260 / 452
第四部
257
しおりを挟む
そして数日後。
ウィルフさんが全て話す、と決めてから、珍しく四人の休日が重なった、ということで、今日、全員に集まってもらっている。自分で依頼を受けるかどうかを決めて休日を調節出来るウィルフさんはともかく、他の三人は休日を合わせようとすると事前に決めておかないと上手く合わないことが多いため、こうして休みが重なることはそうそうにないらしい。
決意が鈍らないうちに、と、ウィルフさんは今日、話すことに決めたそうだ。
――と言っても、わたしは席を外しているんだけど。
四人だけの話、というわけでもないけど、ウィルフさん自身がずっと抱えてきたものなので、下手に最近加わったわたしも同席するより、いない方がいいかと思ったのだ。
一緒にいた方がいい? と一応聞いたが、「どっちでもいい」という返答だったし。
気にならない、と言ったら嘘になるけど、でも、あの三人がウィルフさんを非難する姿はあんまり想像できない。
きっと大丈夫、と信じて、わたしは別室でウィルフさんへ送るチョーカーのチャームへと、魔法付与をしてしまうことにした。
彼はなんといっても、防御力と回復力を底上げするようなものを付けたい。攻撃力自体は彼自身の力で既に結構あるみたいだし。
実力のある彼の妨げにならない範囲がいいだろう。
これから先、今回の様に危険な場所に出向くウィルフさんが、無事に帰ってこれますように。
そんなことを願いながら、わたしはチャームの石へ魔法付与を行う。
――しかし。
「……あれ、うわっ!?」
石への魔法付与は問題なく進められている。しかし、ふと違和感に気が付いて頭を触ると、猫耳が消えていた。気が付かない内に変態〈トラレンス〉の効果がなくなっていたようだ。
「……? おかしいな……」
魔法付与をした石を確認しても、普通に出来ている。でも、なんだか、体内に残っている魔力が少ないような気がする。
加齢と共に魔力の総量は減る人がほとんどだ、と師匠は言っていたし、実際、歳を取るほど能力が落ちる、というのは理解出来る話だが、わたしがこっちに来てからまだ半年程度しか経っていない。
そりゃあ、今まででは考えられないくらい無茶な魔法の使い方はしたけれど。
でも、どちらかというと、総量が減った、というより、回復が追い付いていない、というだけの気もする。現に今、ちょっと眠い。
前まで、この程度の魔法付与で眠い、と感じたことはなかったし。
魔力の回復の基本は、一に睡眠、二に食事だ。つい先日まで野宿の日々で、しっかり睡眠が取れていたか、というとそんなことはないが、でも、帰ってきてからはしっかり寝ているので、今までだったらそれで十分回復出来ていたはず。
となると……食事か。
もしかしたら、食事が合わないのかも……と、以前の食事と今の食事を脳内で比較する。
完全に食べることができないのはシーバイズのソウルフード、エンエンマメとシオイモだが、でも別に魔法使いはシーバイズ人以外でも一杯いるわけだし、それが原因ではないと思う。
……あとは、師匠と兄弟子の作った野菜、か。
師匠と一番弟子の兄弟子は、二人そろって植物を育てるのが好きだった。温室の管理とかもめちゃくちゃ厳しかったし、正直あの二人が魔力の回復を早める野菜とかを育てていても、なんら不思議はない。
それに、今は語彙増加〈イースリメス〉と変態〈トラレンス〉を使っている状況。魔法の発動を止めても効果が残るタイプの魔法が苦手なわたしは、普通の人と違って本来必要ないはずの、定期的な魔力供給が必要なのである。
そう考えると、回復量が以前より落ちて、わたしの思う魔力量に追い付いていない、と考えても不思議じゃない。というかむしろ、今までどうして気が付かなかったのか。
「これからはちょっと魔法の使い方、考えないと……」
まあ、元より魔法が使えることはなるべくバレたくないわけだし。これまで以上に気を付けないと。
とはいえ、元の姿のままでいるのもまずいので、わたしは再度、変態〈トラレンス〉をかけなおす。
魔法付与の方は終わったので、問題はあるまい。
わたしはチョーカーを紙袋に戻し、少しだけ仮眠をするのだった。
