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7.浅緋の泣く場所
浅緋の泣く場所⑤
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片倉は自分自身がどこまで心穏やかで過ごせるかは、自信が持てなかった。
浅緋が目の前で緊張して戸惑っている姿にすら、可愛いと思ってしまうのだから。
心を落ち着けて部屋の中を案内する。
「こちらがリビング、そっちがダイニングとキッチンです。週に2度、お手伝いさんが来てくださるので、部屋の掃除や家事などは任せています」
「あ……」
「あなたはお手伝いさんではないので、そのまま引き続きお願いする予定です。お仕事は辞めても構いませんよ?」
浅緋には苦労をさせたくはないし、そんなことをしなくても十分に養える自信はある。
それに浅緋を近くで見ると、側において誰とも接することをしたくなかった、という園村の気持ちが充分以上に理解できてしまったから。
本当ならば誰の目にも触れさせないで、側においておきたい。
彼女には好きなことをして過ごしてほしかった。
それでも仕事は続けたいという浅緋に、片倉は一瞬考える。
今後、園村ホールディングスの担当を任せようと思っているのは、槙野だ。
槙野の付き合う女性のタイプは華やかで浅緋とは真逆のタイプだ。それに槙野は仕事と私情を混同するタイプでもない。
「来週からはうちのものが園村ホールディングスに伺って仕事をする予定なのですが、その人についていただきましょうか」
「いいですか?」
「あなたがそうしたいのなら。それにそちらに伺うのは信頼できる者ですから」
「はい」
こうやって、一つ一つの事を2人で決めてゆくのも悪くないな、と片倉は感じていた。
普段なら面倒にも思うようなことでも、浅緋とならそうは思わないのだ。
「こちらがあなたの部屋です」
そう言って、片倉がキッチンの隣の部屋のドアを開ける。
それは片倉が設えた浅緋のための部屋だった。
どう思うだろうか?気に入らなかったらどうしようかと想像すると、片倉ですら緊張してしまう。
片倉が緊張するような事態はそんなにない。
「家具は足りなかったら入れましょう。気に入らなかったら買い替えても構いません」
「はい」
浅緋がくるりと見て回っている間、片倉は緊張で大きな音を立てる鼓動を抑えることができなかった。
「片倉さん」
「はい」
「お部屋、ありがとうございます。とても素敵で買い替える必要なんてありません」
「良かったです」
ひと安心した。どうやら浅緋は部屋を気に入ってくれたようだ。
「ベッドは……ここでよかったのかな?」
浅緋が気分がよさそうに、にこにこしているので、片倉はついそんなことを浅緋の耳元に囁いてしまう。
「え⁉︎ あ、あ……」
なにやら浅緋はひどく戸惑っている。
そう言えば、園村は浅緋には交際の経験はない、と言っていた。
だったらきっとベッドのことなんて、考えていなかったんだろうなあと片倉は思う。
「あの……私……」
真っ赤になった浅緋がうつむいてしまった。
片倉の視線からはそのほんのりと色づいてしまった耳が見える。
浅緋は自分の顔を一生懸命抑えていたけれど、片倉は可愛らしい浅緋の耳を咥えて味わったら、どんな風になるんだろうと考え、無理はいけないと自分を抑える。
「冗談ですよ。無理しなくていいんです」
「すみません」
浅緋が目の前で緊張して戸惑っている姿にすら、可愛いと思ってしまうのだから。
心を落ち着けて部屋の中を案内する。
「こちらがリビング、そっちがダイニングとキッチンです。週に2度、お手伝いさんが来てくださるので、部屋の掃除や家事などは任せています」
「あ……」
「あなたはお手伝いさんではないので、そのまま引き続きお願いする予定です。お仕事は辞めても構いませんよ?」
浅緋には苦労をさせたくはないし、そんなことをしなくても十分に養える自信はある。
それに浅緋を近くで見ると、側において誰とも接することをしたくなかった、という園村の気持ちが充分以上に理解できてしまったから。
本当ならば誰の目にも触れさせないで、側においておきたい。
彼女には好きなことをして過ごしてほしかった。
それでも仕事は続けたいという浅緋に、片倉は一瞬考える。
今後、園村ホールディングスの担当を任せようと思っているのは、槙野だ。
槙野の付き合う女性のタイプは華やかで浅緋とは真逆のタイプだ。それに槙野は仕事と私情を混同するタイプでもない。
「来週からはうちのものが園村ホールディングスに伺って仕事をする予定なのですが、その人についていただきましょうか」
「いいですか?」
「あなたがそうしたいのなら。それにそちらに伺うのは信頼できる者ですから」
「はい」
こうやって、一つ一つの事を2人で決めてゆくのも悪くないな、と片倉は感じていた。
普段なら面倒にも思うようなことでも、浅緋とならそうは思わないのだ。
「こちらがあなたの部屋です」
そう言って、片倉がキッチンの隣の部屋のドアを開ける。
それは片倉が設えた浅緋のための部屋だった。
どう思うだろうか?気に入らなかったらどうしようかと想像すると、片倉ですら緊張してしまう。
片倉が緊張するような事態はそんなにない。
「家具は足りなかったら入れましょう。気に入らなかったら買い替えても構いません」
「はい」
浅緋がくるりと見て回っている間、片倉は緊張で大きな音を立てる鼓動を抑えることができなかった。
「片倉さん」
「はい」
「お部屋、ありがとうございます。とても素敵で買い替える必要なんてありません」
「良かったです」
ひと安心した。どうやら浅緋は部屋を気に入ってくれたようだ。
「ベッドは……ここでよかったのかな?」
浅緋が気分がよさそうに、にこにこしているので、片倉はついそんなことを浅緋の耳元に囁いてしまう。
「え⁉︎ あ、あ……」
なにやら浅緋はひどく戸惑っている。
そう言えば、園村は浅緋には交際の経験はない、と言っていた。
だったらきっとベッドのことなんて、考えていなかったんだろうなあと片倉は思う。
「あの……私……」
真っ赤になった浅緋がうつむいてしまった。
片倉の視線からはそのほんのりと色づいてしまった耳が見える。
浅緋は自分の顔を一生懸命抑えていたけれど、片倉は可愛らしい浅緋の耳を咥えて味わったら、どんな風になるんだろうと考え、無理はいけないと自分を抑える。
「冗談ですよ。無理しなくていいんです」
「すみません」
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