5 / 36
知らない男と昨日の記憶【ゼン】
しおりを挟む
目を開けるとそこには知らない顔があった。
派手な金髪が顔にかかっていて、半分しか様子が分からなかったが、俺の知り合いにこんなに綺麗な顔のやつはいない事だけは分かる。
至近距離で気持ち良さそうにスヤスヤと眠るそいつは、何故か俺の服を着て丸まっていた。慌ててかかっていた毛布をどかし下を見ると、辛うじてパンツは履いているが、その他は何も身に付けていない。
困った。全く状況が飲み込めない。
………………誰だ?
一瞬、女の子に見えて焦ったが、体格はヒョロヒョロだが男のそれだった。男なら絶対に間違いは起きていない。そう思うと少しだけ落ち着くことができた。
俺は起き上がると自分の格好を見た。昨日のためにわざわざ買った新品のシャツはボタンが開いていてはだけている。俺が持っていたものの中で一番マシな黒のスラックスは、半分履いたまま寝ていたためシワだらになっていた。
ん? 昨日?
思い返せば昨日、俺は芽依のために作った指輪を渡すために、普段行かないようなバーに行ったのだ。芽依の結婚を未だに引きずっているのを悟られたくなくて、気合を入れて、自分なりに背伸びをしてオシャレもして、一生懸命場所を選んで。
だけど、その結果は。
「あー、思い出してきた……」
デキ婚。
芽依の口から確かに聞いた。
結婚という事実だけでも打ちのめされていたのに、更に追い討ちをかけられたような気がした。
もう友人の関係なら、おめでとう、と言ってあげるべきだったと、今になって思う。しかしあの時は、それを言ってあげられるような余裕が無かった。
それは、今もか。
付き合っていた時、俺は初めての彼女である芽依のことが大好きだった。
当然、芽依も同じ気持ちなのだと思い込んでいたが、徐々に芽依の意識が他に向き始めていると気付いてしまった。多分、真面目な芽依は浮気はしていない。それでも俺といても気もそぞろな芽依と付き合っていくことに疲れてしまった俺は、卑怯なことに、芽依から別れを切り出すように仕向けていった。仕事が忙しいからと連絡をおざなりにしてみたり、返してもどこかそっけなかったり。
自分から振る勇気はない。だから全ての負担を芽依に負わせた。
いっそ嫌ってくれたら良かったのに、と思った。それだけのことをしている自覚があった。なのに、芽依は友達に戻ろう、とそれだけ言った。
芽依から言って貰えば諦めもつくだろうと踏んでいたのに、まさか諦めがつくどころか、こんなことになるなんて。
トラウマの発端の回想を追えると、俺は現実に目を向けた。
イレギュラーなこの男の存在が無かったら、もしかしたら暫くは廃人のようになっていたかもしれない。そう思うと、未だに俺の隣で寝ているこの不審者に感謝するべきなのかもしれない。
……いや、それはないか。
いくら今のところ実害を被ってはいないと言っても、知らない男が横で寝ている状況は普通に怖い。起きる前に警察を呼ぼうかと思ったが、自分に昨日の夜の記憶が無い以上、この男の話を聞いてからの方がいいような気がする。
俺が立ち上がると、毛布がずれ落ちた。
そういえば毛布を掛けた記憶は無い。そもそも家に帰ってきた記憶も無いのでもしかしから自分でやったのかもしれないが、この男が掛けてくれた可能性も残っている。まだ十月とはいえ、夜と朝はかなりの冷え込みになる。布団無しで寝ていたら体調を崩していたかもしれない。
「…………」
俺は少し悩んで毛布を男に掛け直した。男は僅かに身じろぎしたが、起きることはなかった。
派手な金髪が顔にかかっていて、半分しか様子が分からなかったが、俺の知り合いにこんなに綺麗な顔のやつはいない事だけは分かる。
至近距離で気持ち良さそうにスヤスヤと眠るそいつは、何故か俺の服を着て丸まっていた。慌ててかかっていた毛布をどかし下を見ると、辛うじてパンツは履いているが、その他は何も身に付けていない。
困った。全く状況が飲み込めない。
………………誰だ?
一瞬、女の子に見えて焦ったが、体格はヒョロヒョロだが男のそれだった。男なら絶対に間違いは起きていない。そう思うと少しだけ落ち着くことができた。
俺は起き上がると自分の格好を見た。昨日のためにわざわざ買った新品のシャツはボタンが開いていてはだけている。俺が持っていたものの中で一番マシな黒のスラックスは、半分履いたまま寝ていたためシワだらになっていた。
ん? 昨日?
思い返せば昨日、俺は芽依のために作った指輪を渡すために、普段行かないようなバーに行ったのだ。芽依の結婚を未だに引きずっているのを悟られたくなくて、気合を入れて、自分なりに背伸びをしてオシャレもして、一生懸命場所を選んで。
だけど、その結果は。
「あー、思い出してきた……」
デキ婚。
芽依の口から確かに聞いた。
結婚という事実だけでも打ちのめされていたのに、更に追い討ちをかけられたような気がした。
もう友人の関係なら、おめでとう、と言ってあげるべきだったと、今になって思う。しかしあの時は、それを言ってあげられるような余裕が無かった。
それは、今もか。
付き合っていた時、俺は初めての彼女である芽依のことが大好きだった。
当然、芽依も同じ気持ちなのだと思い込んでいたが、徐々に芽依の意識が他に向き始めていると気付いてしまった。多分、真面目な芽依は浮気はしていない。それでも俺といても気もそぞろな芽依と付き合っていくことに疲れてしまった俺は、卑怯なことに、芽依から別れを切り出すように仕向けていった。仕事が忙しいからと連絡をおざなりにしてみたり、返してもどこかそっけなかったり。
自分から振る勇気はない。だから全ての負担を芽依に負わせた。
いっそ嫌ってくれたら良かったのに、と思った。それだけのことをしている自覚があった。なのに、芽依は友達に戻ろう、とそれだけ言った。
芽依から言って貰えば諦めもつくだろうと踏んでいたのに、まさか諦めがつくどころか、こんなことになるなんて。
トラウマの発端の回想を追えると、俺は現実に目を向けた。
イレギュラーなこの男の存在が無かったら、もしかしたら暫くは廃人のようになっていたかもしれない。そう思うと、未だに俺の隣で寝ているこの不審者に感謝するべきなのかもしれない。
……いや、それはないか。
いくら今のところ実害を被ってはいないと言っても、知らない男が横で寝ている状況は普通に怖い。起きる前に警察を呼ぼうかと思ったが、自分に昨日の夜の記憶が無い以上、この男の話を聞いてからの方がいいような気がする。
俺が立ち上がると、毛布がずれ落ちた。
そういえば毛布を掛けた記憶は無い。そもそも家に帰ってきた記憶も無いのでもしかしから自分でやったのかもしれないが、この男が掛けてくれた可能性も残っている。まだ十月とはいえ、夜と朝はかなりの冷え込みになる。布団無しで寝ていたら体調を崩していたかもしれない。
「…………」
俺は少し悩んで毛布を男に掛け直した。男は僅かに身じろぎしたが、起きることはなかった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~
みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。
成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪
イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる