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第1話

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「モーラス子爵令嬢よ、よくぞ参った。此度は其方に「時を渡る魔道具」の開発をする栄誉を与える」
「はあぁぁ???」

 いきなり何言ってんだこの馬鹿国王!

「と、時を渡る魔道具の開発?...ですか?」

 つまりタイムマシンのようなものを作れってことか...

「そうじゃが」
「できるわけありません」
「其方は王国一の才女と聞いておるが」

 いやいやいや、そういう次元のことじゃないだろーが!!
 馬鹿だとは思っていたがここまでとは。

「恐れながら陛下、私にもできる事とできない事がございます」
「余がこれほど頼んでもか?」

 はぁコイツ国王と話してると疲れるわ。
 どうせ難しい事を言ってもわからないだろうし...そうだ!

「では陛下、私が国王になりますので、陛下は蟄居してください、そうすれば考えます」
「なっ無礼な!そんな事できるわけなかろう」
「だから、それくらい無理な事を陛下は申している、と言っているのです」
「むむむ」

 さすがの馬鹿国王も無理難題を言ってることに気がついたらしい。

 しかし...

「ええい!何をごちゃごちゃと言い訳をしておる。貴様は「やる」といえば良いのだ」

 ほらね、思い通りにならなかったら癇癪を起こす。子供か!いや、まだ可愛げのあるぶん子供の方がマシだな。

「......分かりました、ではどのような仕様の魔道具でしょうか?」
「それを考えるのが其方であろう」

 コイツ!...

「では10分時間が戻るものにします」
「それでは役に立たん」
「だからどのような仕様かとお尋ねしているのです」
「どのようなことにも対応できればよいではないか」
「では完成は50年後になります」もちろんテキトー発言です。
「何!それでは間に合わん」
「間に合わない?」
「え、いや、なんでもない」

 はは~ん、これは過去に何か失態をして、それを無かったことにしようとしているのかも。

「なので、正確に仕様...何のために必要であるかを正確に教えていただかないと、時間も費用も増えるばかりでございます」

 馬鹿国王は黙ってしまった。

 そしてついに観念した国王は、理由を話し始めた。

「...実はな、フィリップが聖女システムの制御室の中に入った」
「えええええっ」
「でな、其方はフィリップの婚約者でもあるからの、その、何とかしてやれ。な!」
「............」

 コイツは、私がフィリップ王太子の婚約者になったことが嬉しい、とでも思っているのか...




 ー聖女システムー

 その昔、この大陸には瘴気が蔓延していた。
 瘴気は大地を腐らせ、植物を変貌させ、魔物を強化、増殖させる。
 そのため人類は滅亡の危機にあった。

 そこで女神様は、瘴気を祓い、国を覆うほどの結界を張る事ができる強力な力を持った「聖女」を各地に誕生させた。
 しかし、
 その力を独占しようとした愚かな権力者達によって、聖女をめぐる争いが多発。
 各所で起こる内乱によって、却って事態は悪くなってしまった。

 女神様は人間のあまりにもな愚かさに、滅びても自業自得とも考えたが、最後のチャンスとして、聖女に匹敵、それ以上の力を持った聖女システム(巨大な魔法陣のようなもの)を各国の要所に設置した。
 そして、そのシステムを権力者が独占しないように...
『聖女システムの制御室には誰も入ってはならぬ。各国の最高権力者は、侵入する者から制御室を守護することのみに尽力せよ。もし侵入を許した場合、国は滅び、その時の最高権力者とその一族には天罰が下るであろう。これは最後の信託である。これを後世に伝えよ、2度はない』
 との信託を全人類に下した。

 これが聖女システムとその歴史である。
 そして、300年の間守られてきた。のだが...


 私はルナ。モーラス子爵家の長女です。現在18歳
 実は私、元現代日本人の転生者です。
 前世では最先端技術の研究者をしていました。
 この世界には魔法があります。
 でも、この世界の魔法というのは、私が前世で読んだ本で出てきた、攻撃魔法で魔物を倒す...というような強力なものではありません。
 火魔法はロウソクの炎くらい。水魔法は目薬より少し多いくらい。はっきり言ってショボいのです。

 そこで、私は前世の知識も合わせて研究して、現代の家電製品のような魔道具の開発に成功したのでした。
 その功績が認められ、若くして王城に新しく建設された魔法道具研究所の、所長兼開発責任者に任命されました。

 予想外だったのが、私の能力を取り込みたい王家によって、フィリップ王太子と婚約させられた事。

 父親の子爵は入り婿で、母が亡くなると待っていたように、私のひとつ下の娘がいる愛人と再婚。
 当然正当後継者である私は邪魔者。まあよくある話です。
 子爵では爵位が合わないため、私は会った事はありませんが王弟閣下が養女にして、婚約は成立しました。でも家名はそのままだからモーラス子爵令嬢のままなのだけれど...よくわからん。
 たぶん王弟閣下の後ろ盾がある、というだけなのだろう。
 王家も子爵家とは縁を切りたかったのか、大金を支払って私との関係を完全に断ったとの事でした。
 子爵としても、邪魔者は居なくなくなるし、大金が手に入ってホクホクでしょう。
 全くどうしようもない人たちです。しかし、モーラス家と関係ないのに私の姓もモーラス。爵位は低いから言うこと聞け、って事かな。まあどうでもいいや。

 困ったのが婚約者の王太子。
 傲岸不遜を絵に描いたような人物。頭は悪いがプライドだけは高い。
 父親国王と同じで怒鳴ればいいと思っている。
「俺様は王太子だから何をしても許される」と本気で思っている。
 だいたい「俺様」って、何様なんだろうね。典型的甘やかされボンボンって、自分で言っているようなものなのにね。

 イザベラ公爵令嬢という愛人がいる。
 まあ愛人がいるのが救いですね。あんなのに付き纏われたら、たまったものじゃないわ。
 お金が欲しい時だけやってくる。
「王太子の俺様よりお前の方が金持ちなのが気に食わん」らしいですよ。
 これは研究資金だから、私のものではない、と何度言っても理解しない。いや、出来ないのかな。



「とりあえず早急に開発に取りかかります」

 嘘です、そんなもの真面目に作るわけないでしょ。

「うむ」
「それで開発費用の方はどうしますか?」

 それらしいことを言っておかないとね。

「財務長に、今出せるだけ全てと言っておく」

 ええええっ大丈夫なの?これから色々起こるよ、厄介なことが。

「このままですと、恐らく数ヶ月で結界は消失するでしょう。万が一の時のため、民の避難などを考えますか?」
「其方が早く完成させれば良いだけの話であろう。余計な噂がたってもいかん」

 そう言うと思った。
 どうやら国王の頭の中ではもう完成する事が決定しているらしい。

「それでは直ちに取り掛かります」やらないけど。
「うむ、頼んだ」

 そんなもの出来るわけないだろうが!こうなったら開発費貰ったらとっとと国を出よう。


 私は恐らく最後となるだろう完璧な淑女のカーテシーをして、謁見の間から去った。
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