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第三章 指切
第二十八話
しおりを挟むふたりで入るには手狭な風呂場で髪を洗っていれば背中を磨かれ、髪をタオルドライしていればその間に身体を拭かれといちいち世話を焼きたがる龍哉。
スーツを着ればネクタイを締めるのは龍哉の役目。思うところは山ほどあるが、すでに断わりの文句は出尽くしボキャブラリも枯渇した。黙ってされるがままを貫く。
はじめは周りの目を気にして龍哉を先に出勤させたあと時間差で遥希がマンションを出るという手段を講じていたが、それも「淋しいじゃん、一緒に行こうぜ」と二週間もせずにホスト同士が同伴出勤という結果に。
遥希の交友関係に煩い龍哉だが、客とのつき合いに口を出さないのが唯一の幸い。彼も仕事の邪魔はすまいと弁えているようで、太客とのデートも快く送り出してくれる。
そんな甘くてうっとおしい龍哉との同棲がひと月を迎えた頃のこと。
いつものように閉店後に事務室へ顔を出した遥希に、高峻が「俺さ、妻と別れるかもしれない」と相談を持ちかけてきた。
最近ずっと鬱ぎ込むような感じはしていたが、まさかそんな悩みを抱えているとは思いもしない。もちろん周囲に悟らせるようなメンタルを見せていたわけじゃない、遥希だからこそ高峻の些細な機微を感じ取っていたのだ。
ともあれ離婚問題とは穏やかではない告白だ。夫婦仲はいいと聞いていたが……。事務デスクで指を組み顔を伏せる高峻に、遥希は何があったのと静かに訳を訊く。
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