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1章 謎の聖女は最強です!

聖女、参る! (1) ※

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「良いですか、エミ様。アイツに嫌なことをされた場合は、すぐに大きな声で叫んでください。私たちがすぐに駆け付けますから」
「も~、メアちんってば! ハクシャクのことアイツって言わないの!」
「言いたくもなりますとも! エミ様がこちらに来てたった2週間……。さっそく寝室に来いと命じるなんて、あのケダモノ! セバスチャンもセバスチャンで、何をやっているのです! まったくあの臆病者ときたら!」

 メアリーが珍しく烈火のごとく怒っているのを、エミは困った顔で見つめていた。メアリーは先ほどから主への悪口を言い連ねつつ、足音荒く歩いている。さきほどからずっとこの調子だ。どうやら、一度怒り出すとなかなか怒りが収まらないタイプらしい。
 ついにたどり着いた寝室の重厚なマホガニーの扉を前に、メアリーはもう一度声を潜めて念を押すように言った。

「無理やり何かをさせられそうになったら、噛みついておやりなさい。爪で目を一突きするのもありですからね!」
「いやメアちんマジ物騒すぎ~~! あたしの爪、結構デコってるから大事故になるってえ……」
「エミ様のお体の方が大事ですッ! 繰り返し申し上げますが、身の危険を感じれば、すぐに叫んでくださいまし! すべては手筈通りに……」
「う、うん……」

 メアリーのあまりの気迫に気圧されて、エミは素直に頷いた。メアリーは小さくため息をつき、エミの髪を少し整えると、ドアをノックする。

「伯爵様。エミ様をお連れしました」
「入れ」

 短い返事とともに、ドアが開いた。この部屋の主人自らがドアを開けたのだ。
 輝く銀髪はいつもの乱れ一つないオールバックではなく、ラフに下ろされている。服はいつものかっちりとしたものではなく、かなり簡易な服ものだ。
 廊下にいるエミをちらりと見下ろすと、ディルはエミの手をひいて中に引き入れる。メアリーが一緒に入ろうとしたものの、ディルはそれをさっと制した。

「聖女だけ入れ。メイドは必要ない」

 ディルはあっさりとメアリーを締め出し、エミだけを寝室に招き入れる。メアリーが抗議の声をあげたものの、完全に無視された。
 重厚な扉がバタン、と閉まると、部屋は静寂に包まれた。
 灯りは消えていたものの、広い窓のカーテンは開いており、かろうじて月の明かりが部屋の中をぼんやりと照らしている。部屋には重厚なドアのわりに、広いベッドと、ひじ掛けタイプのソファが備え付けてあるだけ。がらんとした簡素な部屋だった。壁には装飾の類は一切ない。寝るだけのためにある部屋、という様相である。
 ディルは無言でエミをベッドに座らせ、自らもどかっとベッドに座った。

「ええっと……」

 エミは戸惑ったように上目遣いで隣に座るディルを見上げる。ディルは首を傾げた。

「聖女、お前いつもより顔つきが幼くないか?」
「え、待って。 いきなり指摘されちゃった~~! ハクシャク、化粧オフったら気づくタイプか~~! えぐい~~」
「いや、さすがに気づくだろう。全然違うぞ」
「お風呂入った時に、メアちんたちに化粧全部オフられちゃったの。照れぴだからあんま見ないで~~。チークないとお顔ドンヨリしちゃうから、バイブス鬼サゲ……。あと目の下の赤みとかヤバたんだしぃ……」

 エミは恥ずかしそうに目を伏せる。いつもつけまつ毛で縁どられている目は、黒目がちで、心もとなさげに潤んで揺れている。いつも結んでいる金髪はしどけなく下ろしており、エミが動くたびに華奢な肩口からさらさらとこぼれ落ちた。
 いつもと違ってずいぶん大人しいエミをディルはしげしげと観察した後、急に何かを思い出したかのように、軽く咳払いをする。

「一応聞くが、私の聞いた『夜伽をする』の意味は分かるな?」
「う、うん、いちおうね……」

 羞恥でだんだん声が小さくなるエミに、ディルは軽く頷いた。

「分かっているなら良い。合意は得たと解釈する。……と、いうわけで、やるぞ。まずは脱がせる」
「う、……うぃっす!」
「身体は楽にするように。そちらの方が脱がせやすいと文献で読んだ」

 ディルはさっさとエミを広いベッドに横たえた。そして、きつく縛ったガウンの紐を、ディルは器用に解く。ガウンがするりとはだけた。

「……ッ、これは、いったい……」

 ディルは苦い顔をする。
 ガウンの下から現れたのはエミのなめらかな素肌ではなく、頑丈なコルセットだった。
 ディルは眉間に皺を寄せ、一瞬考えこむような顔をしたあと、ややあって深いため息をついて額に手を当てる。

「おい、一応確認するが、お前はなぜこんな時に、こんなしち面倒くさそうなコルセットをつけているんだ……」
「えーっと、メアちんがコルセットつけようねって……」
「ああ、これはやはりあのメイドの仕業か。……クソ」

 古参メイドからの予期せぬ妨害にディルは小さく舌打ちしつつ、エミの複雑怪奇に縛り上げられたコルセットを外しにかかる。ディルの顔が近くなり、エミは小さく息を飲んだ。

「顔、近すぎぃ……」
「近づけなければコルセットの構造が分からぬ。我慢せよ」
「……。ハクシャク、おこぷん?」
「おこぷんではない」

 ディルは短く答える。その証拠に、限りなく不機嫌な顔はしていても、紐をとく手つきはどこまでも優しい。大きな手は丁寧に一つ一つボタンをはずし、紐を外していく。
 ああでもない、こうでもないとぶつくさ呟きながらコルセットを外そうと格闘するディルの頭を、エミはちょうど手があいているのもあってそっと撫でた。
 ディルは抗議をするような目をエミに向ける。

「おい、頭を撫でるのは止めろ。私は犬や猫のような愛玩動物ではない」
「ハクシャク、マジめっちゃいい子だよねえ」
「はあ、どこをどうすればそのような結論になる」
「んー、なんとなく? まあ、メアちんはめっちゃ疑ってたけどねえ」

 アッハッハ、とエミはディルの銀色の髪をガシガシと撫でながら明るく笑った。
 実は、メアリーにはある計画があった。ディルが無理やりコルセットを脱がすようであれば、すかさず大声を出し、救出するつもりだったのだ。

『コルセットごときも冷静に脱がせられない男は、理性を失ったケモノになっているのです。ですので、伯爵がコルセットを万が一無理やりひん剥こうとしたら、すかさずエミ様大声を出して私たちをお呼びください!』

 エミの脳裏にメアリーの怒った顔が浮かび、エミは一人思い出し笑いをした。
 どうやらこの優しい手つきから鑑みるに、大声を出す必要はなさそうだ。エミがホッとしたものの、実は傍らで、「お預け」を食らっている状態のディルの薄青色の理知的な瞳に、ちらちらと獰猛な色がよぎり始めていた。かろうじて露出しているエミの細い肩だけでも、ディルにとっては十分煽情的だ。今すぐにでもむしゃぶりつきたいと思うほどに。
 やがて、コルセットがようやく外れ、エミの腰から滑り落ちる。ディルは黙ってコルセットの下のシュミーズも丁寧に脱がせ、ようやく一糸まとわぬ姿になったエミを見つめた。
 ほっそりとした肢体が、月明かりに照らされる。

「…………きれいだ」

 闇夜の静けさに溶け込む低い声で、ディルは呟いた。
 ディルの熱視線に耐えられなくなったエミが、恥ずかしそうに身体を両の手で抱こうと動く。しかし、ディルは反射的にその手を握ってそれを阻止した。二人の顔が近くなり、どちらからともなく唇が触れるだけのキスがかわされる。
 ディルの何かをこらえるような小さな吐息が、エミの普段外気に晒されない胸元の皮膚の薄い場所をくすぐる。

「ふっ……、息がくすぐったい……」
「感度は良好なようだな。……これから触るが、痛みを感じたら右手を上げろ」
「その言い方、なんとなく歯医者さんみた……、あっ――……」

 ディルの大きな手がエミのつつましい双丘に触れる。骨ばったゴツゴツした手の感覚に、エミの肌がゾワゾワと粟立った。エミはたまらず、ディルの手から逃げようと身体をひねって首を振る。
 
「い、いきなりは、反則……っ」
「こちらとしては、散々我慢させられたのでな。……多少荒くなるかもしれない」
「えっ、我慢って……やぁ、……んっ!」

 乳房をやわやわと揉まれて、エミの身体が敏感に反応した。小さな嬌声をあげるごとに、呼吸が乱れていく。大きな手が撫でるように身体に触れるたび、不思議な軽やかに甘い感覚が身体を駆け巡り、頭がじんと痺れていく。

「ふぁ、……あ……♡」

 優しい愛撫に、エミはだんだん身体がふわふわと熱くなっていくのを感じた。やめて、という言葉が喉元まで出かけるのに、どうしてかその先を知りたくて大きな手に身体を委ねてしまう。そのうちに、ディルはちゅ、と音をたてて身体中にキスをし始めた。
 身体中を大きな手で愛撫され、唇で触れられているうちに、じわじわと感覚が鋭くなっていき、悦楽を感じる場所が熱を帯びる。

「ひんっ!!」

 身体を探るように撫でていたディルの指が、ふいに双丘の尖った場所に触れたとき、エミの身体が大きくびくりとはねた。ちりちりと焼けるような快感が、身体中を駆け巡る。ディルはニヤリと笑う。

「……ほう、お前はここが良いようだな。分かりやすくて結構」

 ディルは膨らみの先端を前触れもなくべろりと舐め、間をおかず口に含んで音をたてて吸い上げる。突然の快感の波にのまれたエミの身体が大きく震えた。その反応が楽しいのか、ディルは執拗に舐め続ける。

「や、……そこ、……あんっ……♡」

 強すぎる快感に、エミはイヤイヤと首を振りながらぶ厚い胸板を押して退けようとしたものの、大きな手がその細腕をあっさりシーツに縫い留めた。
 意図せず両手を頭の上にあげた態勢となり、エミの小ぶりな胸がディルの目の前にあらわになる。今や双丘の頂はふっくらと尖り、薄桃色に色づいていた。
 羞恥でエミは指の先まで真っ赤になったものの、ディルは満足げにその様子を見る。

「……なかなかいやらしいな。悪くない」

 ディルはふっと微笑むと、ついばむようなキスをエミの鎖骨に落とす。それから、そっと背中に手を当て、ぐったりするエミをすくうように抱き上げると、軽々と膝の上に座らせる。ディルは後ろからエミを抱きしめて、髪の間から覗いた細いうなじに噛みつくようなキスを落とした。
 エミの背中には、ディルの下履きごしに熱い猛りがあてられた形となり、エミは驚いて身体を震わせる。

「あ、あの、……ハクシャク、鬼デカいナニかが、なんか背中にあたってて……」
「これの出番はまだだ。ある程度、ほぐしてやらなければ、お前の身体を傷つける可能性がある」
「こんなにおっきいの、挿入はいんないと思うんですけどぉ……!」
「馬鹿を言え。挿入れなければ、人類は生殖ができないだろう」

 さらりとそう言うと、ディルはエミを後ろからそっと抱きしめながら、再び柔らかな乳房を揉みしだく。そして、片方の手でエミの乳頭をいじりながら、もう片方の手がエミの太ももを割り、薄い下生えに隠れた亀裂をなぞった。くちゅ、くちゅ、と猥雑な音が部屋の中に響く。

