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知らない男と昨日の記憶【ゼン】
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目を開けるとそこには知らない顔があった。
派手な金髪が顔にかかっていて、半分しか様子が分からなかったが、俺の知り合いにこんなに綺麗な顔のやつはいない事だけは分かる。
至近距離で気持ち良さそうにスヤスヤと眠るそいつは、何故か俺の服を着て丸まっていた。慌ててかかっていた毛布をどかし下を見ると、辛うじてパンツは履いているが、その他は何も身に付けていない。
困った。全く状況が飲み込めない。
………………誰だ?
一瞬、女の子に見えて焦ったが、体格はヒョロヒョロだが男のそれだった。男なら絶対に間違いは起きていない。そう思うと少しだけ落ち着くことができた。
俺は起き上がると自分の格好を見た。昨日のためにわざわざ買った新品のシャツはボタンが開いていてはだけている。俺が持っていたものの中で一番マシな黒のスラックスは、半分履いたまま寝ていたためシワだらになっていた。
ん? 昨日?
思い返せば昨日、俺は芽依のために作った指輪を渡すために、普段行かないようなバーに行ったのだ。芽依の結婚を未だに引きずっているのを悟られたくなくて、気合を入れて、自分なりに背伸びをしてオシャレもして、一生懸命場所を選んで。
だけど、その結果は。
「あー、思い出してきた……」
デキ婚。
芽依の口から確かに聞いた。
結婚という事実だけでも打ちのめされていたのに、更に追い討ちをかけられたような気がした。
もう友人の関係なら、おめでとう、と言ってあげるべきだったと、今になって思う。しかしあの時は、それを言ってあげられるような余裕が無かった。
それは、今もか。
付き合っていた時、俺は初めての彼女である芽依のことが大好きだった。
当然、芽依も同じ気持ちなのだと思い込んでいたが、徐々に芽依の意識が他に向き始めていると気付いてしまった。多分、真面目な芽依は浮気はしていない。それでも俺といても気もそぞろな芽依と付き合っていくことに疲れてしまった俺は、卑怯なことに、芽依から別れを切り出すように仕向けていった。仕事が忙しいからと連絡をおざなりにしてみたり、返してもどこかそっけなかったり。
自分から振る勇気はない。だから全ての負担を芽依に負わせた。
いっそ嫌ってくれたら良かったのに、と思った。それだけのことをしている自覚があった。なのに、芽依は友達に戻ろう、とそれだけ言った。
芽依から言って貰えば諦めもつくだろうと踏んでいたのに、まさか諦めがつくどころか、こんなことになるなんて。
トラウマの発端の回想を追えると、俺は現実に目を向けた。
イレギュラーなこの男の存在が無かったら、もしかしたら暫くは廃人のようになっていたかもしれない。そう思うと、未だに俺の隣で寝ているこの不審者に感謝するべきなのかもしれない。
……いや、それはないか。
いくら今のところ実害を被ってはいないと言っても、知らない男が横で寝ている状況は普通に怖い。起きる前に警察を呼ぼうかと思ったが、自分に昨日の夜の記憶が無い以上、この男の話を聞いてからの方がいいような気がする。
俺が立ち上がると、毛布がずれ落ちた。
そういえば毛布を掛けた記憶は無い。そもそも家に帰ってきた記憶も無いのでもしかしから自分でやったのかもしれないが、この男が掛けてくれた可能性も残っている。まだ十月とはいえ、夜と朝はかなりの冷え込みになる。布団無しで寝ていたら体調を崩していたかもしれない。
「…………」
俺は少し悩んで毛布を男に掛け直した。男は僅かに身じろぎしたが、起きることはなかった。
派手な金髪が顔にかかっていて、半分しか様子が分からなかったが、俺の知り合いにこんなに綺麗な顔のやつはいない事だけは分かる。
至近距離で気持ち良さそうにスヤスヤと眠るそいつは、何故か俺の服を着て丸まっていた。慌ててかかっていた毛布をどかし下を見ると、辛うじてパンツは履いているが、その他は何も身に付けていない。
困った。全く状況が飲み込めない。
………………誰だ?
一瞬、女の子に見えて焦ったが、体格はヒョロヒョロだが男のそれだった。男なら絶対に間違いは起きていない。そう思うと少しだけ落ち着くことができた。
俺は起き上がると自分の格好を見た。昨日のためにわざわざ買った新品のシャツはボタンが開いていてはだけている。俺が持っていたものの中で一番マシな黒のスラックスは、半分履いたまま寝ていたためシワだらになっていた。
ん? 昨日?
思い返せば昨日、俺は芽依のために作った指輪を渡すために、普段行かないようなバーに行ったのだ。芽依の結婚を未だに引きずっているのを悟られたくなくて、気合を入れて、自分なりに背伸びをしてオシャレもして、一生懸命場所を選んで。
だけど、その結果は。
「あー、思い出してきた……」
デキ婚。
芽依の口から確かに聞いた。
結婚という事実だけでも打ちのめされていたのに、更に追い討ちをかけられたような気がした。
もう友人の関係なら、おめでとう、と言ってあげるべきだったと、今になって思う。しかしあの時は、それを言ってあげられるような余裕が無かった。
それは、今もか。
付き合っていた時、俺は初めての彼女である芽依のことが大好きだった。
当然、芽依も同じ気持ちなのだと思い込んでいたが、徐々に芽依の意識が他に向き始めていると気付いてしまった。多分、真面目な芽依は浮気はしていない。それでも俺といても気もそぞろな芽依と付き合っていくことに疲れてしまった俺は、卑怯なことに、芽依から別れを切り出すように仕向けていった。仕事が忙しいからと連絡をおざなりにしてみたり、返してもどこかそっけなかったり。
自分から振る勇気はない。だから全ての負担を芽依に負わせた。
いっそ嫌ってくれたら良かったのに、と思った。それだけのことをしている自覚があった。なのに、芽依は友達に戻ろう、とそれだけ言った。
芽依から言って貰えば諦めもつくだろうと踏んでいたのに、まさか諦めがつくどころか、こんなことになるなんて。
トラウマの発端の回想を追えると、俺は現実に目を向けた。
イレギュラーなこの男の存在が無かったら、もしかしたら暫くは廃人のようになっていたかもしれない。そう思うと、未だに俺の隣で寝ているこの不審者に感謝するべきなのかもしれない。
……いや、それはないか。
いくら今のところ実害を被ってはいないと言っても、知らない男が横で寝ている状況は普通に怖い。起きる前に警察を呼ぼうかと思ったが、自分に昨日の夜の記憶が無い以上、この男の話を聞いてからの方がいいような気がする。
俺が立ち上がると、毛布がずれ落ちた。
そういえば毛布を掛けた記憶は無い。そもそも家に帰ってきた記憶も無いのでもしかしから自分でやったのかもしれないが、この男が掛けてくれた可能性も残っている。まだ十月とはいえ、夜と朝はかなりの冷え込みになる。布団無しで寝ていたら体調を崩していたかもしれない。
「…………」
俺は少し悩んで毛布を男に掛け直した。男は僅かに身じろぎしたが、起きることはなかった。
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