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4_帰宅
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今や政府が星を挙げて、密猟及び売買、飼育までもを取り締まっている問題の外来生物・地球人が、裸のまま寝ている。
自分の触手の中で。
嘘みたいだが、これはまぎれもない現実だ。
ティフォは自分のベッドに、地球人をそっと寝かせると、その軽い寝息に耳をそばだてた。
慎重に地球人の体調を観察する。
触手生命体は体こそ地球人と変わらない大きさだが、その何倍もの長さにもなる触手を有するがために、無駄に背が高く場所をとる。
そのため夜は丸い巣のようなベッドで眠るのだ。
高い天井からぶら下がる球の中ほどに穴があり、そこから入れば中はふかふかのベッドとなっている。
地球人には広すぎる繭型のベッドの真ん中で、小さく丸まって眠る地球人。
そんな地球人の背中に描かれているのは、触手に似た不思議な生き物の絵だ。傷付きながらも、ティフォを静かに見つめ返しているようだった。
ティフォは胸が痛んだ。
密売市場からひどい状態で発見され、送り込まれた先は保護施設という名の屠殺場。知らない星で、知らない触手生命体に囲まれ、言葉も分からないままに乱暴されて。どれだけ怖かったことだろう。
自分もその一員であることは目を背けたい事実だが、そういうわけにもいかない。
この地球人が許してくれるならば、時間をかけて償いたい。
ティフォは、今は名ばかりでも歴とした保護施設職員の端くれだ。この地球人がこれ以上の怖い思いをしなくていいように、最後まで責任を持って、大切に育ててやろうと決意も新たに触手を固く握りしめた。
今まで真面目に生きてきたティフォが、生まれて初めて犯す違法行為。それがこの地球人の保護と飼育にあたるのだ。
冷静になれば自分の行動を後悔するかもしれないと密かに心配していたのだが、ティフォは不思議と満ち足りた気持ちだった。
もう夜も遅い。明日の仕事のことを考えるなら早々に寝るべきだが、やらなくてはいけないことが山積している。
しかし仕事の時とは違い、楽しい気持ちがティフォの身体を軽くしてくれていた。
つっと触手を伸ばす。
ただの白い壁面にしか見えない壁をさっと触手が撫でると、薄ぼんやりと壁が発光し必要な薬が姿を現した。
まずは、疲れて眠る地球人の傷の手当てだ。背中の裂傷と、まだ赤く腫れている排泄腔に、数本の触手がそっと薬を塗り込めていく。薬は塗ったそばから肌に吸収され、薄い膜を作り傷口を保護していった。
地球人は深い眠りから目を覚まさない。よほど疲れているのだろう。
体毛や肌の色、私たちに比べて高い体温、たった四本しかない手足も、ティフォにはかわいく思えて仕方がない。
触手生命体に比べれば小さいものの、バランスの取れたがっしりした体躯に、あちこちに生える黒い体毛、男らしい交接器官。背中に鎮座する生き物の絵。
ティフォはこのまま鑑賞していたい気分をねじ伏せて、ひとまず家にあった部屋着を地球人にそっと着せておいた。
ケプラー惑星群の支配的生命体は、その手足が触手であることから、上半身をすっぽりと隠すようなシンプルな筒状の服を着ている。
当然だが地球人には大きすぎる。肩は出て、足先まですっぽりと隠れてしまった。
しかしこの地球人が目覚めた時に、何も着ていないよりはいくらかマシだろう。布は布だ。文化的生き物としての尊厳を守るためには、大切な物でもあるとティフォは知っている。
地球人にとりあえずの服をかぶせながら、他の触手で空中にネットワークを呼び出す。地球人用に小さな服をはじめとした必要と思われるあれやこれやを同時進行で注文していく。
地球人を飼うにあたって、環境を整えるために必要な物というのは、実はそれほど多くはないとティフォは知っている。地球人とティフォたち触手生命体は、見た目は違えど生活に関して大きな差異がないからだ。
残念なことにこの飼いやすさこそが、愛玩動物としての地球人の人気に繋がってしまったわけなのだが。
たった四本しかない手足でもこの地球人が快適に過ごせるように、ティフォは真剣に考える。
今こうやって手配しておけば、明日の朝には最低限のものを用意できるだろう。
ティフォにじっと見つめられているとも知らず、地球人は口元を緩めて寝ている。
その口元からよだれが垂れるのを優しく触手で拭いながら、顎にかけて生える髭を撫でた。
ティフォは触手で地球人を包み込みながら、地球人の眠るベッドに潜り込む。
(明日この地球人が目を覚ましたら、どんな名前で呼んであげようか)
