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第六部

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 べしょべしょに泣く犬獣人のお姉さんんを放置して、イエリオに手を引かれる。わたしたちが歩きだしても、お姉さんは追ってこなかった。
 店について、注文も済ませると、イエリオが、怒ったような声音で言った。

「おおかた、フィジャがモテないのをいいことに、告白を先延ばしにしてたんでしょうね」

 今更ずうずうしい、とでも言いたげな表情である。わたしはお姉さんの言い分に戸惑ったり落ち込んだりするばかりだったが、イエリオは怒っているらしい。あまり見ない表情をしている。

 多分、イエリオは、そんな意味で言ったんじゃないと分かっているけれど、「告白を先延ばしにしている」という言葉は、今のわたしにすごく突き刺さる。
 わたしだって、外堀が埋められて、形ばかりは夫婦になったけれど、気持ちを何も返していない。いや、なにもってわけじゃないけど……。
 常日頃から、皆を大事にしたいなって、言動には気を付けているつもりだけど、恋愛的な好意を返しているかと聞かれれば、そんなことはないので。

 だって、怖いのだ。
 前世の記憶があるまま、シーバイズで暮らして、変な目で見られたことは、数えきれないくらいある。でも、わたしはそのたびに、「どうせ二周目だし」「死んだらこの恥もなかったことになるし」と、どんな目で見られようとも、あっさり諦めてきた。ま、いっか、って。

 そのせいで、なくなった人間関係も、いくつかある。

 でも、皆のことは、諦められないし、諦めたくない。ま、いっか、って、切り捨てられないのだ。
 だからどうしても、変なことをしていないかな、どうかな、って気になってしまう。『常識』という、ささやかな指標に縋ってしまうのだ。

 ――わたしも、現状に甘んじていたら、誰かにかっさらわれることとか、あるんだろうか。
 一妻多夫、一夫多妻が当たり前、ということは、浮気への抵抗が一夫一妻より低い……なんてこともありえるのかな。いや、それは偏見か? 一夫一妻でも浮気するひとは浮気するし。
 流石に多夫多妻なんてカオスなことにはならないでしょ、と思いながらも、焦る気持ちがわたしの中で芽生え始めていた。

 知らない誰かに、フィジャを、フィジャ達を取られる。――知らない誰か、なんて、のんきなことは言ってられない。フィジャに至っては、具体的な人までいる。
 いつまでも、中途半端な気持ちのままでいたら、フィジャに愛想をつかされて――。
 そんな未来、考えたくもない。でも、もしかしたら、このまま行けばあり得ない未来ではないのかも……。

 そんなことを考えるのは、フィジャたちに失礼、と思う半面で、最悪の結末にならないように、あらゆる可能性を考えて置くべき、という感情が同時に生まれる。
 折角イエリオに紹介してもらったお店だったのに、わたしは味もろくに分からないまま、ただただ料理を胃に詰め込んだ。
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