僕は花を手折る

ことわ子

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花を手折るまで後、3日【1】

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 三日連続で寝坊は流石に前代未聞だった。

 いくらほぼ徹夜で狩りに連れ出されていたからといって、夕方近くまで寝ていい理由にはならないのが僕たち王族だ。
 例え、やることがなかったとしても、表面上は規則正しく国民の手本になるような生活を心掛けなければいけない。万が一、この連日の寝坊が風の噂に流れれば、王族のイメージが下がってしまう。
 それだけはなんとしてでも避けなければいけない。

 僕は顔を洗って気を引き締めると、服を着替えた。
 窓の外は既に日が暮れ始めていて、オレンジ色の光に包まれている。

 昨日、というより今朝はとにかく大変だった。
 狩りから戻ると使用人たちはシセルの惨状を見て大慌てで医者を呼び、エステラ姉さんは僕の泥まみれの服と、漂う異臭に悲鳴を上げてその場に倒れた。それを見たカルロッテ様も姉さんの後を追うように意識を手放し、現場は一時地獄絵図のような状態になった。
 幸い、姉さんとカルロッテ様はすぐに意識を取り戻し、お騒がせな二人はなんだか疲れたと言ってすぐに部屋へと帰って行った。
 僕はというと、多分誰よりも疲れていると思うのに、すぐに風呂に投げ入れられ、いつもは断っているのにメイドに背中を擦られくたくたになり、気がついたときにはもう朝食を食べるような時間になっていた。
 それから倒れるように布団に潜り込み、今に至る。

「お腹空いたな……」

 睡眠欲が満たされた後、次に襲ってきたのは食欲だった。
 とても人間らしい反応で自分でもおかしくなってくる。
 部屋に運ばれてきた朝食、もとい、夕方食はスープと軽いパンのみだった。
 素っ気ないな、と一瞬思ったが、そういえば今日は『あれ』が控えているんだったと思いだした。
 今お腹を満たしてしまうと支障が出ると判断してくれたメイド長に感謝しながら、少し濃いめの味付けのスープに口をつけた。

 そこそこにお腹を満たした後、僕は準備に取り掛かるため、クローゼットを覗きこんだ。
 いつもは着ないような派手めで豪華なジャケットに袖を通すと、全身が写る僕の身長よりも大きな鏡を覗き込んだ。恰好だけは王族そのもの。ただ自分の冴えない顔が気になった。
 少しだけ疲れたような顔をしているが、他人には分からない程度なので無視することにする。普段は適当に放置している髪もブラシを使ってしっかり整えてみた。これで少しは王族らしく見えるようになっただろうか。
 本当ならメイドを呼んで準備してもらうところを、僕はいつものように全て一人で済まし、良しとした。

「これで大丈夫かな……?」

 今日はシセルの家である伯爵家をもてなす晩餐会が催される予定だ。
 本来なら、今日初めて伯爵家と正式に顔合わせをするはずだったのだが、アリンダ様は一人で盛大にフライングしてきた。いくら最愛の弟のためでもやりすぎだなと思う反面、シセルのことを大切に思う気持ちは分かってしまうから、僕も強くでることができない。
 それでも、予想もつかない行動をするところがやはり苦手だと、改めて思う。

 きっぱりと自分は頼りない人間だと宣言してしまった手前、アリンダ様と顔を合わせるのが気まずい。きっと今日もあれやこれや遠まわしに文句を言われるに違いない。
 僕は虚空を見つめてため息をついた。
 なるべくアリンダ様と遠い席につけますように、と願いながら部屋を出た。
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