72 / 159
第三部 魔界探索
72 流されてお腹の中
しおりを挟む
「自己再生!」
俺が次の一撃を放つ前に、七瀬は立ち直ってHPを回復した。
真が半眼で呟く。
「ポ●モンかよ」
俺は思わず同意しかけた。
分かるよ。せっかく削ったHPを満タンにされると、ちょっとイラっとするよな。
元の美少女に戻った七瀬は、CM前に戻った番組のように、余裕のある態度を演出した。
「ふっ……確かにそっちの地味男の言う通り、スキルレベルが上がった訳じゃないものね。ええ、当然分かってるわよ!」
「俺の名前を覚えてないんだな……」
「でも私のHPが、あなたたちの倍以上あるのは事実よ!」
俺はその台詞に、七瀬のステータスに目を走らせた。
鑑定スキルのレベルは当然、俺の方が高い。彼女が隠しているステータスも見えている。
こいつ……HPを攻撃に使うスキルがあるな。
聖晶神の杖を召喚して、七瀬の技をキャンセルする魔法を使おうとしたが、向こうが「Lv.1016」だからか失敗してしまった。
「ちっ……」
行儀悪く舌打ちして、仕方なく防御のために結界魔法を準備する。
「これで終わりよ! 深海高津波!」
海面がゴボゴボ泡立って盛り上がり、 七瀬を中心に水の壁が発生した。
椿が「そうはさせない」と氷の魔法を使って津波を凍らせようとしたが、次から次に沸き上がる海水に飲み込まれる。
その内に海水の瀑布は破れ、津波が怒濤の勢いで俺たちに襲いかかってきた。
「枢たん!」
「心菜、手を」
離ればなれにならないよう、手を繋いでから結界魔法を使おうと彼女に手を伸ばす。しかしそんな俺の顔面に何かぶつかってきて、視界がブラックアウトした。
「キュー!」
「ぶっ」
それはウサギギツネのメロンだった。
大地の肩に乗っていたのが、非常事態に動転して、俺に飛びかかってきたのだ。
伸ばした手はすれ違う。
最後に見たのは「ガーン」とショックを受けた心菜の顔だった。
津波に飲まれる瞬間、意識を失っても持続する泡状の結界を、仲間たち個別に掛けていた。だから心菜たちの心配はしてなかったのだが。
うっかり自分に魔法掛けるの忘れてた……。
「……はっ」
気がついた時には、びしょ濡れで洞窟の中に倒れていた。
頬をペロペロなめる小動物。
この事態の元凶であるウサギギツネのメロンだ。
俺はメロンを抱えて上体を起こした。
「まずったなー……ひとりか」
見回しても誰もいない。
咄嗟に結界魔法を使い忘れたとはいえ、俺自身は自動防御のスキルが発動してダメージは無かった。濡れた服が気持ち悪いだけだ。
「そういえば、パーティーを組んでたな」
やっと思い出して、視界の隅っこのアイコンに指を走らせる。
異世界に落ちる際にリセットされて使えなかったパーティーメニューだが、今は改めてパーティーを組んでいるので使えるはずだった。
この世界ではゲームじみたグラフィックの、直線で構成された簡易マップを参照できる。
パーティーを組んでいる場合は、マップにメンバーの位置が表示される仕様だ。
今、マップを見たところ、近くに心菜たちはいないようだった。
通信やメッセージを飛ばしたりする機能も無い以上、お手上げだ。
「メンバーの名前とHPバーもグレーアウトされてやがる……使えねーな」
離れ過ぎているらしく、心菜たちの位置もHPも確認できない。
俺は、パーティーのステータス確認を早々に諦めた。
この世界で過ごした千年間で学んだことは、ゲームのようなシステム画面やメッセージは、最終的には何の役にも立たないということだ。かゆいところまで手が届かないので、結局、自分のスキルか、直接見たり聞いたりした情報が一番頼りになる。
「照明球」
暗くて周囲の様子が分からないので、魔法で明かりを付ける。
壁や地面は赤みがかっており、濡れて光っている。
生暖かい風が頬を撫でた。
何か普通の洞窟と違うような……?
