【R18】女騎士は冷徹幼馴染の溺愛コマンドに屈しない! -Dom/Subユニバース-

沖果南

文字の大きさ
上 下
28 / 96
本編

セーフワードって何ですか?(3)

しおりを挟む
 恭しく手を取り、イライアスはジェシカの指の先にキスをする。その仕草は、さながら恋愛小説の中の騎士が、自らが仕える姫に忠誠を誓うような場面を彷彿とさせた。イライアスの整った顔はさながら本物の王子のようで、ジェシカの胸がざわめく。
 優しいキスは指先だけで終わるかと思いきや、イライアスの唇が、柔らかくキスをしながら指先から手首を辿りはじめる。慌てて手を引っ込めようとしたものの、真剣な眼差しに囚われて、ジェシカは指先一つ動かせなくなった。
 イライアスはぎゅっとジェシカの手を握り、時間をかけて手首から肘の内側へと啄むようなキスを落としていく。キスをされた場所から、ぴりぴりとした何かが身体を駆け巡り、それが脳髄に届いて思考を鈍麻させていく。薄い皮膚の下の血管が、どくどくと脈打った。息が上がり、呼吸もままならない。

(な、なによ、これ……)
 
 純真なジェシカは、こうして唇で身体を探られたことはただの一度だってない。せいぜい、父親に「ジェシカは可愛すぎて食べたくなる」と頬に連続でキスを食らわされたくらいが関の山だ。
 ついに肘の裏を唇で触れられ、くすぐったさに思わず身を竦めると、イライアスはパッとジェシカから身体を離した。

「……すまない、やりすぎたか?」

 なにかを堪えるように顰められた眉間の下で、群青色の瞳が探るようにこちらを見ている。どうやら、ジェシカがどこまで接触を許すか試していたらしい。ジェシカは顔を真っ赤にした。

「そ、そういうことはっ、しなくていい……っ! もっとこう、Domらしくコマンドをズバズバ言うとかしてっ!」
「だからそういうのは偏見だといっているだろう。まったくジェシカは、ムードもへったくれもないな……」

 呆れたような口調だったが、イライアスはキスをやめる。約束した通りジェシカが嫌がることはしないつもりのようだ。

「これからいくつかコマンドを使わせてもらう。嫌だと思ったり、辛いと思ったらちゃんとセーフワードを使ってくれ。いいな?」
「うん」

 驚くほどに素直に頷いてしまったのは、先ほどの先ほどの甘いキスの余韻で頭がぼんやりしていたせいだ。いつものジェシカなら、多少は抵抗したり、憎まれ口を叩いたりするだろう。

「“跪いて”」

 低い声で紡がれたコマンドに、身体はすぐに反応した。
 ジェシカは自分からベッドを降り、イライアスの足元にぺたんと座る。それだけで胸の奥からたまらない気持ちがこみ上げてくる。彼の命令に従い、褒められたい。身体の芯からすべて捧げ、支配されたい。そんな欲求で頭の中がいっぱいになる。
 褒めてほしいと見上げた先で、こちらを見る群青色の瞳と目が合う。

「よくできたな。いい子だ。では、“俺を見て”」

 ジェシカは背筋を伸ばしてイライアスを見つめる。イライアスは目を細めた。

「良い子だ、ジェシカ。本当に綺麗な目をしている」

 いつもは冷たい目が、プレイの時だけ見たこともないほどに優しく細められる。新緑色の眼が勝手に潤んでいく。
 期待通り褒められ、大きな手が頭を撫でた瞬間、身体がふわりと軽くなる。ジェシカを撫でるその手つきはどこまでも優しい。

(うれしい……)
 
 基本的なコマンドに従い、褒められただけで、ジェシカは言いようのない幸福感に包まれる。心の奥底に燻っていた焦燥感が、たちどころに消えていくようだ。
 大きな手が、ジェシカの頭を優しく撫でた。

「俺のコマンドに従ってくれてありがとう」
「……イライアスも、嬉しいの?」
「もちろんだ。こうやって命令して、応えてもらうのがDomとしての喜びだからな。ジェシカを支配できて光栄に思っている」
 
 支配、という日常ではあまり耳にしない言葉を聞いた瞬間、ジェシカは喉をコクリと鳴らした。目の前のDomに支配されているという事実が、ジェシカのSubとしての本能を満たしていく。相手がイライアスだという点はいただけないが、この際甘んじて受け入れるしかないだろう。
 もっと褒めてほしくて、ジェシカは床に座ったまま、イライアスの脚に頬をころんと寄せる。

「イライアス……」
「うん?」
「私、もっとちゃんとできるのよ?」
 
 上目遣いで、次のコマンドがほしいと暗に告げる。
 イライアスは息を呑み、額に手を当てて悩ましげなため息をつく。

「ジェシカのおねだりの破壊力は予想以上にすごいな……。これだけで、頭がおかしくなりそうになる。じゃあ、“こっちを向いて”」

 イライアスの腿に頭を預けていたジェシカが、頭を少し動かして目線をイライアスに向ける。
 ジェシカの緑色の双眸がイライアスを映した。犬猿の仲の二人がこうして向き合うことは珍しい。イライアスは、なにか痛みを堪えるような不思議な表情になった。

「……小さい頃から、きれいな瞳だと思っていた。ジェシカの瞳は、角度によって少しずつ色が違ってみえるんだ。エメラルドのように濃い緑もあれば、光を浴びた新芽のように淡い色にもなる。深い森の湖畔のようにキラキラ輝く時もあって、見ていて飽きない」
「そんなこと考えてたの?」
「当たり前だろう。ジェシカのすべてを、余すことなく見つめていたんだから」
 
 まるで、イライアスがジェシカをずっと長い間じっと見ていたような言いようだ。

(変なの……)
 
 確かに、イーライと呼んでいた彼なら、そうだったのかもしれない。彼はいつも熱心にジェシカを見つめていた。しかし、騎士団に入ってからのイライアスは、ジェシカとずっと接触を避けていた。時々矢のように鋭い視線を寄こすことはあっても、その視線はすぐにそらされた。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。

待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...