上 下
4 / 23
第一章

第4話「意識」

しおりを挟む
(……俺、こんな夜中に、何やってるんだろう)

 翔太は華に付き合わされ、一緒にゲームをしていた。
 この有無を言わせず、人を巻き込む感じ……覚えがある。というか、昔も華はこんな感じだった。ちっとも変わってないなと思った。

(何だか、胃が痛くなって来た……)

 とにかく、今日は父親が、夜勤で居なくてホッとした。こんな夜中に、女子を部屋に連れ込んでるなんてバレたら……とそこまで考えて、翔太はハッとした。

(……そうだよ、仁科、女じゃん!)

 うわっと、翔太は首元が熱くなる思いだった。
 華の勢いが凄すぎて失念していだが、今のこの状態、なんかヤバくない?とちらっと、翔太は華の方を見やった。

 次の瞬間、華が「あー!」と叫んだ。

「なっ、何だよ⁉︎」
「ヤバイ、死んじゃう‼︎  死んじゃう! 回復‼︎  回復ー‼︎」

 もう完全に華のペースだった。


***

(うう……背中が痛くなって来た)

 華は、翔太のベッドの反りにもたれかかって、ゲームをしていだが、普段家では寝転がってゲームをしていた。
 いつもの体勢と違うので、身体がしんどくなって来たのだ。

 華はゲーム機を持ったまま、徐に立ち上がった。

「翔ちゃん、ちょっとベッド使わせて」

 そのまま華は、翔太のベッドに寝転んだ。
 翔太は、華に昔の様に、下の名前で呼ばれた事にもギョッとしたが、自分のベッドに、平気で寝転ぶ幼馴染に度肝を抜かれて、暫く動けなかった。

(……こっ、こいつ‼︎)

 徐々に、腹の底から怒りや何かが湧き上がって、翔太は無意識に、華の腕を掴みそうになった。

 その瞬間、華がまた叫んだ。

「バッテリー、バッテリーがあっ! 充電器、充電器貸して‼︎」

 華は主導権を渡さなかった。ずっと華のターンだった。

***

 (はあ……疲れた)

 翔太は、台所でコップに麦茶を注ぎながら、ボーと居間を見渡した。時計が目に入る。

(……もう、4時じゃん)

 まるで、ジェットコースターに乗りっぱなしの疲労度だった。

 水分を補給した事で、少し頭が冴えて来た。

(俺は、一体何をやってたんだ? ……あいつ本当に何なんだよ!)

 せめてダウンロードが終わったら、華を家に帰すべきだった。華は何も考えてない様だが、やっぱどう考えても、今のこの状況はおかしい。だが、そんな事を考えてももう遅い。せめて今すぐ帰らせよう! 

 翔太はそう決心して、二階の自室前まで戻り、意を決してドアを開けた。

 華はゲーム機を掴んだまま、スースーと寝息を立てていた。

 その瞬間、何かが翔太の中でブチッと切れた。

 華の部屋着のショートパンツから、白い剥き出しの脚が伸びている。少し空いた胸元から、柔らかそうな胸の谷間が覗いていた。

 もう、幼いあの頃とは全然違っていた。

 翔太は寝ている華の前に歩み寄ると、そのままベッドの梁に膝を掛け、華に覆いかぶさった。

 しなやかな首筋が目に入り、華の寝息を間近で感じる――

(こんな格好で、夜中に男の部屋に来て、ベッドに寝転がって、何もされないと思うなよ――)

 翔太は、窮屈そうに枕に押し付けられていた、華の眼鏡をそっと外した。

 成長はしたが、それは明らかに自分の知っている、幼馴染の顔だった。

 そっと、自分の唇を華の唇に近づける――



「……しょうちゃん……」

 翔太はその声に驚いて、思わず身を引いた。
華が起きたのかと思ったが、そうじゃない。寝言だ。

 昔はそう呼ばれていた。いつの間にか、名字で呼ばれる様になって、関係も疎遠になった。正直ホッとしていた。このまま、疎遠のままで良かったのに……

 翔太は華のその寝言に、何故だか胸を締め付けられた。
 

つづく
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

平凡な私が選ばれるはずがない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:5,929pt お気に入り:232

【完結】あなたは知らなくていいのです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:65,912pt お気に入り:3,839

【短編】王子の婚約者なんてお断り

恋愛 / 完結 24h.ポイント:241pt お気に入り:591

不倫して頂きありがとうございます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:34,680pt お気に入り:366

妹に婚約者を奪われましたが今は幸せです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:43,082pt お気に入り:2,185

【完結】推しに命を奪われる運命だと!?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,412pt お気に入り:802

処理中です...