「ッ……ひゃん!」
「ほう、よく濡れているな……。よく教えこまれたらしい」
「え、何…………?」
「お前の元婚約者は、そこそこやり手だったようだな。……そうでなければこの短時間でここまで濡れたりはしない」

 暗い嫉妬の光が、ディルの眼に宿る。
 目の前の女を独占したいという欲が、どろりとディルの腹の底で渦巻き、エミの快感を探り当てようとする指にぐぐ、と力が入る。
 嫉妬に駆られた指は会陰を割り、しとどに濡れた粘膜にあっさりと到達した。そして、すぐに膨らみかけた陰核を探り当てる。

「え、待って、そんなことなっ…………、っ……んぁ……」
「ああ、ふうん。やはりここが良いのか。いくら聖女とはいえ、人体の構造は文献通りだな」

 割と房事にふさわしくない独り言を述べつつ、ディルは次から次へとあふれ出る蜜をすくうと、硬く突き出した陰核にすりつけ、ねちっこく転がし始める。同時に、乳首をきゅうとつまみあげると、エミのすらりとした太ももがガクガクと震えだした。

「あっ、……あっ、……あ…………うんっ♡」
「声が甘くなった。感じているんだな」
「あっ、……ぅ、ん♡……気持ちぃ……っ」

 エミは息を切らして、ディルにしか聞こえないほどの小さな声で甘い声をあげる。ディルはふっと笑った。

「お前、いつもはあんなに騒がしいのに、こういう時には静かになるんだな。もっと声を出してもいいんだぞ」

 ディルはかすれた低い声で、エミの耳元に囁く。吐息が耳にかかり、エミはその声にたまらないほどに感じてしまう。
 すっかり敏感になっていたエミの身体は、ディルの指が亀裂をなぞり、いたずらに花芯に触れるたびにびくびくと小刻みに揺れた。そのたびに柔らかな尻肉が、下衣ごしに肉棒をぎゅうぎゅうと押し付ける。ディルはエミの肩に顔をうずめ、苦しそうな吐息を漏らした。

「はあっ……。思ったより、これは、クるな……。理性が飛びそうになる」
「も、う……やめてぇ……。なんか、ヘンなの……来ちゃ、う」
「絶頂が近いのか。……そのまま達してしまえ」
「ハ……クシャク、……ゆび、やめてえ……」

 エミはふりかえって懇願するように上目遣いでディルを見た。夜の闇を思い起こさせる黒目がちの瞳はとろりと潤んでいる。それがかえって嗜虐心に火をつけてしまったのか、ディルはニヤリと笑ってエミの陰核を2本の指で挟むと、しごくようにさらに刺激し始めた。

「さきに煽ったのはお前だからな」
「あおって、ないもん……、っ……あふっ……」

 エミは強い快感から必死で逃げ出そうと腰を浮かしたものの、ディルの太い腕ががっしりエミをおさえているため、それもままならない。
 無理やり快感を刻みつける指から、もはやエミは逃れる術はなかった。
 目の前が白くかすみ、ディルの与える悦楽だけが甘やかに心を満たしていく。ディルの指が動くたびに、ぴちゅぴちゅという、淫らな水音が部屋に響き渡る。
 腹の底から湧き上がる得体の知れない快感が、エミの身体をブルブルと震わせた。呼吸すら、ままならない。

「ねえ、……なにか、く、……る……ッ……!  あっ、ああああ――……っ!」

 エミの膝が立ち、つま先がシーツに食い込んだ。濃厚な快感が一気にエミに絶頂へと押し上げ、ふわりと身体中の感覚を奪う。エミの意志と関係なく、身体が激しく痙攣した。

「え、なにぃ……?」

 目の前にチカチカとまばゆい光が爆ぜ、エミはディルの腕の中で糸の切れたマリオネットのようにくたりと倒れこんだ。ひくひくと襞が痙攣し、快感の残滓が身体中をたゆたう。
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