泣いて謝っても許してあげない

あおい 千隼

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第三章 指切

第一話

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 いつだったかは忘れたけれど、彼と交わした約束は今も尚細い絆で守られている。

 ずるずると、といったほうが正しい気もするが、切れかけた糸を絶つ勇気もない俺はその時点で彼に逆らうことができない。

 本気になりたい。真面目につき合いたいと思っても、所詮は男と男の関係に未来はない。ある日突然現れた女に気持ちを持っていかれ、その度に俺は引き下がるしかなかった。

 けれど数か月、永くても一年ほどで彼は俺の許に還ってくる。それは約束を交わした子供の頃より変わらない俺たちの儀式みたいなもので、だからこそ永続的にこの関係は続くのかなと淡い期待を抱いてしまう。

 大人になったら結婚しよう。けれど男同士は結婚ができないと彼の母親に教えられてショックを受ける。今にしてみれば馬鹿だなとも思うが、当時は純粋に絶望を感じた。

 ところが彼の考えは俺とは違った。結婚ができなければ生きていけない訳じゃない、じじいになるまで一緒に過ごして仲良くケアハウスに入居しよう──そう言われた。

 彼の言葉が嬉しくて今でも俺の心に留まっている。角度を変えてみれば、それは彼からのプロポーズではないか、なんてチープな考えにまで変換された。どこまでも馬鹿だ俺。

 とはいえやりたい盛りの男にブレーキなど利かない。それは同じ男として俺もよく分かるだけに、彼が道を右折すれば俺が進むのは直線か左折のみ。

 俺はバイだが彼はノーマル。それで俺にだけ執着してくれるのが殆ど奇跡というレベル、「じゃあな」と言われれば俺は笑って「幸せに」と送り出すしかない。

 そしてまた彼が還ってくるのを期待する毎日。その間は無味無臭のようなリアルを生きながら、彼を想って他の男に抱かれ女を抱くという無駄な日々を過ごす。

 けれどもう、そんなことのくり返しに疲れてきたのも事実。そろそろ潮時なのかもしれない。生産的ではない関係につがりつくのはやめて、俺から永遠の別れを切り出すべきか。

 あの日。夕暮れの公園で交わした指切りの許を絶つ。そんな勇気もないくせにね───
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