103 / 452
第二部
102
しおりを挟む
「――っと、……ちょっと! 生きてる?」
「……なに……おはようございます……?」
目をあけると、イナリさんがいた。
いつの間にか寝ていたらしい。転生特典なのかたまたまなのか知らないが、魔力量の多いわたしでも、魔力を使い切ることはあるわけで。
まあ、魔法の習得に夢中になると、寝食を忘れることは、ままある。難しい魔法相手だと、特にそう。
今回も忘れてしまっていたようで、気が付けば床の上で寝ていたようだ。
わたしが、くあ、とあくびをすると、イナリさんが少し怒ったように言った。
「……っ、流石の僕でも、頭から血を流して床に横たわってたら、びっくりするんだけど」
「……血?」
なんのこっちゃとわたしは自分の頭をさわる。後頭部や頭頂部には異変がなかったが、右の側頭部を触った瞬間、ぬるっとした感触が指先に伝わり、同時に痛みが走った。
「痛っ!? なんですかこれ!?」
「僕が聞いてるんだけど?」
もう一回恐る恐る触ってみると、耳の辺りに傷が出来ているようだ。……ん? 耳?
「ああー……やらかした」
魔法陣の方に夢中になっていたせいで、変態〈トラレンス〉が解けてしまったらしい。それに気が付かないで、なんかかゆい、と無意識にかいてしまったんだろう。この魔法も、言語理解〈インスティーング〉じゃないにしろ頭が痛くなるので、かいているときには気が付かなかったようだ。
試しに頭の上の方を触ってみれば、猫耳が消えている。しっぽもない。完全に人間に戻っていた。
でも、しばらくはこのままの方が逆にいいかもしれない。また変態〈トラレンス〉を使うのもいいかもしれないが、この様子だとまた勝手に解除されるかもしれないので。
「……ところでイナリさんは何故ここに?」
「様子見に行って欲しいって、フィジャに頼まれたんだよ」
……そう言えば、あれからフィジャのお見舞いに行けてない。早くなんとかしなくちゃ! という気持ちだけが先走っている。
「……魔法で、なんとかなりそうなの?」
イナリさんも、やっぱり気になるんだろう。少し、不安そうに目線を落としていた。
「大丈夫です、あと、少しのところなので」
ようやくあと一歩のところで寝落ちしてしまったが、魔力さえ回復すれば魔法を発動し、言語を習得することが出来る。
ここからがむしろ本番なのだが、でも、どうにもならないと思っていたあの頃よりも、確実に前に進んでいる。
「とりあえず、耳の手当をして、もうひと眠り、しっかり寝てから再度チャレンジします。……今度こそ、成功させますので」
本当は今すぐに続きをしたかったけれど、寝落ちするくらい魔力が枯渇しているなら、一度寝た方がいい。
魔力がなくなっても、死ぬことはないのだが、いかんせん眠くなる。無理につづけたところでろくな結果にならないだろう。
しかも、タイミングを計ったように、くるる、とわたしのお腹が鳴った。寝るのを忘れていたのなら、食べるのも忘れていたので、まあ、当然の悲鳴なのだが。
時間を見れば、少し早いけれど夕食時の時刻だった。今から作れば、いい感じの時間になるだろう。なにせわたしは手が遅いので。
「何かイナリさんも食べていきますか? ……わたしの作ったご飯になりますけど」
わたしは言いながら、救急箱を取り出し、耳の手当をする。
ちょっと飲み会のときの当てつけみたいになってしまったが、まあ意識しないで言ったわけじゃない。
イナリさんも分かって、少し気まずいのか、目線をそらされた。
「……貰うよ」
「そうですか、それはよかった。家ができた暁には、わたしの料理にも慣れてもらわないと困るので」
そう言うと、イナリさんはちょっと驚いたような顔をした。
おっ、今喧嘩売られたか?
「何ですか、その顔」
「いや、その……君も作るんだなって。悪い意味じゃない。フィジャの腕が治るなら、フィジャにまかせるのかとばかり」
ホントか? 本当にそう思ってるのか?
……まあ、ここで喧嘩しても意味がないので、ちょっとむっと来たことは黙っておく。
「フィジャばっかりに任せたら、かわいそうでしょう。分担しようって約束してるので」
「……そうなんだ」
「フィジャよりまずいかもしれませんが、食べられないものは作らないので。しっかり慣れてくださいね?」
わたしはそう言って、手当の道具を片付けてキッチンへと向かう。ちなみに、フィジャから入院中は、自由に使っていいと許可は得ている。
予想通り作るのに時間はかかってしまい、その間に、同じく様子を見に来たイエリオさんがやってきて、三人で夕食を取ることになるのだった。
「……なに……おはようございます……?」
目をあけると、イナリさんがいた。
いつの間にか寝ていたらしい。転生特典なのかたまたまなのか知らないが、魔力量の多いわたしでも、魔力を使い切ることはあるわけで。
まあ、魔法の習得に夢中になると、寝食を忘れることは、ままある。難しい魔法相手だと、特にそう。
今回も忘れてしまっていたようで、気が付けば床の上で寝ていたようだ。
わたしが、くあ、とあくびをすると、イナリさんが少し怒ったように言った。
「……っ、流石の僕でも、頭から血を流して床に横たわってたら、びっくりするんだけど」
「……血?」
なんのこっちゃとわたしは自分の頭をさわる。後頭部や頭頂部には異変がなかったが、右の側頭部を触った瞬間、ぬるっとした感触が指先に伝わり、同時に痛みが走った。
「痛っ!? なんですかこれ!?」
「僕が聞いてるんだけど?」
もう一回恐る恐る触ってみると、耳の辺りに傷が出来ているようだ。……ん? 耳?
「ああー……やらかした」
魔法陣の方に夢中になっていたせいで、変態〈トラレンス〉が解けてしまったらしい。それに気が付かないで、なんかかゆい、と無意識にかいてしまったんだろう。この魔法も、言語理解〈インスティーング〉じゃないにしろ頭が痛くなるので、かいているときには気が付かなかったようだ。
試しに頭の上の方を触ってみれば、猫耳が消えている。しっぽもない。完全に人間に戻っていた。
でも、しばらくはこのままの方が逆にいいかもしれない。また変態〈トラレンス〉を使うのもいいかもしれないが、この様子だとまた勝手に解除されるかもしれないので。
「……ところでイナリさんは何故ここに?」
「様子見に行って欲しいって、フィジャに頼まれたんだよ」
……そう言えば、あれからフィジャのお見舞いに行けてない。早くなんとかしなくちゃ! という気持ちだけが先走っている。
「……魔法で、なんとかなりそうなの?」
イナリさんも、やっぱり気になるんだろう。少し、不安そうに目線を落としていた。
「大丈夫です、あと、少しのところなので」
ようやくあと一歩のところで寝落ちしてしまったが、魔力さえ回復すれば魔法を発動し、言語を習得することが出来る。
ここからがむしろ本番なのだが、でも、どうにもならないと思っていたあの頃よりも、確実に前に進んでいる。
「とりあえず、耳の手当をして、もうひと眠り、しっかり寝てから再度チャレンジします。……今度こそ、成功させますので」
本当は今すぐに続きをしたかったけれど、寝落ちするくらい魔力が枯渇しているなら、一度寝た方がいい。
魔力がなくなっても、死ぬことはないのだが、いかんせん眠くなる。無理につづけたところでろくな結果にならないだろう。
しかも、タイミングを計ったように、くるる、とわたしのお腹が鳴った。寝るのを忘れていたのなら、食べるのも忘れていたので、まあ、当然の悲鳴なのだが。
時間を見れば、少し早いけれど夕食時の時刻だった。今から作れば、いい感じの時間になるだろう。なにせわたしは手が遅いので。
「何かイナリさんも食べていきますか? ……わたしの作ったご飯になりますけど」
わたしは言いながら、救急箱を取り出し、耳の手当をする。
ちょっと飲み会のときの当てつけみたいになってしまったが、まあ意識しないで言ったわけじゃない。
イナリさんも分かって、少し気まずいのか、目線をそらされた。
「……貰うよ」
「そうですか、それはよかった。家ができた暁には、わたしの料理にも慣れてもらわないと困るので」
そう言うと、イナリさんはちょっと驚いたような顔をした。
おっ、今喧嘩売られたか?
「何ですか、その顔」
「いや、その……君も作るんだなって。悪い意味じゃない。フィジャの腕が治るなら、フィジャにまかせるのかとばかり」
ホントか? 本当にそう思ってるのか?
……まあ、ここで喧嘩しても意味がないので、ちょっとむっと来たことは黙っておく。
「フィジャばっかりに任せたら、かわいそうでしょう。分担しようって約束してるので」
「……そうなんだ」
「フィジャよりまずいかもしれませんが、食べられないものは作らないので。しっかり慣れてくださいね?」
わたしはそう言って、手当の道具を片付けてキッチンへと向かう。ちなみに、フィジャから入院中は、自由に使っていいと許可は得ている。
予想通り作るのに時間はかかってしまい、その間に、同じく様子を見に来たイエリオさんがやってきて、三人で夕食を取ることになるのだった。
20
お気に入りに追加
612
あなたにおすすめの小説
転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです
狼蝶
恋愛
転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?
学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
美醜逆転の異世界で私は恋をする
抹茶入りココア
恋愛
気が付いたら私は森の中にいた。その森の中で頭に犬っぽい耳がある美青年と出会う。
私は美醜逆転していて女性の数が少ないという異世界に来てしまったみたいだ。
そこで出会う人達に大事にされながらその世界で私は恋をする。
男女比が偏っている異世界に転移して逆ハーレムを築いた、その後の話
やなぎ怜
恋愛
花嫁探しのために異世界から集団で拉致されてきた少女たちのひとりであるユーリ。それがハルの妻である。色々あって学生結婚し、ハルより年上のユーリはすでに学園を卒業している。この世界は著しく男女比が偏っているから、ユーリには他にも夫がいる。ならば負けないようにストレートに好意を示すべきだが、スラム育ちで口が悪いハルは素直な感情表現を苦手としており、そのことをもどかしく思っていた。そんな中でも、妊娠適正年齢の始まりとして定められている二〇歳の誕生日――有り体に言ってしまえば「子作り解禁日」をユーリが迎える日は近づく。それとは別に、ユーリたち拉致被害者が元の世界に帰れるかもしれないという噂も立ち……。
順風満帆に見えた一家に、ささやかな波風が立つ二日間のお話。
※作品の性質上、露骨に性的な話題が出てきます。
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける
朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。
お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン
絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。
「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」
「えっ!? ええぇぇえええ!!!」
この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。
拝啓、前世の私。今世では美醜逆転世界で男装しながら王子様の護衛騎士をすることになりました
奈風 花
恋愛
双子の兄アイザックの変わりに、王子の学友·····護衛騎士をするように命じられた主人公アイーシャと、美醜逆転世界で絶世の醜男と比喩される、主人公からしたらめっちゃイケかわ王子とのドキドキワクワクな学園生活!
に、する予定です。
要約しますと、
男前男装騎士×天使なイケかわ王子のすれ違いラブコメディーです。
注意:男性のみ美醜が逆転しております。
何でも許せる方。お暇なあなた!
宜しければ読んでくれると·····、ついでにお気に入りや感想などをくれると·····、めっちゃ飛び跳ねて喜びますので、どうぞよろしくお願いいたします┏○))ペコリ
作りながら投稿しているので、
投稿は不定期更新となります。
物語の変更があり次第、あらすじが変わる可能性も·····。
こんな初心者作者ですが、頑張って綴って行こうと思うので、皆様、お手柔らかによろしくお願いいたします┏○))ペコリ
気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。
sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。
気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。
※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。
!直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。
※小説家になろうさんでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる