泣いて謝っても許してあげない

第三章 指切

第三十七話

　龍哉が遥希のマンションに転がり込んで一か月。早々に元住んでいた部屋を解約すると、段ボール三箱分の荷物と枕を抱えて「今日からお世話になります」と強引に同棲開始。

　強引なところが女性には人気のようだが、殊に遥希にとっては頭の痛くなるスペックだ。しかも人の話を聞くという耳は持ち合わせず、自分の都合のいいように解釈するのだ。

　我が道を走るのに巻き込むなと言いたいが、馬耳東風に意見をぶつけても疲れるだけだと諦めた。それからは適当に受け流し、今はそれなりにうまくやっている。

　一大から別れを告げられてからというもの、彼のことは思いださないように過ごしてきた遥希。けれど幼馴染という間柄が災いして、遥希を放っておいてはくれなかった。

　上司の娘と婚約をしたこと、ふたりの挙式が開かれる会場など、逐一こと細かな情報が遥希の耳に届く。一大と共通の友人などを経由し、昼夜逆転の生活をしている遥希に”良かれ”と流してくれるのだ。

　有り難くも迷惑な気遣い。けれど振られた相手の情報など知りたくはない──とは言えず、連絡がくるたび「ありがとう」と礼を言うしかなかった。

　そして遥希の心を完全に殺してしまう一枚の封書が届く。集合ポストから回収してきたのは龍哉、遥希に渡そうかと逡巡するものいつかは知れることだ、出勤まえだったが差しだす。

「これ……来てたぜ」

「ありがとう。いったい何──」

　白い封筒に寿が印刷された金のシール。差出人は一大と連名で婚約者の名前。開封しなくとも内容は理解できた、一大と彼女との結婚式招待状だった。