【R18】女騎士は冷徹幼馴染の溺愛コマンドに屈しない! -Dom/Subユニバース-

沖果南

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本編

セーフワードって何ですか?(2)

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 食事を終えた二人はレストランを出た後、イライアスの提案でローデ家の屋敷へと向かう。郊外にあるイライアスの屋敷は、豪奢なレンガ造りの重厚な佇まいだった。しかも、とんでもなく広い。田舎にあるジェシカの家が、丸ごと三つは入るだろう。

「す、すごい立派じゃない……」
「わが家へようこそ、ジェシカ。ボーっとしてないで早く入れ」
 
 イライアスは慣れた様子でジェシカを屋敷に招き入れる。
 エントランスから入ったホールは吹き抜けの天井に大きなシャンデリアが輝き、足元には毛足の長いカーペットが敷き詰められている。外観に相応しく、内装も驚くほど豪奢だ。
 
(領地が余って仕方ないはずのウォグホーン家より広いってどういうことなのよ。使用人とか、何人ぐらいいいるの? 掃除とか間に合うのかしら……)
 
 根っからの貧乏貴族であるジェシカには想像を絶する世界である。
 先にジェシカが来る旨を伝えていたのか、ローデ家の使用人たちは、特に深入りせずににこやかにジェシカをもてなした。
 この屋敷にはイライアスの他に最低限の使用人しかいないらしい。長い廊下は水を打ったように静かだ。その上、陽がそこまで入らない造りになっているせいか、外は暑いほどだったのに、この屋敷はどこかひんやりと肌寒い。
 イライアスはジェシカを連れ、二階に上がる。二階の角部屋がイライアスの部屋らしい。廊下には、絵画や彫刻といった装飾の類は一切なく、等間隔で高級そうなアンティーク調のランプが並んでいるだけだったが、通された部屋は廊下以上に飾り気がなかった。
 クローゼットとベッド、書き物用の机と椅子にキャビネット、そして大きなベッドが一つあるだけの部屋だ。家具ひとつひとつが豪奢であるため、貧相な印象は受けないものの、無駄なことを嫌うイライアスらしい部屋だ。
 どこにも座る場所がないので、ジェシカはとりあえずおずおずとベッドの縁に座る。イライアスも、ジェシカの隣に座った。

「な、なんか緊張するわ……」
「そう緊張することはない。団長から定期的なプレイをしろと命令されているんだから、命令を履行するだけだ」

 尊敬する騎士団長の名前を出されて、ジェシカはうぐ、と口を噤む。騎士団長の命令だと言われてしまうと、何も反論できない。
 イライアスは長い足を組みなおし、軽く咳払いをした。

「……初めに、セーフワードを決めておく」
「セーフワード?」
 
 ジェシカは聞きかえした。どこかで聞いたことのある言葉だが、詳しくはわからない。
 イライアスは呆気にとられた顔をする。
 
「まさかセーフワードも知らないのか?」
「しょうがないじゃない。私は19年もNormalだと思ってたんだもの。DomやSubのあれこれなんて、別の世界のことみたいに思ってたわよ」
「いいかジェシカ。DomとSubは、プレイをする時にはまずセーフワードを決めなければならない。そうでなければ、Subは自分の身を守ることができない」

 イライアスはジェシカが理解できるよう、ゆっくりと説明した。
 
「セーフワードとは、プレイを中断させる言葉のことだ。Subがその言葉を口にした瞬間、Domはただちにプレイを中止しなければならない。Subの安全のためにも、セーフワードは絶対に必要だ」
 
 ジェシカはイライアスの説明を聞き、軽く頷いた。

「じゃあ、セーフワードを決めずにDomがコマンドを使って支配しちゃえば、Subを好き勝手できるってこと?」
「ありえない。嫌がるSubを無理やり従わせるのはマナー違反だ。DomとSubの立場は対等であり、Subの意思は尊重されなければならない。そこに信頼がなければ、本当の意味でのプレイとはいえない」
「へえ。なんか意外ね。Domって、Subをいじめるイヤなヤツだと思ってた」
「……ジェシカ、お前が持っているダイナミクスへのイメージはだいたい偏見だ。確かに、Domは優位な性だとされている。しかし、だからといって、Subが従属しなければならないという決まりはない。嫌なことは、嫌と言ってほしい」

 真剣な言葉に、ジェシカを大事にしようという気持ちが伝わってくる。なんだかこそばゆい気分だ。

(どうせ一時的なパートナーなんだから、そこまで私のこと考えてくれなくていいと思うけど……)

 ジェシカは心の中で首を傾げつつ、胸の中に浮かんだ疑問を口に出した。

「それで、セーフワードはどうやって決めるの?」
「何でもいいから、一つ言葉を選んでくれ。なるだけ普段使わない言葉が望ましい」
「急にそんなことを言われても……。普段使わない言葉って、なにがあるかしら……」
 
 何でもいいと言われてとっさに浮かんだのは、「剣」や「騎士」だ。しかし、これは日常的に使う言葉なので却下だろう。大切な家族の名前も次々に浮かんだが、さすがにプレイ中に口にするのも気が引ける。
 ジェシカはじっと考え、ふいにとある言葉が頭に浮かぶ。

「あっそうだ、『イーライ』は?」

 昔仲が良かったときに使っていたあだ名を、ジェシカは口にした。ふたりの仲にいつの間にか亀裂が入ってからは、一度も呼んだことがない呼び名。このあだ名であれば、普段は絶対に使わないだろう。
 しかし、ジェシカの言葉を聞いた瞬間、イライアスの纏う空気の温度が一気に下がった。群青色の瞳に暗い翳が差す。

「本当に、それでいいのか?」
「別にいいでしょ。いまさら昔のあだ名なんかで呼び合う仲になるとは思えないわ」

 イライアスは一瞬何か言いたげに顎を引いたものの、ややあってゆっくり頷いた。

「……はあ、分かったよ。ジェシカがそうしたいなら、それでいい」
「えっ、なに怒ってるのよ」
「別に、怒っていない」
「だって、なんか――」
「“黙れ”」

 イライアスの急なコマンドに、ジェシカの口は、まるで縫いとめられたかのように開かなくなった。酩酊したように世界がグラグラと揺れ始める。

「……いい子だ」
 
 とってつけたようなリワードだったが、眩暈は瞬く間におさまった。

「……ちょっと、何!? さっき対等とかなんとか言ってたのは誰よ!」
「嫌だったらセーフワードを使えばいい。さっきも言ったが、俺は無理強いをするつもりはない」

 冷めた口調でイライアスは言う。ムッとしたものの、ここまできて止める気はなかった。
 ジェシカがきつく唇を結んで黙っていると、それを了承ととったのか、イライアスは少し間を取って言葉を繋ぐ。

「……今日は、基本的なプレイから始める」
「わかったわ。で、できるだけ、優しくしなさいよね!」
「本当に、いいんだな?」
「今さら逃げたって仕方ないじゃない」

 半ば意地になってジェシカは答えた。
 これから何をするのか、純真なジェシカは全く見当もつかない。自分の内部を暴かれるような恐怖感もある。しかし、ここで「やめたい」と言い出すのは、なんだか負けを認めたようで癪だ。
 イライアスはジェシカを見つめ、息を吐く。

「ありがとう、ジェシカ。なるだけ優しくすると誓う」

 返ってきた言葉は、殊の外優しかった。
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