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第二部

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「マレーゼは……なんていうか、やりすぎだと思うんだよねぇ」

 バリ、とおおよそクッキーらしくない音を立てながら、フィジャが言った。
 クッキーってもっと、サクッとか、ホロ、とか、そんな感じの擬音が似合うお菓子じゃないだろうか。というかそもそもクッキーって食べる時にそんなに音出るか?
 そんな風に思いながら、わたしも焼きたてのクッキーを食べてみると、びっくりするくらい固かった。クッキーってこんな固くなるもなんだ……。

 丁度おやつどき前に家につき、そこから作り始めたのでもう夕飯前。全部食べる夜ごはんが入らなくなるからと、少しだけ味見をすることになったわけだが、焼きたてでこれだけ固いって、時間がたったらもっと固くならないだろうか。

「とりあえず、イエリオみたいに、変にアレンジするタイプの人間じゃなくて安心した」

「自分の身の程を分かってるので、それは流石に……」

 現状のわたしの実力を知るため、作り方だけは教えてもらったが、細かいアドバイスはなしに作ったのがこのクッキーだ。教しえてもらったレシピ通りに作ったつもりなんだけどな、わたし的には……。

「もっと力を抜いて作業していいというか……。一つひとつの工程に力を使い過ぎなんだよ。それで手際が悪くなっちゃってるんじゃないかな」

「なる……ほど?」

 確かに、横でフィジャもクッキーを作っていたが、生地が出来上がって冷蔵庫に寝かせるまで、全然時間が違った。普段の慣れからの手際の違いもあるだろうが、一つひとつにかける時間が違うのもあったのか。

「とりあえず、今回のクッキーに関しては生地を混ぜすぎたことだね。というかそもそも、クッキーの生地って練らないから」

「えっ、そうなの? 生地まとまらなくない?」

「まとまるよ」

 はい、とフィジャに渡されたのは、市松模様(この世界でも市松模様っていうのかは知らないけど)のクッキーだった。……おかしいな、わたしと同じように作っていたはずなのに、わたしのプレーンなクッキーとは違う……。一体いつの間に。
 フィジャのクッキーを食べると、焼きたてクッキー独特の、じゅわっと口の中でほどける。

 これ本当に同じお菓子? 同じ材料で作った? というほど、全然食感が違った。食感が違うだけで、味も全然違うものに感じる。市松模様が付いている分、多少違うのは分かるけど。

「うーん……確かに、練らなくてもちゃんと焼けるんだ……――あっ、そっちわたしが責任もって食べるから置いておいて」

 わたし産のクッキーとフィジャ産のクッキーの違いにショックを受けているわたしの傍らで、フィジャが片付けを始めたので慌ててわたしもそれに参加する。
 こんなバリバリクッキーでも、固さや風味以外には問題がない。まあ、フィジャと一緒に計量したのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。
 普通に食べられるので、あとで食べちゃおう、と思っていたのだが……。

「ううん、これはボクが食べたい。……駄目?」

「別に駄目じゃないけど……」

 こっちにフィジャが作った美味しいクッキーがあるのに。わざわざ美味しくないわたしのクッキーを食べなくったっていいじゃない。
 そう思ったのだが、フィジャはそっちが食べたいらしい。

「じゃ、駄目じゃないならボク貰うね」

 そういってクッキーやら天板やらを片付けるフィジャはどこか楽しそうだった。
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