眩しく感じたのは私の気のせいだろうか。
いや、気のせいではない。きっと、彼は嬉しかったのだろう。
〈杖無し〉の落第生がエリートよりも功績を立てたという事実に。
私は彼につられて満面の笑みを見せた。
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