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第二部
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「――っと、……ちょっと! 生きてる?」
「……なに……おはようございます……?」
目をあけると、イナリさんがいた。
いつの間にか寝ていたらしい。転生特典なのかたまたまなのか知らないが、魔力量の多いわたしでも、魔力を使い切ることはあるわけで。
まあ、魔法の習得に夢中になると、寝食を忘れることは、ままある。難しい魔法相手だと、特にそう。
今回も忘れてしまっていたようで、気が付けば床の上で寝ていたようだ。
わたしが、くあ、とあくびをすると、イナリさんが少し怒ったように言った。
「……っ、流石の僕でも、頭から血を流して床に横たわってたら、びっくりするんだけど」
「……血?」
なんのこっちゃとわたしは自分の頭をさわる。後頭部や頭頂部には異変がなかったが、右の側頭部を触った瞬間、ぬるっとした感触が指先に伝わり、同時に痛みが走った。
「痛っ!? なんですかこれ!?」
「僕が聞いてるんだけど?」
もう一回恐る恐る触ってみると、耳の辺りに傷が出来ているようだ。……ん? 耳?
「ああー……やらかした」
魔法陣の方に夢中になっていたせいで、変態〈トラレンス〉が解けてしまったらしい。それに気が付かないで、なんかかゆい、と無意識にかいてしまったんだろう。この魔法も、言語理解〈インスティーング〉じゃないにしろ頭が痛くなるので、かいているときには気が付かなかったようだ。
試しに頭の上の方を触ってみれば、猫耳が消えている。しっぽもない。完全に人間に戻っていた。
でも、しばらくはこのままの方が逆にいいかもしれない。また変態〈トラレンス〉を使うのもいいかもしれないが、この様子だとまた勝手に解除されるかもしれないので。
「……ところでイナリさんは何故ここに?」
「様子見に行って欲しいって、フィジャに頼まれたんだよ」
……そう言えば、あれからフィジャのお見舞いに行けてない。早くなんとかしなくちゃ! という気持ちだけが先走っている。
「……魔法で、なんとかなりそうなの?」
イナリさんも、やっぱり気になるんだろう。少し、不安そうに目線を落としていた。
「大丈夫です、あと、少しのところなので」
ようやくあと一歩のところで寝落ちしてしまったが、魔力さえ回復すれば魔法を発動し、言語を習得することが出来る。
ここからがむしろ本番なのだが、でも、どうにもならないと思っていたあの頃よりも、確実に前に進んでいる。
「とりあえず、耳の手当をして、もうひと眠り、しっかり寝てから再度チャレンジします。……今度こそ、成功させますので」
本当は今すぐに続きをしたかったけれど、寝落ちするくらい魔力が枯渇しているなら、一度寝た方がいい。
魔力がなくなっても、死ぬことはないのだが、いかんせん眠くなる。無理につづけたところでろくな結果にならないだろう。
しかも、タイミングを計ったように、くるる、とわたしのお腹が鳴った。寝るのを忘れていたのなら、食べるのも忘れていたので、まあ、当然の悲鳴なのだが。
時間を見れば、少し早いけれど夕食時の時刻だった。今から作れば、いい感じの時間になるだろう。なにせわたしは手が遅いので。
「何かイナリさんも食べていきますか? ……わたしの作ったご飯になりますけど」
わたしは言いながら、救急箱を取り出し、耳の手当をする。
ちょっと飲み会のときの当てつけみたいになってしまったが、まあ意識しないで言ったわけじゃない。
イナリさんも分かって、少し気まずいのか、目線をそらされた。
「……貰うよ」
「そうですか、それはよかった。家ができた暁には、わたしの料理にも慣れてもらわないと困るので」
そう言うと、イナリさんはちょっと驚いたような顔をした。
おっ、今喧嘩売られたか?
「何ですか、その顔」
「いや、その……君も作るんだなって。悪い意味じゃない。フィジャの腕が治るなら、フィジャにまかせるのかとばかり」
ホントか? 本当にそう思ってるのか?
……まあ、ここで喧嘩しても意味がないので、ちょっとむっと来たことは黙っておく。
「フィジャばっかりに任せたら、かわいそうでしょう。分担しようって約束してるので」
「……そうなんだ」
「フィジャよりまずいかもしれませんが、食べられないものは作らないので。しっかり慣れてくださいね?」
わたしはそう言って、手当の道具を片付けてキッチンへと向かう。ちなみに、フィジャから入院中は、自由に使っていいと許可は得ている。
予想通り作るのに時間はかかってしまい、その間に、同じく様子を見に来たイエリオさんがやってきて、三人で夕食を取ることになるのだった。
「……なに……おはようございます……?」
目をあけると、イナリさんがいた。
いつの間にか寝ていたらしい。転生特典なのかたまたまなのか知らないが、魔力量の多いわたしでも、魔力を使い切ることはあるわけで。
まあ、魔法の習得に夢中になると、寝食を忘れることは、ままある。難しい魔法相手だと、特にそう。
今回も忘れてしまっていたようで、気が付けば床の上で寝ていたようだ。
わたしが、くあ、とあくびをすると、イナリさんが少し怒ったように言った。
「……っ、流石の僕でも、頭から血を流して床に横たわってたら、びっくりするんだけど」
「……血?」
なんのこっちゃとわたしは自分の頭をさわる。後頭部や頭頂部には異変がなかったが、右の側頭部を触った瞬間、ぬるっとした感触が指先に伝わり、同時に痛みが走った。
「痛っ!? なんですかこれ!?」
「僕が聞いてるんだけど?」
もう一回恐る恐る触ってみると、耳の辺りに傷が出来ているようだ。……ん? 耳?
「ああー……やらかした」
魔法陣の方に夢中になっていたせいで、変態〈トラレンス〉が解けてしまったらしい。それに気が付かないで、なんかかゆい、と無意識にかいてしまったんだろう。この魔法も、言語理解〈インスティーング〉じゃないにしろ頭が痛くなるので、かいているときには気が付かなかったようだ。
試しに頭の上の方を触ってみれば、猫耳が消えている。しっぽもない。完全に人間に戻っていた。
でも、しばらくはこのままの方が逆にいいかもしれない。また変態〈トラレンス〉を使うのもいいかもしれないが、この様子だとまた勝手に解除されるかもしれないので。
「……ところでイナリさんは何故ここに?」
「様子見に行って欲しいって、フィジャに頼まれたんだよ」
……そう言えば、あれからフィジャのお見舞いに行けてない。早くなんとかしなくちゃ! という気持ちだけが先走っている。
「……魔法で、なんとかなりそうなの?」
イナリさんも、やっぱり気になるんだろう。少し、不安そうに目線を落としていた。
「大丈夫です、あと、少しのところなので」
ようやくあと一歩のところで寝落ちしてしまったが、魔力さえ回復すれば魔法を発動し、言語を習得することが出来る。
ここからがむしろ本番なのだが、でも、どうにもならないと思っていたあの頃よりも、確実に前に進んでいる。
「とりあえず、耳の手当をして、もうひと眠り、しっかり寝てから再度チャレンジします。……今度こそ、成功させますので」
本当は今すぐに続きをしたかったけれど、寝落ちするくらい魔力が枯渇しているなら、一度寝た方がいい。
魔力がなくなっても、死ぬことはないのだが、いかんせん眠くなる。無理につづけたところでろくな結果にならないだろう。
しかも、タイミングを計ったように、くるる、とわたしのお腹が鳴った。寝るのを忘れていたのなら、食べるのも忘れていたので、まあ、当然の悲鳴なのだが。
時間を見れば、少し早いけれど夕食時の時刻だった。今から作れば、いい感じの時間になるだろう。なにせわたしは手が遅いので。
「何かイナリさんも食べていきますか? ……わたしの作ったご飯になりますけど」
わたしは言いながら、救急箱を取り出し、耳の手当をする。
ちょっと飲み会のときの当てつけみたいになってしまったが、まあ意識しないで言ったわけじゃない。
イナリさんも分かって、少し気まずいのか、目線をそらされた。
「……貰うよ」
「そうですか、それはよかった。家ができた暁には、わたしの料理にも慣れてもらわないと困るので」
そう言うと、イナリさんはちょっと驚いたような顔をした。
おっ、今喧嘩売られたか?
「何ですか、その顔」
「いや、その……君も作るんだなって。悪い意味じゃない。フィジャの腕が治るなら、フィジャにまかせるのかとばかり」
ホントか? 本当にそう思ってるのか?
……まあ、ここで喧嘩しても意味がないので、ちょっとむっと来たことは黙っておく。
「フィジャばっかりに任せたら、かわいそうでしょう。分担しようって約束してるので」
「……そうなんだ」
「フィジャよりまずいかもしれませんが、食べられないものは作らないので。しっかり慣れてくださいね?」
わたしはそう言って、手当の道具を片付けてキッチンへと向かう。ちなみに、フィジャから入院中は、自由に使っていいと許可は得ている。
予想通り作るのに時間はかかってしまい、その間に、同じく様子を見に来たイエリオさんがやってきて、三人で夕食を取ることになるのだった。
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