太刀に宿る守護霊とその上位の神々に認められたので、弟と妹を殺された兄ちゃんは仇の相手である妖鬼に復讐を誓います!

アンジェロ岩井

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天楼牛車決戦編

玉藻紅葉の下準備

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風太郎は刀を構えながら、引き続き、彼女に向かって問い掛けた。
「弟と妹を……残されたオレの家族を殺した理由を説明してくれないか?おまえの首を跳ね飛ばし、おまえをあの世に送る前に聞いておきたいんだ」
風太郎の問い掛けに、紅葉は口元を隠しながら上品な風に笑ってみせてから言った。
「夢よ。私もあの日、あなたや討滅寮の奴らと同じ夢を見たの。神々とあなたが今、握っている太刀が私を殺す……っていう最悪の夢をね」
「だから、だから、殺したのか!?オレの家族を!?」
必死の顔の風太郎。声は掠れ、眼には涙さえ浮かべている。悲痛とも言える表情であったが、彼女はそれを見ても笑いを崩す事なく話し続けていく。
「ええ、あなたの隣に住んでいたお爺さんを覚えているでしょう。あの日、私は自ら、あなたの住んでいた所へと赴いて、あの老人を向かわせたの。あなたを殺すためにね」
紅葉は「あなたを」殺すためと告げた。なら、大人しく構えていれば、或いは最初に扉を開けたのが自分だったのなら、弟と妹は死なずに済んだのではないのか。
風太郎の中を後悔の渦が蠢く。荒波に揉まれる難破船の様に風太郎の心は動いていく。いや、あの時に自分が動いてさえいれば……。
風太郎は堪らずに地面に太刀を落として頭を抱えて叫んでしまう。
そして次に涙を流していく。無限に続くかと思われる大きな部屋に聞こえる程の嗚咽声。
頼りになる対魔師がいの一番に泣き叫び、錯乱したのだから、全員は慌てふためいたに違いない。慌てて彼の元に駆け寄り、彼を慰めようとするのだが、風太郎は幼児の様に彼ら彼女らの手を振り払って泣き叫んでいく。
近作日向はずっと近くで見てきた風太郎がこんな心を抱えていたとは知りもしなかった。
なので、彼に掛ける言葉も見つからず、オロオロとしていた時だ。
突然、部屋の中に大きな音が鳴り響く。
全員が音がした方向を振り向く。
そこには凛とした目で手を離して、風太郎を睨む斑目綺蝶の姿。
綺蝶は大きな声でハッキリと告げた。
「しっかりしなさい!獅子王院風太郎!あなたは対魔師でしょう!?」
その言葉を聞いて風太郎は痛む頬を押さえながら、綺蝶に連れられて首を縦に動かす。
それに加えて、綺蝶は誰にも反論を挟ませないくらいの大きな声で叫ぶ。
「自分を責めるのはやめなさい!あなたは悪くありません!考えてもみてください!いきなり斧を持った老人が笑い声を上げながら、殺しにくるんですよ!そんなのに対処できますか!?無理ですよ!」
綺蝶は両手の拳を握り締めながら、大きな声で自身の考えを述べていく。
「しっかりしなさい!獅子王院風太郎!氷と風の紋章を使う最強の対魔師!玉藻紅葉を唯一倒せる対魔師なんですよ!あなたは!」
だが、体が動かない。足がまだ躊躇っているらしい。
彼は懸命に足を動かそうとしたが立てない。そうして、ずるずると先延ばしにしようとする風太郎に腹が立ったのか、綺蝶はもう一度、大きく彼に平手打ちを食らわせる。
「逃げる事は許しません!立ちなさい!」
風太郎はそれを聞くと、太刀を握って玉藻紅葉に向かって刀を振り上げていく。
紅葉は薙刀を向けて、彼に向かって斬りかかっていくが、紅葉はそれよりも前に真下から薙刀を振り上げていく。
風太郎はわざと地面を蹴って、体を転ばせて窮地を脱していく。
彼はそのまま刀を振り上げながら、紅葉と激しい戦いを繰り返していく。
薙刀と刀の刃とが激しくぶつかり合って、火花を散らしていく。
だが、ここで彼女は卑劣にも毒の液体を垂らして、彼の足元に付着させようと目論む。
そうすれば、労する事なくこの男を殺せるという寸法だ。
だが、近作日向は紅葉の策略に気が付いたらしく、自身の破魔式を使用しながら、斬り掛かっていく。
毒は風太郎の足に垂れる前に、武器の位置が変わった事により、その周囲の地面の下に落ちていく。
同時に、彼女の仕掛けた毒は床の上に滴り落ちていく。
すると、床が青紫色に染まり、グロテスクとも言える色に変わっていく。
風太郎はそれを見て彼女の恐ろしさに気が付く。
『殺生槍』は無敵の魔獣覚醒の様に思えてならない。
あの毒は掠っただけでも致命傷となる。加えて、彼女の薙刀の技術が影響している。
あの二つが組み合わされば、彼女に近付く事など不可能だろう。
風太郎もいや、その場に居合わせた全員がそれを理解していたのだが、それでも二つの理由のために、動かずには居られなかった。
一つは、自分たちの仲間である近作日向を救出するために。もう一つは、この場で玉藻紅葉を討ち取る機会を逃さないために。
全員が刀を振って彼女に向かっていく。
薙刀をいくら振り回しても、全員で掛かれば少なくとも、一太刀は浴びせられるだろう。
そう考えていたのだが、その考えは甘かったらしい。
彼女は今度は全身から槍の様な触覚を出して、飛び出してきた対魔師たちに向かって攻撃を喰らわせていく。
どうやら、この女には死角が存在しないらしい。
風太郎は叫び声を上げて、全員を止める。
だが、時既に遅しというべきだろう。多くの仲間は慌てて後ろに下がって槍の様な触手の攻撃を回避したが、一人、間に合わなかった人間がいた。
それは、海崎英治。白い頭で前を隠した青年は呻き声を上げながら、助けを求めて手を伸ばしていく。
「……あ、あぁ……」
か細い声を絞り出すと、英治は虚な目を浮かべて手を伸ばしていく。
日下部暁人は地面に降りるのと同時に慌てて彼の手を取る。
「しっかりしろ!海崎!」
だが、彼の呼びかける声とは相反する様に彼の手は紫色になり、痩せ細っていく。
そして、両眼の瞼を閉じて目を覚さなくなってしまう。
日下部暁人は海崎英治の死体を置くと、刀を振って玉藻紅葉の前に立ち向かっていくが、彼女は背中から生えた触手を武器に彼を寄せ付けない。
あろう事か、彼をそのまま触手で殺そうとさえ試みた。
恐らく、あの触手には薙刀と同様に、猛毒が含まれているのだろう。
触れれば死ぬ。その事は理解していた。彼は咄嗟に両目を閉じたが、その前に一人の男が触手を刀で跳ね飛ばした事により、彼は難を逃れる。
そう、日下部暁人の大学での親友、菊園寺和巳であった。
和巳は親友を逃すと、互いに肩を並べて、目の前の女を睨む。
紅葉は二人が来るのを見届けると、林檎の様に赤くて立派な唇を舐め回して様子を伺う。
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