言葉の通じない世界に転生した侯爵令嬢は、気が付いたら婚約破棄されて獣人騎士の新しい夫に愛されてました

ゴルゴンゾーラ三国

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「――下ろすが、立てるか」

 男が口を開く。わたしはその言葉にうなずいた。手首はひねったようで鈍い痛みがあるし、手のひらは擦過傷が酷いが、足は怪我をしていない。
 だから立てる、と思ってうなずいたのに、男がわたしを地面に下ろして手を離そうとすると、がくりとしゃがみ込む羽目になってしまった。

「い――っ」

 反射的に手をついてしまったものだから、手首の痛みが酷くなる。わたしは泣きそうになりながら、『ごめん、なさい』と繰り返した。
 彼らも話す前世の言葉のほうが馴染みがあるのに、咄嗟に出てきたのはこの国の謝罪の言葉だった。謝ることと、優雅に笑うこと。それだけは本当に叩きこまれて生活してきたので、思わずこっちが出てしまったようだ。

「えっ……今の、もしかしてラトルソールの……。待ってください、団長、本当にこの子、どうしたんすか」

「男に襲われていたから助けてきた」

「助けてきたって……」

 呆れてなにも言えない、と言わんばかりの溜息が聞こえてくる。
 団長、と男を呼んでいた青年が、わたしの前に膝をついて、目線を合わせてくれる。彼も獣人ではあったけれど、黒髪黒目で、すごく安心感を覚える。前世の世界で、生きた国の、一般的な人の見た目に近いからだろうか。

『すみません、お嬢さん。我々はヴェスティエ王国の第一騎士団の者です。自分は副団長のコマネと申します。お怪我はありませんか』

「……?」

 さっきまで普通に話してくれていたのに、急に言葉が分からなくなってしまった。一、以外なにも聞き取れなかった。流暢すぎる。
 一って、何が一なんだろう。一人で大変でしたね、とか、そういう……?
 とりあえず、笑っておけばいいのかな、と、わたしは手首をさすりながら笑ってごまかした。

『……? もしかして手を怪我されているんですか』

「――ッ」

 急に手が伸びてきてわたしはびくりと体をこわばらせる。え、何、何。
 わたしを助けてくれた男の仲間見た位だったから、変なことをしないだろうと思っていたのに、全然そんなことはないんだろうか。

「無駄だコマネ。そいつはおそらくラトソール語が分かっていない」

「ラトソール語が分かっていないって……。でも今話してましたよ」

 ラトソール。この国がそうであることは知っている。名称だけなら、聞き取れれば覚えやすい。咄嗟にこの国の言葉で話してしまったので、勘違いされたのか。

「おい、怪我は。手首と手のひらだけか?」

「あ……はい。たぶん……。痛いのは手首と手のひらだけです」

 わたしが男の言葉に反応すると、コマネと呼ばれた、わたしに目線を合わせてくれた青年が驚いたような表情を見せた。
 ……そうか、彼もわたしの怪我の具合を聞いてくれたのか。必要以上に怖がって、悪いことをしてしまったな。

 というか、彼も通じる言葉があるのならそちらで話せばよかった。急に分からない言葉で話しかけられたからそちらで反応しないといけないと思い込んでしまったのだ。
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