66 / 135
第三部『終焉と破滅と』
神通恭介の場合ーその⑧
しおりを挟む
「そういえばさぁ、最近噂になってる変な鎧の集団の話は知ってるよな?」
「あぁ、知ってる。知ってる。そういえばさぁ、少し前に中東のどっかの国の軍隊がそいつらと遭遇したっていう話を聞いた事があるぜ」
彼はそう言って自身のスマートフォンを操作し、その記事が載ったサイトを検索アプリで開いていく。
そこには彼の発言を裏付けるインターネットの記事が載っていた。
「すげぇよなぁ、もしかしたら本当にそんな奴らがいるかもしれねぇんだよな」
その発言を聞いて、ふと学食から戻ってきた恭介が足を止めた。
パンと紙パックに入ったジュースを抱えた恭介は友人たちに何を話していたのかを尋ねた。すると、二人はスマートフォンを開きながら先程までの事を語っていく。
「な?すごいだろ、この得体の知れない化け物が海外にも居たんだぜ」
「日本だけの都市伝説かと思ってたんだけどなぁ、海外にもいたんだよなぁ」
恭介はその記事に映った鎧を見て思わず驚愕してしまう。というのも、そこには自分たちと同じ様な鎧を身に纏ったサタンの息子が映っていたからだ。
「すごいだろ?こいつなんなんだろうな」
「わ、わからないな。それは」
恭介は適当に話を切り上げて自身の席へと戻っていく。恭介は母親が用意した弁当を食べた後にデザートとして菓子パンと紙パックに入ったジュースを飲み食いするのが好きだった。恭介はのんびりと食事を済ませた後で英単語帳を開き、午後の英語の授業に備えたのである。
だが、先程の件が気になって英単語帳の中身が入ってこない。このままでは英単語のテストにて補習を課されてしまうではないか。
恭介が頭を抱えていると、美憂が背後から声をかけてきた。
「おい、どうした?解けないのか?」
「あぁ、少し難しくてな……それと気になる件があったんだ」
「言っておくけど、あたしはもう天堂一家の事だけでも手一杯なんだぞ、他の奴らにまで構っていられるか」
美憂が面倒臭そうに吐き捨てた。やむを得ない。あれから既に一週間という月日が経っているにも関わらず、福音という恐ろしいサタンの息子に対してまだなんの対処もできていないのだから。
恭介が腕を組みながら唸っていると、席に座っている彼の友人たちがまたしても大きな声を上げて騒ぎ立てていく。
「大変だッ!東京で爆破テロが起きたんだって!?」
その言葉を聞いて恭介は慌てて友人の元へと飛んでいく。友人のスマホの画面には東京にて爆破事件が起きた事を報道するニュースが載っていた。
友人がニュースをタップすると、そこには詳しい内容が記されていた。
記事によると、企業のビルが爆破されたのだという。その企業は日本でも有数の大企業天堂グループの参加のビルであったとされ、近々東南アジアに支社を進出予定であったとされる。
反抗の声明文によると『二度目はない』という事で警察はこれを戦争時の日本とその企業の海外進出とを結び付けて反抗に及んだものだと分析していた。
恭介が唖然とした様子で記事を眺めていると、不意に自分の携帯電話に着信の音が鳴り響いていくのを感じ取った。
恭介が慌てて廊下に出ていき、携帯電話を取ると、そこから聞きたくないあの女の声が聞こえてきた。
『遅いよ、お兄さん……ねぇ、私の電話を取るのが遅くなって死ぬ事になったメイドの話ってしたっけ?』
電話の向こうの相手は低い声で告げた。
「わ、悪い……学校だったもんだからさ、それよりもなんの用事なんだ?」
『今回は忠告だよ、光栄に思いなよ、私は気に入った人にしか忠告しないから』
「おれ以外だと他に誰に忠告したんだ?」
『志恩くんに決まってるじゃん!あの子の姉はいらないけど、あの子は可愛いんだもん。そうだねぇ、一生私のあーー』
「わ、わかった!ありがとう!それで肝心の用件は?」
『注意して』
あまりにも端的過ぎる。聞き間違いかと思って恭介がもう一度聞き返すと、彼女はなぜか溜息を吐いた後に淡々とした口調で告げた。
『注意してって言ったの、伊達正彦にね』
「伊達正彦ってあの交番に貼られてる!?」
『そう。あいつとお父様とは少なからぬ因縁があってね。1974年までお互いに相手の命を取るか、取られるかの間柄であったらしいよ』
「そ、そうなんだ……」
『で、ここからが本題なんだけど、あいつもサタンの息子なんだよ』
「な、なんでそんな事が……?」
『あいつの隠れ家をうちの部下が見つけ出したんだよ。それにさぁ、あいつサタンの息子になった事を利用して次々とうちの家令を殺しててさ、その件をうちの脅迫状に送ったりしてたんだよ」
希空は低い声で淡々と答えた。それを聞いて恭介は全身を震わせてしまう。
希空はその様な大事な事を把握しながらも、傘下の企業の爆破を黙認したのである。恭介からすればテロリストの存在を公にして、警察を動かすためには部下や傘下の企業の命すら厭わないという事なのだろうか。恭介はそんな抗議の言葉をなんとか飲み込んで、話を続けていくのであった。
「わかった。ありがとう。それで他には?」
『うん、もう一つあるよ。ねぇ、お兄さん、また私とデートしない?』
希空は警告の言葉の直後に平気でそんな事をいってのけたのである。
恭介はその言葉に戸惑って上手く返事を返せなかったのだが、それは電話の向こうの希空を苛立たらせる事になってしまったらしい。
『ねぇ、デートするの?しないの?』
「す、するよ!」
『そっかー。ならよかった。その時は私がお弁当作って持っていくから、楽しみにしておいてね』
希空はそれだけを告げると、黙って電話を切ったのであった。恭介は改めて希空の恐ろしさを思い知り、胸が激しくなっている事に気がつく。
希空と付き合うのはよろしくない。そんな事を考えていた時だ。不意に恭介の携帯電話に見慣れぬ番号から電話が掛かってきた。慌てて携帯電話を取ると、そこ聞こえてきたのは真紀子の声であった。
あの狂人が何の用であろう。希空の後であると多少インパクトは薄れるものの、それでも恭介からすれば十分に身構える相手であった。
『よぉ、神通』
「なんだよ、最上。まさかとは思うけど、今頃になってお姫様の地位を取り戻したくなったのか?」
『ンなわけあるか、警告だよ、警告……あたしがしたいのはあんたに向けた警告だよ』
「警告だと?」
『あぁ、希空様があたしにあんたを始末しろというゴーサインを出してやがる』
その言葉を聞いて、恭介は思わず両肩を背中に寄せて萎縮してしまう。
だが、真紀子が嘘を吐いているという可能性も否定できない。恭介は確認の念を取る。
「それは本当なのか?」
『今回に限ってはマジで嘘じゃあないぜ、面白ろそうだから死に掛けのお兄さんの姿を見させろ、なんてほざきやがった。全くイライラさせやがるぜ』
「死に掛けのお兄さんって、もしかしてーー」
『……なぁ、神通、あんたさっき希空様にデートに誘われただろ?その際にあたしに襲わせる予定だったのさ。勿論あたしも命令に背くわけにはいかないからねぇ、その時は全力であんたの命取らせてもらうけど、言いなりも癪なんでね。先にあんたに警告させてもらったんだ』
「そういうお前はおれに警告なんかして大丈夫なのか?」
『生憎と、機密を漏らすなとはあのお方から命令されてないんでね』
真紀子はそれだけ告げると電話を切った。恭介は携帯電話をポケットに戻すと、慌てて教室へと戻っていく。
幸いな事にあれだけ話していても、まだ英単語帳を復習するだけの時間は余っていたのは不幸中の幸いというべきだろう。恭介は頭から未来の心配を追い出し、目の前の英単語のテストに挑む事にしたのである。
彼は今そこにある危機を乗り越えるためにブツブツと英単語を詠唱し始めていくのである。一夜漬けでもやらないよりはマシだ。彼自分の中にある持論を展開させながら呟いていくのであった。
「あぁ、知ってる。知ってる。そういえばさぁ、少し前に中東のどっかの国の軍隊がそいつらと遭遇したっていう話を聞いた事があるぜ」
彼はそう言って自身のスマートフォンを操作し、その記事が載ったサイトを検索アプリで開いていく。
そこには彼の発言を裏付けるインターネットの記事が載っていた。
「すげぇよなぁ、もしかしたら本当にそんな奴らがいるかもしれねぇんだよな」
その発言を聞いて、ふと学食から戻ってきた恭介が足を止めた。
パンと紙パックに入ったジュースを抱えた恭介は友人たちに何を話していたのかを尋ねた。すると、二人はスマートフォンを開きながら先程までの事を語っていく。
「な?すごいだろ、この得体の知れない化け物が海外にも居たんだぜ」
「日本だけの都市伝説かと思ってたんだけどなぁ、海外にもいたんだよなぁ」
恭介はその記事に映った鎧を見て思わず驚愕してしまう。というのも、そこには自分たちと同じ様な鎧を身に纏ったサタンの息子が映っていたからだ。
「すごいだろ?こいつなんなんだろうな」
「わ、わからないな。それは」
恭介は適当に話を切り上げて自身の席へと戻っていく。恭介は母親が用意した弁当を食べた後にデザートとして菓子パンと紙パックに入ったジュースを飲み食いするのが好きだった。恭介はのんびりと食事を済ませた後で英単語帳を開き、午後の英語の授業に備えたのである。
だが、先程の件が気になって英単語帳の中身が入ってこない。このままでは英単語のテストにて補習を課されてしまうではないか。
恭介が頭を抱えていると、美憂が背後から声をかけてきた。
「おい、どうした?解けないのか?」
「あぁ、少し難しくてな……それと気になる件があったんだ」
「言っておくけど、あたしはもう天堂一家の事だけでも手一杯なんだぞ、他の奴らにまで構っていられるか」
美憂が面倒臭そうに吐き捨てた。やむを得ない。あれから既に一週間という月日が経っているにも関わらず、福音という恐ろしいサタンの息子に対してまだなんの対処もできていないのだから。
恭介が腕を組みながら唸っていると、席に座っている彼の友人たちがまたしても大きな声を上げて騒ぎ立てていく。
「大変だッ!東京で爆破テロが起きたんだって!?」
その言葉を聞いて恭介は慌てて友人の元へと飛んでいく。友人のスマホの画面には東京にて爆破事件が起きた事を報道するニュースが載っていた。
友人がニュースをタップすると、そこには詳しい内容が記されていた。
記事によると、企業のビルが爆破されたのだという。その企業は日本でも有数の大企業天堂グループの参加のビルであったとされ、近々東南アジアに支社を進出予定であったとされる。
反抗の声明文によると『二度目はない』という事で警察はこれを戦争時の日本とその企業の海外進出とを結び付けて反抗に及んだものだと分析していた。
恭介が唖然とした様子で記事を眺めていると、不意に自分の携帯電話に着信の音が鳴り響いていくのを感じ取った。
恭介が慌てて廊下に出ていき、携帯電話を取ると、そこから聞きたくないあの女の声が聞こえてきた。
『遅いよ、お兄さん……ねぇ、私の電話を取るのが遅くなって死ぬ事になったメイドの話ってしたっけ?』
電話の向こうの相手は低い声で告げた。
「わ、悪い……学校だったもんだからさ、それよりもなんの用事なんだ?」
『今回は忠告だよ、光栄に思いなよ、私は気に入った人にしか忠告しないから』
「おれ以外だと他に誰に忠告したんだ?」
『志恩くんに決まってるじゃん!あの子の姉はいらないけど、あの子は可愛いんだもん。そうだねぇ、一生私のあーー』
「わ、わかった!ありがとう!それで肝心の用件は?」
『注意して』
あまりにも端的過ぎる。聞き間違いかと思って恭介がもう一度聞き返すと、彼女はなぜか溜息を吐いた後に淡々とした口調で告げた。
『注意してって言ったの、伊達正彦にね』
「伊達正彦ってあの交番に貼られてる!?」
