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第二部

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「あー、楽しかった!」

 わたしは、ただいまーとフィジャの家につくと思わずそんな声を出してしまった。
 ちょっとランチを食べて、買い物をして、なだけのお出かけではあったが、めちゃくちゃ楽しかった。ご飯は美味しかったし、あれこれ街並みを散策できたし、やったとこ自体はたいしたことではないが、めちゃくちゃ充実した一日だった。

 まあ、これからフィジャに料理とお菓子作りを教えてもうというイベントがまだ残っているのだが。

「フィジャ、花はこの辺に置いておいて平気?」

「あ、花瓶……はないから適当なコップに水でも――」

「平気だよー」

 わたしは棚の上に花を置き、「保存〈キピング〉」と詠唱した。この保存魔法は物の状態を保存しておく魔法だ。ちなみに長期間保存するより、大きなものを保存する方が魔力を使うので疲れる。このくらいなら全然平気だが。

「便利だねぇ」

 これでよし、と花を見ているわたしの後ろから、フィジャが覗き込むように花を見ている。

「便利でしょ」

 シーバイズ時代――千年前に栄える技術なだけあって、めちゃくちゃ便利ではある。治癒系の魔法とか、一部は魔法習得だけじゃなくて専門的な知識も必要な魔法はあるけど、便利には違いない。

「イエリオじゃないけどさ、魔法を広める気はないの?」

「うーん……」

 確かにこれが広まったら便利そうではあるけど……。

「わたしに魔法を教えてくれた師匠が感覚派の人間だったから、魔法の教え方、分からないんだよね。ちょっと厳しいかも」

 研究を進めるときにはちゃんと言葉にできるのに、いざ人に教えるときは雑な人だった。どこまで他人が基本や土台を理解しているか、共有できないんだと思う。
 師匠から直接教わらず、ちらほらと独学で習得した魔法もあるものの、やっぱり基本は教えてもらったものなので、感覚派な教え方しか出来ない。頭では理解しているが、それを上手く言語化できる気がしないのだ。
 ましてや、魔法の文献が『多少』というレベルでしか残っていない現代で、どこまで魔法が教えられるというのか……。うん、無理だな。

「無理に覚えなくたって、わたしからしたら、フィジャの料理の腕の方も魔法みたいなものよ。流石プロ」

 料理系の魔法も知識がないと上手くいかないことが多い。治癒魔法ほど厳格に必要なわけじゃないけど、ある程度作り方とか知らないと完成しないからね。

「と言うわけで、さっそくご指導よろしくお願いしまーす、先生」

 ちょっとからかうように言えば、「もー」と照れているんだか呆れているんだか分からないような声をあげ、フィジャが笑う。
 しょうがないなあ、と言わんばかりの笑みではあるが、まんざらでもないっぽい。

「じゃあ、とりあえずクッキーから作ろうか。手を洗って」

「はーい」

 わたしは花の置かれた棚から離れ、腕まくりをしながらキッチンへと向かった。
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