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是非も無し

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『うわぁ。このヴァイオレットとかいう女、友達と呼んでいる人間を洗脳しやがった。そしてシャーロットは自虐でそれを解除しやがった……』

 クロちゃんがそんなことを言っていた。いやいや、いくらヴァイオレット様の保有魔力が高くても、さすがに洗脳魔法なんて使えるはずがないわよ? なにせ特定禁止魔術に指定されていて、誰も習うことができないのだから。

 と、ヴァイオレット様がクロちゃんに気づいたらしい。

「あら、にゃーにゃー騒がしいと思ったら、先ほどシャーロットを引っ掻いていた猫ね? あなたの飼い猫かしら?」

「あー、そんな感じですかね?」

 クロちゃんの言葉はちゃんと他の人には『にゃー』と聞こえているらしい。というか普段から高貴なヴァイオレット様が『にゃーにゃー』とか口にすると破壊力が凄いな。これが萌えという感情か……。

「オスかメスかは知りませんが、オスだったらちゃんと去勢するのですのよ? いい獣医を紹介してもいいですし」

 と、提案してくださるヴァイオレット様だった。彼女も屋敷でペットを飼っていらっしゃるからね。

 ちなみに飼っているのは魔物ばかりらしい。凶暴な魔物もヴァイオレット様を前にすれば大人しくなるのだとか。さすがは高貴なお人ね……。

『――にゃー!』

 去勢されてはたまらんとばかりに叫びながら逃げ出すクロちゃんだった。どうやらオスらしい。いやまぁ声色は男だったんだから当然か。

「そういえば、聞きましたわよ?」

 手にした扇子で私の鼻先をつんつんとつついてくるヴァイオレット様。なんだかやることなすこと全てが絵になる御方だ。

「聞きましたとは、なにを?」

「あの妹もどきが、シャーロットに対してずいぶんと無礼を働いたそうじゃありませんの」

「いやいや、妹もどきって」

 半分とはいえ私とアリスはちゃんと血が繋がっているんですから……。あ、平民の血が混じっている人間は貴族として認めない系ですか?

「わたくしの友人であるシャーロットに危害を加えるとは。あの半端者、いい度胸をしておりますわね」

「……ゆーじん?」

「? 友人でしょう?」

「ま、まさか友人だったとは……っ! 衝撃の事実……っ!」

「怒りますわよ?」

 ガシッと私の脳天を掴んでくるヴァイオレット様。あ、これあれだ。アイアンクローってヤツだ。というか私の頭ってそんなに掴みやすい以下略。

 幸いにしてまだ力は込められていない。まだアイアンクロー直前で止まっている。ここはなんとか誤魔化ごまかしてアイアンクローを回避しなくては!

「いや、いやいや、高貴なるヴァイオレット様が、こんな私なんぞのことを友人だと思ってくださっていたなんて、どうして予想することができましょうか?」

「……このわたくしが、友人でもない人間の元を訪れるため、わざわざ下町に来るとお思いで?」

「むむむ、それはたしかに。ヴァイオレット様って庶民が嫌いそうですし。王城近くの一等地以外は人間の住む場所じゃ無いと思っていそうですし。『乗っている馬車が庶民を轢いても構わず走り去りそうな貴族ランキング』があったら断トツで一位を取りそうですし……」

「…………」

 なぜかヴァイオレット様が私の頭を握った手に力を込めた! アイアンクローぅ!? 痛い痛い痛い! 痛いですヴァイオレット様! 頭割れそう! あなた強化魔法使うまでもなくゴリラなんですから自重してください!



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