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第二章 耽溺
第七十九話
しおりを挟む諦め撃たれるのを待っているが、一向に弾が飛んでこない。
すぐにそれが”弾詰まり”だと気づく。拳銃を持て余しながらも充填し直している慶子の隙をつき、横に転がると急ぎ立ち上がり突進する。
もう捨てた命だ、どうとでもなれ。慶子から拳銃を奪い、もみ合う。火事場の馬鹿力なのか、男かよと思うほどの力で慶子は俺に掴みかかる。
腕や首筋に噛みつかれ、頭突きまでされ俺のほうが窮地に立つ。拳銃を奪われそうになるが、どうにか阻止しようと手に力を込める。そして───
爆発音とともに力の抜ける慶子、床に倒れて俺を睨む。
「……子供から母親まで奪うのか……この外、道」
両手で腹を押さえ止血する慶子。だが溢れる鮮血はとまらねえ。恨み言を残し、慶子もこの世を去った。
「そんな……俺、俺」
慶子を撃つつもりはなかった。弾詰まりした拳銃が暴発したんだ。銃口が慶子の腹に向いていて、その結果こんなことになっちまった。
どうすりゃいいよ、俺。慶子が言ったように、子供から母親を奪っちまった。離婚で父親を失った俺の子たち、今度は二度と母親に逢えねえ。しかも手にかけたのは俺。
誰か教えてくれ。どうすりゃいい、どうすりゃこの悪夢をなかったことにできる。誰でもいいから助けてくれよ、悪魔でもなんでもいいから。俺の命でいいなら喜んで差しだすからさ。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ……誰か助けて……助けてくれ──っ!!」
遠くからサイレンが聞こえる。誰かが通報でもしたのか。
よかったじゃん、誰かが手を差し伸べてくれたじゃねえか。泣き叫びながら、そう自分に皮肉ってみる。ああクソ、馬鹿みてえ。
音稀──俺も愛してるよ──────
耽溺/了
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