泣いて謝っても許してあげない

あおい 千隼

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第三章 指切

第三十八話

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 物言いたげな龍哉の視線を遮るように遥希は背を向けると、封筒をひらいて中から招待状を取り出す。

 そこにはありふれた定型文の文言が印刷されていて、相手女性の趣味だろう白鳩やレースフラワーがエンボス加工で表現され華やかだ。しかもふたりのイニシャルを刻印した蝋印まで捺されている。

 文句の一文を見ながら遥希がつぶやく。

「新しい一歩を踏み出す──だって。幸せなんだ」

「……遥希」

 なで肩を更に落とすように下がる肩、淋しそうな背中が見ていられなくて腕に引きよせ包み込む。龍哉としてはこれで不安要素が片づいたという安堵もあるが、けれどショックを受け肩を震わす恋人は見たくない。

 声もあげずに涙する遥希を、龍哉は黙って抱きしめてやる。

「ごめんね。分かってたことなのに、物にして直面すると駄目みたい。けど平気だよ、覚悟はしてたから。当日は笑顔で祝福してやるさ」

「遥希……おまえ強いな」

 遥希の虚勢に胸がつまされてしまい、そう返すだけで精一杯だ。龍哉の胸にこつんと後頭部をあて、涙に潤む目で彼を仰ぎ見ながら遥希は気持ちを伝える。

「めそめそもしてられないしね。一応これでも男だからさ。それに龍哉がいてくれるから──ってのも大きいかな」

「おお、なんだよ可愛いこと言うじゃねえか。俺はどこにもいかねえよ、ずっとおまえのそばにいる。一緒に生きてくって決めてるからな」

「ふふ。じゃあまずは両手に溢れる彼女を減らしてから、もう一度プロポーズしてくれるかな」

「ぐっ……ンなモンはいねえ。俺にはおまえだけだ」

「はいはい」

 泳ぐ龍哉の目が可笑しくて小さく噴きだす。まだふっきれそうにはないが、それでも龍哉の存在に元気をもらっているのは確かだ。

 出席のところへ丸をつけると招待状を返信用封筒に収める遥希。笑顔にさせてくれたことに感謝をしながら、龍哉と仲良く出勤の準備を始めるのだった。
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