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第二章『共存と滅亡の狭間で』

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 上空にいた修也の蹴りが直撃した。
 だが、『フォールアウト』の強度は蹴り如きでは簡単に崩れなかったようだ。
 修也は痛みに耐え切れずにそのまま地面の上へと落ちていくのが見えた。

「大津さん!」

 カエデが悲鳴を上げた。慌てて修也の元へと駆け寄ろうとしていた。
 だが、その前にカエデに向かって『フォールアウト』が銃口を構えているのが見えた。

 足に痺れを感じて横にはなっていたものの、修也は咄嗟に『フォールアウト』が握っているビームライフルやレーザーガンを握る手に向かってビーム光線を発射していった。

 全ては引き金を引く前の一瞬の隙を狙ったものだった。修也は中年だ。動体視力などはどうしても若い人間に劣る。
 だが、勇気を出した甲斐もあってなんとか『フォールアウト』の武器を握る手に向かってビーム光線が放たれていった。
 本来であればこれで『フォールアウト』の手から武器が落ちいくはずだった。

 だが、修也は忘れていた。『フォールアウト』には生意気な小型衛星が浮遊していたということを。
 それまで強大な『フォールアウト』の陰に隠れていた小型衛星はここぞとばかりに修也の放つ熱線を自らの放つバリアで塞いでいった。

 修也が放った熱線がことごとくバリアによって弾かれていく様子が見えた。
 このままでは終わりだ。修也の中に『絶望』の二文字が思い浮かんでいく。
 だが、カエデは助かった。ジョウジがカエデに覆い被さり、そのままその場から転がっていくことで乱射による犠牲を防いだのだった。

 ジョウジは少し前に命懸けで自らの身を悠介が守ってくれたように自らも命を賭けてカエデを守ったのだ。

「大丈夫ですか? カエデさん?」

「えぇ、私は大丈夫です。それよりもジョウジさんはどうして今のような行動を?」

 ジョウジはその問い掛けを聞いて咄嗟に言葉が出てこなかった。
 どうして今のような無意味な行動を取ったのか自分でも理解できなかったのだ。
 ジョウジにもカエデにも『感情』と呼べるものはない。製造元でそのようにプラグラミングされていたし、学校でも『感情』というものは発見されてこなかった。

 まるで、人間のような無意味な行動をとってしまっていたことに二人は驚きを隠せなかった。
 ジョウジがそんなことを考えていた時だ。真上にいた『フォールアウト』が銃口を下ろしている姿が見られた。

「クソッ! どうしたらいいんだ」

 ジョウジは悪態を吐いた。それを背後で聞いていたカエデが目を丸くしていることに気が付いた。

(……人間のような言動を? オレが?)

 ジョウジは信じられないとばかりに両目を大きく見開いた時だ。自身の腕がカエデによって思いっきり引っ張られていたことに気が付いた。
 それによってもう一度『フォールアウト』の乱射から逃げることができたのだった。

「あ、ありがとうございます! カエデさん!」

「ここは一旦引きましょう。あのロボットは今の私たちでは対処し切れる相手ではありません」

 カエデの言葉は正論だった。どう計算を立てたとしても『フォールアウト』に勝てるビジョンがどうしても見えてこなかったのだ。
 コンピュータが導き出した計算である。間違いはなかった。

「そうですね」

 二人で逃げ出そうしていたものの、その前に『フォールアウト』が落ちてきて二人の行く手を阻んだのであった。
 そしてもう一度今度は密接した距離かは銃を乱射しようと試みていたのだ。

 ジョウジとカエデはビームポインターを突き付けて微かな抵抗を試みようとしていた。
 もちろん自分たちが持っている武器程度では『フォールアウト』の対処をすることなど不可能であることを知っていても『イタチの最後の屁』だとか『窮鼠猫を噛む』とかのような諺が実現できるかもしれないと胸に期待を寄せていたのだ。
 この時点で二人の心境は大きく人間に寄っていたといてもいいだろう。

 だが、結果的に二人のささやかな抵抗は小型の衛星によって阻まれてしまった。
 後に残ったのはどう計算したとしても自分たち二人は助からないという旨のものだった。

 固い装甲に無数ともいえるような武器。それらが相手となれば打開策など思い付くはずがなかった。
 それでもみすみす殺されたくはなかったのか、ビームポインターから『フォールアウト』に向かって熱線を放ち続けていた。

 その時だ。唐突に『フォールアウト』の背中からザザっという何かが途切れる音が聞こえてきたのだ。
 二人が音のした方向を見つめると、修也がビームソードを『フォールアウト』の背中に向かって突き付けている姿が見られた。

 ジョウジは鉄壁の防御と最強の攻撃力を誇っていたはずの『フォールアウト』がどうしてこのような事態に陥ってしまったのかを自らのパソコンを使って弾き出していた。

 恐らく『フォールアウト』に搭載されていたコンピュータの対応が遅れてしまったからだろう。

 コンピュータは修也による奇襲も予想できていたはずだが、小型衛星は修也の襲撃を受けた際には二人の熱線を防いでおり、修也のビームソードによる攻撃を防ぐことができなかったのだ。
 修也のビームソードを防ぎにいった場合、二人による熱線を防ぐことは不可能であったからだ。

 ならば例え本体に多少の傷を負わせても『フォールアウト』にとっての『盾』である小型衛星を守ることが重要だと判断したのだろう。

 だが、修也によるビームソードを使っての攻撃は『フォールアウト』にとっても予想以上であったのだと思われる。
 頑丈であった『フォールアウト』の傷口からは黒い煙が立ち上り、バチバチと火花が鳴っていた。これは破壊される前兆であったといってもいいだろう。

 予想外の打撃を受けて小型衛星が動揺して傷口の周りを飛び回っている様子が確認できた。
 修也は動揺している隙を逃さなかった。両手で飛び回っている小型衛星を掴み取ったかと思うと、そのまま地面の上に叩き付けたのだった。

 小型衛星は国会議事堂前の駐車場のアスファルトの上に叩き付けられたことによって、粉々に砕かれることになった。
 これで『フォールアウト』は強力な『盾』を失ったことになる。
 自らの『盾』を失ったせいか、『フォールアウト』は慌てて地面の上から宙に向かって飛び上がろうとしていた。

 だが、修也はそれを許さなかった。地面の上を両脚を使って蹴り上がり、もう一度、その傷跡に向かってビームソードを突き刺していこうとした。
 それでもそうなる前に修也に向かって自らの体をぶつけて修也を地面の上に叩き伏せた。

「うぅ」と呻き声を上げる修也に向かって『フォールアウト』は両目を怪しげな光で光らせたかと思うと、そのまま修也に向かってレーザーを放とうとした。
 その隙をジョウジは逃さなかった。自身のビームポインターを使って『フォールアウト』の口に向かって発射した。

 強烈な熱線を放射する直前であったにも関わらず、ジョウジのビームポインターを喰らったことによって熱線の行き場を失ってしまった熱線は体の中へと逆流して『フォールアウト』自らを処刑に追い込んだのであった。

 地上近くにおいて『フォールアウト』は巨大な爆発を起こしたかと思うと、そのまま粉々に砕かれていったのだった。

「大津さん!」

 ジョウジはその近くに倒れていた修也の元へと駆け寄っていった。最新式の『メトロイドスーツ』を装着していたこともあってか、幸いなことに修也は軽傷だった。
 それでも起き上がるのは難しかったらしい。腰を上げようとした時に痛みが生じたのか、「うぅ」と小さな悲鳴を上げた。

「あぁ、無茶しないで!」

 ジョウジは修也をゆっくりと助け起こした。

「お疲れ様です。大津さん。ここからは私たちだけでやらせていただきます。どうか、大津さんはゆっくりと休んでください」

「いいや、私は休むわけにはいかないよ」

「なぜです?」

「なにせ、私はあの宇宙人との交渉役を命じられたんだからね。その任は果たさないといけない」

 修也の目は自身を見下ろすように聳え立つ国会議事堂を睨みながら言った。
 この時修也が意識をしていたのは惑星ベルで出会ったあの得体の知れない宇宙人の顔だった。

 彼とは絶対に決着を付けなければならない。そうした思いから修也は痛む体に鞭を打ってあの得体の知れない宇宙人がいる国会議事堂に向かって歩みを進めていったのだった。
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