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第六部

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 いつか誰かに取られてしまうかも、という不安は、徐々にわたしの中で、確かな形となる。
 夕食の準備を手伝おうとキッチンに向かったとき、、今日の昼間にあった、犬獣人のお姉さんとのやりとりを、イエリオがフィジャに報告している場面に遭遇してしまった。わたしが責められているわけでもないのに、なんだか気まずくて、話に割って入ることも出来ずにキッチンの陰からこっそりと彼らの様子を覗く。

 二人はわたしがいることに気が付かないまま、会話を続けていた。
 一通り話を聞いたフィジャが、「あー、メルちゃんねぇ……」と少し困ったような表情をしていた。メル。ああ、確かに、そんな名前だったかも……。フィジャが怪我をして店を休むということを伝えに言ったとき、そう呼ばれていた気がする。

「メルちゃん、店を辞めるときに、告白してきたんだよねぇ」

 トントン、と包丁が使われる音がしながら、はっきりと、そんな声が聞こえてきた。告白されたことに喜びを感じている声音ではなく、むしろちょっと迷惑そうな風に聞こえる声だ。……そうであってほしい、という、わたしの願望が、迷惑そうにしていると勝手に判断しているのでなければ。

「……なんで言わなかったんですか」

「ボクにはマレーゼがいるからって、すぐに断ったし、諦めたものだと思ってたんだよぉ。でも、こんなことになるなら知らせておけばよかったかな」

 そうすれば多少は事前に対策できたかも、とフィジャは言う。

「でも、一人、『くらい』かあ……」

 ふと、フィジャがつぶやいた。

「メルちゃんは一夫多妻とか、一妻多夫とか、向いてなさそうだよねぇ。それも別に悪いことじゃないけど。逆にマレーゼは向いてそう」

 思ってもみない言葉に、わたしはえっと声を漏らしそうになって、慌てて口を手で覆い、覗くのをやめてひゅっと壁の陰に体を隠した。ほんの少しだけ、聞きにくいけど、この体勢でも聞こえないことはない。
 すっかり表情は見えなくなってしまったけれど。

「一夫一妻が普通の世界なんだったら、一対一の恋愛を四人分する、っていう認識になるのかなぁ、ってちょっと思ってたけど、なんだかんだ、『誰も』欠けちゃいけない、っていう風だし。複数人の恋愛出来るタイプそうじゃない?」

「……それ、本人に言わないであげてくださいよ。貴方は誉め言葉のつもりなんでしょうけど」

「え? ……あ、そうか。そうだね」

 イエリオの呆れたような声と、フィジャの少し気の抜けた声。

 わたしが一夫一妻の世界に生きてきた人間だから、誉め言葉にならないと、イエリオは言ってくれたのかもしればいが、一妻多夫に向いていそう、というそのフィジャの言葉は、今のわたしに少しだけ勇気をくれた。
 一夫多妻、一妻多夫の制度がある世界の人間から見て向いている、って判断されるなら、上手くいくのかも、って。
 焦りが少しずつ消えていったとき――。

「あ? お前、こんなところで何してんだ」

「うわああああ!?」

 帰ってきたのであろうウィルフに声を欠けられたわたしは、自分でもうるさい、と思うほどの大声を上げてしまった。
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