『テステス~♪ 聞こえるカナメ~?』
「リーシャン?!」
頭上に小さな金色の光の球が現れた。
光からリーシャンの声がする。
「どこにいるんだ?」
『カナメの仲間と一緒にいるよ。僕、機転を効かせて、カナメの仲間の人間をまとめて保護したんだ。偉いでしょー褒めて褒めて!』
ナイスフォローだ、リーシャン。
「偉いぞリーシャン。俺ははぐれたけどな……」
『カナメったら、自分に魔法掛けるの忘れてたでしょー。流される方向が違ってて回収できなかったよー』
「うっ……ところでリーシャン、この魔法は何だ? 電話みたいな」
「デンワ? これはね、僕が開発した神様連絡網だよ!」
「神様……連絡網?」
遠隔地にいるはずのリーシャンの声が、クリアに聞こえてくる。かなり精度の高い魔法だ。マスコットみたいな見た目に惑わされるが、リーシャンは祝福の竜神。魔法は得意なのである。
『遠い場所にいるカナメと話すために、前から準備してたんだよー』
「なるほど。リーシャン、そっちはどこにいるか、場所は分かるか?」
『僕らは海底遺跡だよ。カナメは……海神マナーンのお腹の中だね!』
「は?」
俺は思わず間抜けな声を漏らして、周囲を見回した。
お腹の中?
海神マナーンは巨大な鯨だ。人ひとりくらい飲み込めそうな。
ど、どうりで壁がうねってると思った……やば、消化吸収されるんじゃね?!
俺が次の一撃を放つ前に、七瀬は立ち直ってHPを回復した。
真が半眼で呟く。
「ポ●モンかよ」
俺は思わず同意しかけた。
分かるよ。せっかく削ったHPを満タンにされると、ちょっとイラっとするよな。
元の美少女に戻った七瀬は、CM前に戻った番組のように、余裕のある態度を演出した。
「ふっ……確かにそっちの地味男の言う通り、スキルレベルが上がった訳じゃないものね。ええ、当然分かってるわよ!」
「俺の名前を覚えてないんだな……」
「でも私のHPが、あなたたちの倍以上あるのは事実よ!」
俺はその台詞に、七瀬のステータスに目を走らせた。
鑑定スキルのレベルは当然、俺の方が高い。彼女が隠しているステータスも見えている。
こいつ……HPを攻撃に使うスキルがあるな。
聖晶神の杖を召喚して、七瀬の技をキャンセルする魔法を使おうとしたが、向こうが「Lv.1016」だからか失敗してしまった。
「ちっ……」
行儀悪く舌打ちして、仕方なく防御のために結界魔法を準備する。
「これで終わりよ! 深海高津波!」
海面がゴボゴボ泡立って盛り上がり、 七瀬を中心に水の壁が発生した。
椿が「そうはさせない」と氷の魔法を使って津波を凍らせようとしたが、次から次に沸き上がる海水に飲み込まれる。
その内に海水の瀑布は破れ、津波が怒濤の勢いで俺たちに襲いかかってきた。
「枢たん!」
「心菜、手を」
離ればなれにならないよう、手を繋いでから結界魔法を使おうと彼女に手を伸ばす。しかしそんな俺の顔面に何かぶつかってきて、視界がブラックアウトした。
「キュー!」
「ぶっ」
それはウサギギツネのメロンだった。
大地の肩に乗っていたのが、非常事態に動転して、俺に飛びかかってきたのだ。
伸ばした手はすれ違う。
最後に見たのは「ガーン」とショックを受けた心菜の顔だった。
津波に飲まれる瞬間、意識を失っても持続する泡状の結界を、仲間たち個別に掛けていた。だから心菜たちの心配はしてなかったのだが。
うっかり自分に魔法掛けるの忘れてた……。
「……はっ」
気がついた時には、びしょ濡れで洞窟の中に倒れていた。
頬をペロペロなめる小動物。
この事態の元凶であるウサギギツネのメロンだ。
俺はメロンを抱えて上体を起こした。
「まずったなー……ひとりか」
見回しても誰もいない。
咄嗟に結界魔法を使い忘れたとはいえ、俺自身は自動防御のスキルが発動してダメージは無かった。濡れた服が気持ち悪いだけだ。
「そういえば、パーティーを組んでたな」
やっと思い出して、視界の隅っこのアイコンに指を走らせる。
異世界に落ちる際にリセットされて使えなかったパーティーメニューだが、今は改めてパーティーを組んでいるので使えるはずだった。
この世界ではゲームじみたグラフィックの、直線で構成された簡易マップを参照できる。
パーティーを組んでいる場合は、マップにメンバーの位置が表示される仕様だ。
今、マップを見たところ、近くに心菜たちはいないようだった。
通信やメッセージを飛ばしたりする機能も無い以上、お手上げだ。
「メンバーの名前とHPバーもグレーアウトされてやがる……使えねーな」
離れ過ぎているらしく、心菜たちの位置もHPも確認できない。
俺は、パーティーのステータス確認を早々に諦めた。
この世界で過ごした千年間で学んだことは、ゲームのようなシステム画面やメッセージは、最終的には何の役にも立たないということだ。かゆいところまで手が届かないので、結局、自分のスキルか、直接見たり聞いたりした情報が一番頼りになる。
「照明球」
暗くて周囲の様子が分からないので、魔法で明かりを付ける。
壁や地面は赤みがかっており、濡れて光っている。
生暖かい風が頬を撫でた。
何か普通の洞窟と違うような……?
『テステス~♪ 聞こえるカナメ~?』
「リーシャン?!」
頭上に小さな金色の光の球が現れた。
光からリーシャンの声がする。
「どこにいるんだ?」
『カナメの仲間と一緒にいるよ。僕、機転を効かせて、カナメの仲間の人間をまとめて保護したんだ。偉いでしょー褒めて褒めて!』
ナイスフォローだ、リーシャン。
「偉いぞリーシャン。俺ははぐれたけどな……」
『カナメったら、自分に魔法掛けるの忘れてたでしょー。流される方向が違ってて回収できなかったよー』
「うっ……ところでリーシャン、この魔法は何だ? 電話みたいな」
「デンワ? これはね、僕が開発した神様連絡網だよ!」
「神様……連絡網?」
遠隔地にいるはずのリーシャンの声が、クリアに聞こえてくる。かなり精度の高い魔法だ。マスコットみたいな見た目に惑わされるが、リーシャンは祝福の竜神。魔法は得意なのである。
『遠い場所にいるカナメと話すために、前から準備してたんだよー』
「なるほど。リーシャン、そっちはどこにいるか、場所は分かるか?」
『僕らは海底遺跡だよ。カナメは……海神マナーンのお腹の中だね!』
「は?」
俺は思わず間抜けな声を漏らして、周囲を見回した。
お腹の中?
海神マナーンは巨大な鯨だ。人ひとりくらい飲み込めそうな。
ど、どうりで壁がうねってると思った……やば、消化吸収されるんじゃね?!
1
お気に入りに追加
3,898
あなたにおすすめの小説
フェンリルに育てられた転生幼女は『創作魔法』で異世界を満喫したい!
荒井竜馬
ファンタジー
旧題:フェンリルに育てられた転生幼女。その幼女はフェンリル譲りの魔力と力を片手に、『創作魔法』で料理をして異世界を満喫する。
赤ちゃんの頃にフェンリルに拾われたアン。ある日、彼女は冒険者のエルドと出会って自分が人間であることを知る。
アンは自分のことを本気でフェンリルだと思い込んでいたらしく、自分がフェンリルではなかったことに強い衝撃を受けて前世の記憶を思い出した。そして、自分が異世界からの転生者であることに気づく。
その記憶を思い出したと同時に、昔はなかったはずの転生特典のようなスキルを手に入れたアンは人間として生きていくために、エルドと共に人里に降りることを決める。
そして、そこには育ての父であるフェンリルのシキも同伴することになり、アンは育ての父であるフェンリルのシキと従魔契約をすることになる。
街に下りたアンは、そこで異世界の食事がシンプル過ぎることに着眼して、『創作魔法』を使って故郷の調味料を使った料理を作ることに。
しかし、その調味料は魔法を使って作ったこともあり、アンの作った調味料を使った料理は特別な効果をもたらす料理になってしまう。
魔法の調味料を使った料理で一儲け、温かい特別な料理で人助け。
フェンリルに育てられた転生幼女が、気ままに異世界を満喫するそんなお話。
※ツギクルなどにも掲載しております。
異世界へ全てを持っていく少年- 快適なモンスターハントのはずが、いつの間にか勇者に取り込まれそうな感じです。この先どうなるの?
初老の妄想
ファンタジー
17歳で死んだ俺は、神と名乗るものから「なんでも願いを一つかなえてやる」そして「望む世界に行かせてやる」と言われた。
俺の願いはシンプルだった『現世の全てを入れたストレージをくれ』、タダそれだけだ。
神は喜んで(?)俺の願いをかなえてくれた。
希望した世界は魔法があるモンスターだらけの異世界だ。
そう、俺の夢は銃でモンスターを狩ることだったから。
俺の旅は始まったところだが、この異世界には希望通り魔法とモンスターが溢れていた。
予定通り、バンバン撃ちまくっている・・・
だが、俺の希望とは違って勇者もいるらしい、それに魔竜というやつも・・・
いつの間にか、おれは魔竜退治と言うものに取り込まれているようだ。
神にそんな事を頼んだ覚えは無いが、勇者は要らないと言っていなかった俺のミスだろう。
それでも、一緒に居るちっこい美少女や、美人エルフとの旅は楽しくなって来ていた。
この先も何が起こるかはわからないのだが、楽しくやれそうな気もしている。
なんと言っても、おれはこの世の全てを持って来たのだからな。
きっと、楽しくなるだろう。
※異世界で物語が展開します。現世の常識は適用されません。
※残酷なシーンが普通に出てきます。
※魔法はありますが、主人公以外にスキル(?)は出てきません。
※ステータス画面とLvも出てきません。
※現代兵器なども妄想で書いていますのでスペックは想像です。
不死王はスローライフを希望します
小狐丸
ファンタジー
気がついたら、暗い森の中に居た男。
深夜会社から家に帰ったところまでは覚えているが、何故か自分の名前などのパーソナルな部分を覚えていない。
そこで俺は気がつく。
「俺って透けてないか?」
そう、男はゴーストになっていた。
最底辺のゴーストから成り上がる男の物語。
その最終目標は、世界征服でも英雄でもなく、ノンビリと畑を耕し自給自足するスローライフだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
暇になったので、駄文ですが勢いで書いてしまいました。
設定等ユルユルでガバガバですが、暇つぶしと割り切って読んで頂ければと思います。
伯爵夫人のお気に入り
つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。
数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。
喜ぶ伯爵夫人。
伯爵夫人を慕う少女。
静観する伯爵。
三者三様の想いが交差する。
歪な家族の形。
「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」
「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」
「家族?いいえ、貴方は他所の子です」
ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。
「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。
月誓歌
有須
恋愛
第五回カクヨムwebコンテスト特別賞頂きました! 詳細は近況ボードにて。
↓↓以下あらすじ↓↓
メイラは清貧を旨とする修道女。親のない子供たちを育てながら神に仕える日々を送っているが、実はハーデス公爵の妾腹の娘であった。
ある日父親に呼び出された彼女は、エゼルバード帝国皇帝ハロルドの後宮に妾妃としてあがるように命じられる。
主人公は修道女から後宮の妃へと転身します。
時に命を狙われ、時に陛下から愛でられ、侍女たちにも愛でられ、基本平凡な気質ながらもそれなりにがんばって居場所を作ってきます。
現在、後宮を飛び出して家出中。陛下は戦争中。
この作品は、小説家になろう、アルファポリス、カクヨムで試験的なマルチ投稿をしています。
よろしくお願いします。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎
って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!
何故こうなった…
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
そして死亡する原因には不可解な点が…
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる