異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます

空色蜻蛉

文字の大きさ
26 / 97
(第二部)第二章 出会いと別れ

01 久しぶりの故郷

しおりを挟む
 天空神ラフテルに強制送還されてしまった樹たち。
 樹は急いで学生服の上着を脱ぎ、ソフィーのウサギ耳が見えないように頭から被せた。

「静かにして」
「はいぃ」

 全く心臓に悪い。
 フクロウは樹の肩に登ってくるが、こちらはそのままにする。
 最近は変わったペットを飼っている人も多いので、そんなに変な目で見られないだろう。たぶん……。

「と、とりあえず喫茶店にでも入って、作戦会議しようよ」

 結菜ゆうなが引きつった顔で提案した。
 反対する理由はない。
 樹たちは連れ立ってファーストフードのチェーン店に入った。物珍しそうにキョロキョロする、ウサギ耳の少女を皆で隠すようにしながら。
 ワンコインドリンクを手に、他の客からできるだけ離れた席に座った。

「……途中からよく分からなかったけど、樹と神様が喧嘩しようとしてたってことでOK?」

 智輝ともきがコーラを飲みながら樹に聞く。
 確かに途中から死の精霊エルルが乱入して、状況が分かりにくくなっていたが。

「うん。そういう理解で良いと思う」

 樹はアイスコーヒーを一口飲んで、頷いた。
 
「あああー、俺たちこれからどうすりゃいいんだ?」
「とりあえず、地球に帰ってきたからには学生業でしょ」

 頭を抱える智輝に、結菜がぴしゃりと言った。
 その通りだ。
 異世界に行って帰ってきたおかげで時間感覚が麻痺してしまっているが、明日からは普通に学校に通わなければならない。

「どうしよう……ソフィーを連れて返ったら僕の親は」

 樹は悩んだ。
 いきなり女の子を、しかもウサギの耳が生えた女の子を連れて帰ったら、混乱は避けられない。

「じゃあ私がソフィーちゃんの面倒見るよ」

 結菜が手を上げる。
 彼女の家はちょうど親が外出中らしい。帰ってきたとしても、同じ女性なので友達を泊めると言えば誤魔化せるそうだ。
 ソフィーは結菜に任せることにしよう。
 樹はフクロウのアウルを連れて、自分の家に戻ることにした。

「ああ、そういえば、僕は英司の連絡先を知らない」
「お。交換しとくか」

 樹と英司はスマートフォンを取り出して連絡先を交換した。
 同じ高校に通う、智輝・結菜・樹はお互いの連絡先を知っているが、一人だけ別の高校で異世界でも途中から合流した英司は、智輝たちほど樹と親しくない。
 今後のことは明日以降に話し合おうということにして、樹たちはひとまず解散した。

 仲間と別れた樹はフクロウを肩に乗せたまま、帰路に着く。
 徒歩圏内の通学で本当に良かった。
 電車やバスに乗ればフクロウを奇異な目で見られただろう。幸い帰路は人通りが少なく、道行く人も樹の肩のフクロウに驚いた目は向けても、騒がずに通りすぎて行く。

 樹の家は、住宅街にある一戸建てだ。
 広くない庭にはトネリコの大木が植わっていて、細かな葉が風にしゃらしゃらと揺れている。
 まだ家族が帰ってきていないようで、玄関の扉には鍵がかかっている。
 樹は家に着くと二階に上がって、自分の部屋に入る。

 深呼吸すると風の音が聞こえた。
 鳥の鳴き声が、木々の震えが、今まで意識していなかった自然の音が聞こえてくる。
 
 それは精霊になってしまった今の樹だからこそ、拾える音だった。
 肉体を持っていても、もう樹は普通の人間とは違う。
 カーテン越しであっても人間の耳には聞こえない音が、さざめきのように樹を襲った。

 アウルが心配そうに樹に聞く。

『イツキや、大丈夫か。世界樹から離れるとお前は……』
「大丈夫だ。今はまだ」

 身体が重い。
 世界の壁を越えて、本体である世界樹から離れたことで、違和感が強くなっている。
 魂があの世界に帰りたがっている。
 早く世界樹の元に戻らないと、いずれ体力が落ちて、病気という形で動けなくなってしまうだろう。

「何とか天空神に邪魔されずに、異世界に帰る方法を見つけないとな」

 ベッドに横たわった樹は、フクロウの胸毛に手を伸ばしながら考え込んだ。




 縹田英司ハナダエイジは、自分が平均的な同じ年齢の学生達とは、少し特異であると自覚している。何しろ、異世界で勇者をやってるなんて、普通に同級生に話しても頭がおかしいと思われるだろう。

「ただいまー」

 異世界から帰ってきた英司は疲れていた。
 買い物に行って欲しいと頼む母親を適当にいなして、自室に逃げ込む。
 これでゆっくり休めると思いきや、意外な人物が部屋で待っていた。

「英司、おかえり」
「勝手に部屋に入るなよ、詩乃しの! くそっ、うちの親も幼なじみだからって、女の子を年頃の男の部屋に通すなんて何考えてんだ」

 ショートカットに吊り目の少女が、英司の部屋で我が物顔でくつろいでいる。
 彼女は近所に住む幼なじみの岬詩乃ミサキシノという少女だ。早く休みたいと思っている英司は、幼なじみを「出ていけ」と追い出そうとした。
 しかし、彼女の目の縁に溜まる涙を見て思いとどまる。

「詩乃?」
「英司、聞いて! こんなこと、英司にしか相談できない!」

 涙目で迫る幼なじみの顔を見て英司は目を擦った。
 気のせいだろうか。
 幼なじみの頭に三角の猫耳が見えるような。

「つ、疲れて目がおかしくなってるんだ。そうか異世界の影響か」

 ぶつぶつ呟く英司。
 逃げ腰の彼にずずいと迫る詩乃。

「さっき鏡を見たら猫耳が生えてきちゃって。尻尾も!」
「は?!」
「勘違いとかじゃないよね? 私どうなっちゃったのー?!」

 何だと。

「ええええーーーっ?!」

 幻ではない。
 何度目を擦っても幼なじみの猫耳が消えないことに気付いて、英司は絶句した。
しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。