これからのことをとりとめもなく考えながら、これほどまでに明日が楽しみなのはいつ以来だろうかと、ティフォはそっと目を閉じた。
自分の触手の中で。
嘘みたいだが、これはまぎれもない現実だ。
ティフォは自分のベッドに、地球人をそっと寝かせると、その軽い寝息に耳をそばだてた。
慎重に地球人の体調を観察する。
触手生命体は体こそ地球人と変わらない大きさだが、その何倍もの長さにもなる触手を有するがために、無駄に背が高く場所をとる。
そのため夜は丸い巣のようなベッドで眠るのだ。
高い天井からぶら下がる球の中ほどに穴があり、そこから入れば中はふかふかのベッドとなっている。
地球人には広すぎる繭型のベッドの真ん中で、小さく丸まって眠る地球人。
そんな地球人の背中に描かれているのは、触手に似た不思議な生き物の絵だ。傷付きながらも、ティフォを静かに見つめ返しているようだった。
ティフォは胸が痛んだ。
密売市場からひどい状態で発見され、送り込まれた先は保護施設という名の屠殺場。知らない星で、知らない触手生命体に囲まれ、言葉も分からないままに乱暴されて。どれだけ怖かったことだろう。
自分もその一員であることは目を背けたい事実だが、そういうわけにもいかない。
この地球人が許してくれるならば、時間をかけて償いたい。
ティフォは、今は名ばかりでも歴とした保護施設職員の端くれだ。この地球人がこれ以上の怖い思いをしなくていいように、最後まで責任を持って、大切に育ててやろうと決意も新たに触手を固く握りしめた。
今まで真面目に生きてきたティフォが、生まれて初めて犯す違法行為。それがこの地球人の保護と飼育にあたるのだ。
冷静になれば自分の行動を後悔するかもしれないと密かに心配していたのだが、ティフォは不思議と満ち足りた気持ちだった。
もう夜も遅い。明日の仕事のことを考えるなら早々に寝るべきだが、やらなくてはいけないことが山積している。
しかし仕事の時とは違い、楽しい気持ちがティフォの身体を軽くしてくれていた。
つっと触手を伸ばす。
ただの白い壁面にしか見えない壁をさっと触手が撫でると、薄ぼんやりと壁が発光し必要な薬が姿を現した。
まずは、疲れて眠る地球人の傷の手当てだ。背中の裂傷と、まだ赤く腫れている排泄腔に、数本の触手がそっと薬を塗り込めていく。薬は塗ったそばから肌に吸収され、薄い膜を作り傷口を保護していった。
地球人は深い眠りから目を覚まさない。よほど疲れているのだろう。
体毛や肌の色、私たちに比べて高い体温、たった四本しかない手足も、ティフォにはかわいく思えて仕方がない。
触手生命体に比べれば小さいものの、バランスの取れたがっしりした体躯に、あちこちに生える黒い体毛、男らしい交接器官。背中に鎮座する生き物の絵。
ティフォはこのまま鑑賞していたい気分をねじ伏せて、ひとまず家にあった部屋着を地球人にそっと着せておいた。
ケプラー惑星群の支配的生命体は、その手足が触手であることから、上半身をすっぽりと隠すようなシンプルな筒状の服を着ている。
当然だが地球人には大きすぎる。肩は出て、足先まですっぽりと隠れてしまった。
しかしこの地球人が目覚めた時に、何も着ていないよりはいくらかマシだろう。布は布だ。文化的生き物としての尊厳を守るためには、大切な物でもあるとティフォは知っている。
地球人にとりあえずの服をかぶせながら、他の触手で空中にネットワークを呼び出す。地球人用に小さな服をはじめとした必要と思われるあれやこれやを同時進行で注文していく。
地球人を飼うにあたって、環境を整えるために必要な物というのは、実はそれほど多くはないとティフォは知っている。地球人とティフォたち触手生命体は、見た目は違えど生活に関して大きな差異がないからだ。
残念なことにこの飼いやすさこそが、愛玩動物としての地球人の人気に繋がってしまったわけなのだが。
たった四本しかない手足でもこの地球人が快適に過ごせるように、ティフォは真剣に考える。
今こうやって手配しておけば、明日の朝には最低限のものを用意できるだろう。
ティフォにじっと見つめられているとも知らず、地球人は口元を緩めて寝ている。
その口元からよだれが垂れるのを優しく触手で拭いながら、顎にかけて生える髭を撫でた。
ティフォは触手で地球人を包み込みながら、地球人の眠るベッドに潜り込む。
(明日この地球人が目を覚ましたら、どんな名前で呼んであげようか)
これからのことをとりとめもなく考えながら、これほどまでに明日が楽しみなのはいつ以来だろうかと、ティフォはそっと目を閉じた。
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