『そう。あいつとお父様とは少なからぬ因縁があってね。1974年までお互いに相手の命を取るか、取られるかの間柄であったらしいよ』
「そ、そうなんだ……」
『で、ここからが本題なんだけど、あいつもサタンの息子なんだよ』
「な、なんでそんな事が……?」
『あいつの隠れ家をうちの部下が見つけ出したんだよ。それにさぁ、あいつサタンの息子になった事を利用して次々とうちの家令を殺しててさ、その件をうちの脅迫状に送ったりしてたんだよ」
希空は低い声で淡々と答えた。それを聞いて恭介は全身を震わせてしまう。
希空はその様な大事な事を把握しながらも、傘下の企業の爆破を黙認したのである。恭介からすればテロリストの存在を公にして、警察を動かすためには部下や傘下の企業の命すら厭わないという事なのだろうか。恭介はそんな抗議の言葉をなんとか飲み込んで、話を続けていくのであった。
「わかった。ありがとう。それで他には?」
『うん、もう一つあるよ。ねぇ、お兄さん、また私とデートしない?』
希空は警告の言葉の直後に平気でそんな事をいってのけたのである。
恭介はその言葉に戸惑って上手く返事を返せなかったのだが、それは電話の向こうの希空を苛立たらせる事になってしまったらしい。
『ねぇ、デートするの?しないの?』
「す、するよ!」
『そっかー。ならよかった。その時は私がお弁当作って持っていくから、楽しみにしておいてね』
希空はそれだけを告げると、黙って電話を切ったのであった。恭介は改めて希空の恐ろしさを思い知り、胸が激しくなっている事に気がつく。
希空と付き合うのはよろしくない。そんな事を考えていた時だ。不意に恭介の携帯電話に見慣れぬ番号から電話が掛かってきた。慌てて携帯電話を取ると、そこ聞こえてきたのは真紀子の声であった。
あの狂人が何の用であろう。希空の後であると多少インパクトは薄れるものの、それでも恭介からすれば十分に身構える相手であった。
『よぉ、神通』
「なんだよ、最上。まさかとは思うけど、今頃になってお姫様の地位を取り戻したくなったのか?」
『ンなわけあるか、警告だよ、警告……あたしがしたいのはあんたに向けた警告だよ』
「警告だと?」
『あぁ、希空様があたしにあんたを始末しろというゴーサインを出してやがる』
その言葉を聞いて、恭介は思わず両肩を背中に寄せて萎縮してしまう。
だが、真紀子が嘘を吐いているという可能性も否定できない。恭介は確認の念を取る。
「それは本当なのか?」
『今回に限ってはマジで嘘じゃあないぜ、面白ろそうだから死に掛けのお兄さんの姿を見させろ、なんてほざきやがった。全くイライラさせやがるぜ』
「死に掛けのお兄さんって、もしかしてーー」
『……なぁ、神通、あんたさっき希空様にデートに誘われただろ?その際にあたしに襲わせる予定だったのさ。勿論あたしも命令に背くわけにはいかないからねぇ、その時は全力であんたの命取らせてもらうけど、言いなりも癪なんでね。先にあんたに警告させてもらったんだ』
「そういうお前はおれに警告なんかして大丈夫なのか?」
『生憎と、機密を漏らすなとはあのお方から命令されてないんでね』
真紀子はそれだけ告げると電話を切った。恭介は携帯電話をポケットに戻すと、慌てて教室へと戻っていく。
幸いな事にあれだけ話していても、まだ英単語帳を復習するだけの時間は余っていたのは不幸中の幸いというべきだろう。恭介は頭から未来の心配を追い出し、目の前の英単語のテストに挑む事にしたのである。
彼は今そこにある危機を乗り越えるためにブツブツと英単語を詠唱し始めていくのである。一夜漬けでもやらないよりはマシだ。彼自分の中にある持論を展開させながら呟いていくのであった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
26
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる