嫁いできた花嫁が男なのだが？

５２

　執務室の中で、普段よりも話しやすい雰囲気の父さんが腕を組んでなにかを考え込んでいる。
　父さんは森の中に出る魔物の正体とか、魔物が何故町に出たり暴走したりする原因を知っていたんだろうし、島の王がしている錬金術のことも……。
　「カインは、自分が島の国に行ったらどんな目にあうのかは知っている様子だったか？」
　島の国に行ったらどうなるかは俺でも知ってる。
　父さんは兄さんを島の王に売ったんだから、きっと島の国に行った兄さんは相当なことがない限りは帰ってこれないんだろう。
　婿養子に行ったと言われたらそれまでなんだろうけど、錬金術で男同士でも子供ができるようにできる国だ……まさか、ジークベルトが母親になるんじゃなくて、兄さんが母親になる側として錬金術を受ける可能性もある。
　「錬金術で人体改造するってことは知ってたと思うんだけど……どうかな……詳しく聞かなかったから、分かりません」
　兄さんとジークベルトのどちらが子供を産むのかってのは、俺達がどうこう言ったところで結局は当人同士の問題なんだろうから、放っておいても良いと思うんだけどな。
　とはいえ、失敗した対象者を森に捨てて魔物と呼ぶような国のことだ、改造されてくるといわれたところで引き止める。
　「ふむ……。あの王女はカインに会いに行ったのか？」
　あの王女……？
　あ、もしかしてジョーのことを言ってる？
　もしかして父さん、ジョーのことを本当に王女だと思ってるとかないよな？
　ジョーと兄さんが婚約者同士で、ゆくゆくは結婚させるとか考えてないよな？
　ジョーの婚約者は俺になったって父さんが言ったんだ。今更変更とか認めないし、そもそも本当の第１５王女はジークベルトだし！
　王子だけど！
　「ジョセフィーヌと名乗った第１５王女なら、部屋に……父さんは、どこまで知っているのですか？」
　ジョーがジークベルトの身代わりであることとか、本当の第１５王女としてくるはずだったジークベルトも男であることとか、トリシュが実は王族であることとか。
　「さあな……婚約については、王女がカインの婚約者としてやってくることしか知らない。王女が到着する前にカインは姿を消したから、２人はまだ対面できていないと思うが……」
　よく考えればおかしな話だ。
　兄さんを島に売ったのだとしたら、大陸に王女を嫁がせる意味ってなんだろう？
　結婚して後継者が必要となった時、必ず兄さん達が島に来なきゃならない状況を作った……いやいや、後継者が必要になったら養子を迎えるって真っ当な方法がある中で、人体改造をしようって思考には至らないと思う。
　となれば、ジークベルトは兄さんを確実に島に連れ帰るための工作員かなにかだと考えることができる。
　だけど兄さんは強いから、ジョーとトリシュもお供としてついてきた。
　しっくりくる。
　ジョーは俺に恋人同にになろうとかあんとか言ってたけど、それはただ、ジークベルトの任務がしやすいように振舞っていただけなんだ。
　そうだよな……学校にも行かずに森の中で元人間を倒しまくってる奴の恋人だの、婚約者だのになりたい奴なんかいない。