ウィルフさんが全て話す、と決めてから、珍しく四人の休日が重なった、ということで、今日、全員に集まってもらっている。自分で依頼を受けるかどうかを決めて休日を調節出来るウィルフさんはともかく、他の三人は休日を合わせようとすると事前に決めておかないと上手く合わないことが多いため、こうして休みが重なることはそうそうにないらしい。
決意が鈍らないうちに、と、ウィルフさんは今日、話すことに決めたそうだ。
――と言っても、わたしは席を外しているんだけど。
四人だけの話、というわけでもないけど、ウィルフさん自身がずっと抱えてきたものなので、下手に最近加わったわたしも同席するより、いない方がいいかと思ったのだ。
一緒にいた方がいい? と一応聞いたが、「どっちでもいい」という返答だったし。
気にならない、と言ったら嘘になるけど、でも、あの三人がウィルフさんを非難する姿はあんまり想像できない。
きっと大丈夫、と信じて、わたしは別室でウィルフさんへ送るチョーカーのチャームへと、魔法付与をしてしまうことにした。
彼はなんといっても、防御力と回復力を底上げするようなものを付けたい。攻撃力自体は彼自身の力で既に結構あるみたいだし。
実力のある彼の妨げにならない範囲がいいだろう。
これから先、今回の様に危険な場所に出向くウィルフさんが、無事に帰ってこれますように。
そんなことを願いながら、わたしはチャームの石へ魔法付与を行う。
――しかし。
「……あれ、うわっ!?」
石への魔法付与は問題なく進められている。しかし、ふと違和感に気が付いて頭を触ると、猫耳が消えていた。気が付かない内に変態〈トラレンス〉の効果がなくなっていたようだ。
「……? おかしいな……」
魔法付与をした石を確認しても、普通に出来ている。でも、なんだか、体内に残っている魔力が少ないような気がする。
加齢と共に魔力の総量は減る人がほとんどだ、と師匠は言っていたし、実際、歳を取るほど能力が落ちる、というのは理解出来る話だが、わたしがこっちに来てからまだ半年程度しか経っていない。
そりゃあ、今まででは考えられないくらい無茶な魔法の使い方はしたけれど。
でも、どちらかというと、総量が減った、というより、回復が追い付いていない、というだけの気もする。現に今、ちょっと眠い。
前まで、この程度の魔法付与で眠い、と感じたことはなかったし。
魔力の回復の基本は、一に睡眠、二に食事だ。つい先日まで野宿の日々で、しっかり睡眠が取れていたか、というとそんなことはないが、でも、帰ってきてからはしっかり寝ているので、今までだったらそれで十分回復出来ていたはず。
となると……食事か。
もしかしたら、食事が合わないのかも……と、以前の食事と今の食事を脳内で比較する。
完全に食べることができないのはシーバイズのソウルフード、エンエンマメとシオイモだが、でも別に魔法使いはシーバイズ人以外でも一杯いるわけだし、それが原因ではないと思う。
……あとは、師匠と兄弟子の作った野菜、か。
師匠と一番弟子の兄弟子は、二人そろって植物を育てるのが好きだった。温室の管理とかもめちゃくちゃ厳しかったし、正直あの二人が魔力の回復を早める野菜とかを育てていても、なんら不思議はない。
それに、今は語彙増加〈イースリメス〉と変態〈トラレンス〉を使っている状況。魔法の発動を止めても効果が残るタイプの魔法が苦手なわたしは、普通の人と違って本来必要ないはずの、定期的な魔力供給が必要なのである。
そう考えると、回復量が以前より落ちて、わたしの思う魔力量に追い付いていない、と考えても不思議じゃない。というかむしろ、今までどうして気が付かなかったのか。
「これからはちょっと魔法の使い方、考えないと……」
まあ、元より魔法が使えることはなるべくバレたくないわけだし。これまで以上に気を付けないと。
とはいえ、元の姿のままでいるのもまずいので、わたしは再度、変態〈トラレンス〉をかけなおす。
魔法付与の方は終わったので、問題はあるまい。
わたしはチョーカーを紙袋に戻し、少しだけ仮眠をするのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
592
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる