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第三部 魔界探索
73 海神マナーン
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リーシャンと少し話して通話を切る。
空中にきらめいていた黄金の光は、そのまま金鉱石の破片となって俺の手元に落ちてきた。リーシャンはこの石を媒介に、神様連絡網を成立させていたらしい。
俺は金属を加工する魔法を使って、石に穴を開けると、紐を通して手首に取り付けた。
紐は携帯しているポーチに入っていたものだ。俺は転送魔法が使えるので、大きな荷物はアダマスで保管してもらって、ほとんど手ぶらで旅をしていた。
落ち着いて周囲を見回す。
生暖かい風と共に、ズザザと何か這いずり回るような不気味な物音がした。
「マナーンの奴、俺に用があるのなら、声を掛けてくれればいいのに」
ここは海神マナーンの腹の中だという。
もちろんマナーンは言葉を話す、知性ある神だ。何も言って来ないのは変である。
マナーンが無言だった理由は、ほどなくして分かった。
「げっ……」
ミミズみたいモンスターが、大挙して現れたからである。
『アニサキス Lv.456』
そりゃ、腹の中でモンスターが暴れてたら、苦しくて会話できないわな……って、俺に倒してくれってか?!
こちらに向けて突っ込んでくるモンスターを、慌てて回避した。
「重力球!」
俺は一瞬で聖晶神の杖を召喚すると、紫色の電光を散らす魔法の球を、連続してモンスターに投げつけた。
大地属性の魔法「重力球」。
触れた相手の体重を増大し、超重力から発生した空間のひずみによる大ダメージを与える。
「よっ……と」
壁を蹴って着地すると同時に、どさどさと背後でモンスターが転がった。
「極光陣地!」
杖をかかげて回復の魔法を使う。
壁に刻まれた裂傷がみるみる間に癒えていった。
『……感謝する』
ややあって、低い女性の声があたりにこだまする。
海神マナーンの声だ。
「いいよ、困った時はお互いさまだ」
俺は天井を見上げて答えた。
マナーンの腹の中だから、どこ見て会話したものか悩む。
『お前は……ひょっとして……聖晶神アダマント?』
「へ? もしかして知らずに俺を飲み込んだの」
気まずい沈黙がその場に落ちた。
『私好みの人間の男が流れてきたので、つい呑み込んでしまった……』
「飲み込むなよっ!」
普通の人間なら死んでるぞ!
『アダマント……』
「俺の名前は枢だ」
『結婚してくれ……』
俺は聞かなかったことにした。
「マナーン、どこか手近な陸地に俺を降ろしてくれ」
『見事にスルーされた……』
「ついでに、俺とお前で神聖境界線の補修をしていこう」
風の魔法を使って空中に浮かぶと、マナーンの喉から口を目指す。
『独身で千年、やっと理想の男神に巡り合えたと思ったのに……』
「悪いが他をあたってくれ。そうだ、時の神クロノアはどうだ?」
『あれは腹黒いから嫌だ……』
雑談しながら、千里眼スキルを駆使して、マナーンと神聖境界線の補修を行う。
マナーンは元いた砂浜に俺を帰してくれた。
生臭い腹の中から解放されて、日光を浴びながら背伸びする。
潮風が心地よいぜ。
海神マナーンは、紺碧の色をした巨鯨だ。生きてきた年月分、フジツボが体にくっついている。でかい体の中で、黒いつぶらな瞳だけがやたら可愛い雰囲気をかもしだしていた。
『私の母は、島を背中に背負っていた……』
「へえー」
『大陸が壊れて、アダマスが沈みそうになったら、私が背負ってあげる……』
「縁起でもないこと言うなよ」
マナーンはちょっと言うことが夢見がちだ。
それにしても、心菜たちは来ないのか。
リーシャンは「海底遺跡から地上に戻るルートがあるから、元の砂浜で合流しよう」と言っていた。
「海底遺跡から地上に戻るって、地下でつながってるってことか?」
『つながっている……先は、ここじゃない。魔界だ……』
「なんだって?」
俺のつぶやきを聞いた海神マナーンは、砂浜をゴロゴロしながら答えた。
『あれはレベルアップのダンジョン……昔、あそこから勇者は魔界に向かった』
「先に言えよ、そういうことは! リーシャンはそれを知っていて」
無邪気なリーシャンの声音を思い出す。
あれは知らなそうだな。
「マナーン、海底遺跡まで連れていってくれ!」
『らじゃー……』
俺は手首に付けた金色の石をにぎりしめた。
片道通行の電話じゃ意味ないと、リーシャンに教えなければ。
空中にきらめいていた黄金の光は、そのまま金鉱石の破片となって俺の手元に落ちてきた。リーシャンはこの石を媒介に、神様連絡網を成立させていたらしい。
俺は金属を加工する魔法を使って、石に穴を開けると、紐を通して手首に取り付けた。
紐は携帯しているポーチに入っていたものだ。俺は転送魔法が使えるので、大きな荷物はアダマスで保管してもらって、ほとんど手ぶらで旅をしていた。
落ち着いて周囲を見回す。
生暖かい風と共に、ズザザと何か這いずり回るような不気味な物音がした。
「マナーンの奴、俺に用があるのなら、声を掛けてくれればいいのに」
ここは海神マナーンの腹の中だという。
もちろんマナーンは言葉を話す、知性ある神だ。何も言って来ないのは変である。
マナーンが無言だった理由は、ほどなくして分かった。
「げっ……」
ミミズみたいモンスターが、大挙して現れたからである。
『アニサキス Lv.456』
そりゃ、腹の中でモンスターが暴れてたら、苦しくて会話できないわな……って、俺に倒してくれってか?!
こちらに向けて突っ込んでくるモンスターを、慌てて回避した。
「重力球!」
俺は一瞬で聖晶神の杖を召喚すると、紫色の電光を散らす魔法の球を、連続してモンスターに投げつけた。
大地属性の魔法「重力球」。
触れた相手の体重を増大し、超重力から発生した空間のひずみによる大ダメージを与える。
「よっ……と」
壁を蹴って着地すると同時に、どさどさと背後でモンスターが転がった。
「極光陣地!」
杖をかかげて回復の魔法を使う。
壁に刻まれた裂傷がみるみる間に癒えていった。
『……感謝する』
ややあって、低い女性の声があたりにこだまする。
海神マナーンの声だ。
「いいよ、困った時はお互いさまだ」
俺は天井を見上げて答えた。
マナーンの腹の中だから、どこ見て会話したものか悩む。
『お前は……ひょっとして……聖晶神アダマント?』
「へ? もしかして知らずに俺を飲み込んだの」
気まずい沈黙がその場に落ちた。
『私好みの人間の男が流れてきたので、つい呑み込んでしまった……』
「飲み込むなよっ!」
普通の人間なら死んでるぞ!
『アダマント……』
「俺の名前は枢だ」
『結婚してくれ……』
俺は聞かなかったことにした。
「マナーン、どこか手近な陸地に俺を降ろしてくれ」
『見事にスルーされた……』
「ついでに、俺とお前で神聖境界線の補修をしていこう」
風の魔法を使って空中に浮かぶと、マナーンの喉から口を目指す。
『独身で千年、やっと理想の男神に巡り合えたと思ったのに……』
「悪いが他をあたってくれ。そうだ、時の神クロノアはどうだ?」
『あれは腹黒いから嫌だ……』
雑談しながら、千里眼スキルを駆使して、マナーンと神聖境界線の補修を行う。
マナーンは元いた砂浜に俺を帰してくれた。
生臭い腹の中から解放されて、日光を浴びながら背伸びする。
潮風が心地よいぜ。
海神マナーンは、紺碧の色をした巨鯨だ。生きてきた年月分、フジツボが体にくっついている。でかい体の中で、黒いつぶらな瞳だけがやたら可愛い雰囲気をかもしだしていた。
『私の母は、島を背中に背負っていた……』
「へえー」
『大陸が壊れて、アダマスが沈みそうになったら、私が背負ってあげる……』
「縁起でもないこと言うなよ」
マナーンはちょっと言うことが夢見がちだ。
それにしても、心菜たちは来ないのか。
リーシャンは「海底遺跡から地上に戻るルートがあるから、元の砂浜で合流しよう」と言っていた。
「海底遺跡から地上に戻るって、地下でつながってるってことか?」
『つながっている……先は、ここじゃない。魔界だ……』
「なんだって?」
俺のつぶやきを聞いた海神マナーンは、砂浜をゴロゴロしながら答えた。
『あれはレベルアップのダンジョン……昔、あそこから勇者は魔界に向かった』
「先に言えよ、そういうことは! リーシャンはそれを知っていて」
無邪気なリーシャンの声音を思い出す。
あれは知らなそうだな。
「マナーン、海底遺跡まで連れていってくれ!」
『らじゃー……』
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