泣いて謝っても許してあげない

第三章 指切

第二十七話

「なあ、俺ら一緒に暮らさねえ？」

　出勤まえの遥希の部屋。

　毎日のように押しかけ旦那よろしく遥希のマンションに通う龍哉。食事の支度はひとりもふたりも大して変わらないからいいが、洗濯物など身の回りの世話が二倍になったのには参った。

　ひとりのときは部屋もさほど汚れることはなく、洗濯なども数日置きにまとめて片付ければよかった。けれど龍哉が入り浸るようになり家事量が大幅に増えてしまう。

　おかげで遥希はめきめきと主夫能力が磨かれて、舌の肥えた龍哉を満足させるため料理のレパートリーも増えた。今ではどこに出しても恥ずかしくない嫁だと、嬉しくのない称賛を龍哉から受ける始末だ。

　これで同棲にまでなったらどうなるか。家事能力のない龍哉の世話に明け暮れる結果となるなど、火を見るよりも明らかだ。

　辟易とした表情で遥希が言う。

「嫌です。俺はひとりの時間も欲しいから。それに男同士で暮らしてると知られたら、どんな噂が立つか分かったもんじゃないですし」

「ンなもん気にすんなって。それによ、俺のアパートより遥希ンとこのが店から近いしさ。俺らいつもつるんで出勤するべ？　だったら一緒に暮らしたほうが経済的じゃん。

それに客も俺らが仲良しだって知ってンし、同じ部屋から出入りしてるの見られたって問題ねえよ。つか新しい部屋探すか？　男ふたりじゃここ・・はちとキツイか。もっと広い部屋で──」

　まるで遥希の言葉をなかったものと無視をする男。

　斜め上の解釈をしておきながら、自分の要望をしっかりと盛り込み実現しようを夢を膨らませ語る。これは言うだけ無駄かと諦めるより他なかった。