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色々考えなきゃならないことを一旦忘れ、頭を空っぽにして、とりあえず屋敷に戻りジョーの部屋に入ってみれば、ベッドの上で想像以上に寛いでいるチビが目に入った。
首を持ち上げてこっちを見ているチビの瞳や表情を見る限り、とくに精神的な攻撃を受けている様子はないし、毒や痺れといった状態でもなさそうで安心した。
部屋の中には人の気配はなく、特に変わった魔法陣や魔法の形跡もない。
「(ご主人様!お帰りなさい)」
チビは恐らくかなりの長時間をここで過ごすことになると思っていたのだろう、ジョーを見るなり嬉しそうな声を上げ、チビの声が聞こえないジョーは俺を見ている。
なんて言ってるんだ?と声が聞こえてきそうだよ。
「お帰りなさいって言ってる」
微笑み、そしてチビの方を見るジョーの横顔は、王子様なんだなーと思うには十分過ぎるほど綺麗だった。
島の国では冷遇されていたとは言っていたけど、艶々した髪や肌を見れば毎日手入れはされていたんだろうなってのが分かるし、バレバレではあったけど王女として屋敷にやってきたことを考えれば、女装ができてしまえるほど華奢だということ。
まぁ、女性と比べれば十分にゴツイ……いや、トリシュの方がガッチリしてるか。
トリシュも青色を継げなかったとかいう理由で騎士になった王族なんだから、普通に考えればジョーやジークベルトを王女に仕立てるよりも簡単……というか、自然じゃない?
高い錬金術で子作りに性別が関係ないと言っても、その常識は大陸側にはない訳で……子が欲しいとなった時には絶対に島の国に行くことになるわけだから、もしかしたら兄さんを島の国に呼ぶため、とか?
色々終わったら、トリシュじゃなくて自分が王女の振りをしようとした理由について聞いてみよう。
「あぁ、ただいま」
かなり手加減をしているらしいチビの突進を真正面から受けたジョーは、少々痛みに顔を引きつらせながらも優し気にチビの頭を撫で、かなり聞き心地の良い低い声で答えている。
そうなんだよな……声が低いんだよ。
「チビ、父さんは屋敷に戻ってきた?兄さん達はまだ洞窟の中?」
俺は兄さん達から敵とみなされてない?
「(ジークベルト達は戻ってない。ホーンドオウル侯爵って既に不死身?普通に歩いてたよ)」
詳しいことはまだなにも分からないが、今のチビの言葉からは父さんが生きていることが十分過ぎるほどに伝わってきた。
戦争を止めるには父さんを説得するしかないと思っていたし、父さんが兄さんを島の王に差し出そうとすることを止めるにもそうするしかないと思っていた。
だからこそ兄さんを全く心配する様子もなく、ただ兄さんの所に案内しろと命令する父さんを突き落とした。
それなのに、生きているのだと知ってこんなに嬉しいのは何故だろう?
「何処にいる!?」
病院?それとも寝室?
「(いつもいる仕事部屋にいる)」
え……。
えぇ!?
崖から落ちて結構な大怪我を負っていたと思うんだけど、それでも仕事してんの!?
こうしちゃいられない!
ジョーの部屋を飛び出して父さんの執務室に向かい、ノックもなしに入れば、急に飛び込んできた俺に対してカッチリと呆れたような表情を浮かべている父さんがいた。
「……え?」
怪我をしている風でもなく、顔色が悪いわけでもなく、服装が乱れているわけでもなく、執務室にはいつもと同じようにビシッと服を着こなしている父さんが、いつものように優雅に座ってそこにいる。
「アイン、入って座りなさい」
座りなさいって……そうじゃないだろ!
「父さん!俺は父さんを殺……」
「座りなさい」
……こわっ。
執務室に入ってドアを閉めてからソファーに腰をかければ、父さんの鋭い視線がこちらを向き、途端になにかの魔力を感じて、少しだけ足が痺れてすぐに治った。
だから多分、本当なら身動きが取れない位の痺れ魔法を使われたんだろうと思う。
ジョーを部屋に残してきて良かったよ。
首を持ち上げてこっちを見ているチビの瞳や表情を見る限り、とくに精神的な攻撃を受けている様子はないし、毒や痺れといった状態でもなさそうで安心した。
部屋の中には人の気配はなく、特に変わった魔法陣や魔法の形跡もない。
「(ご主人様!お帰りなさい)」
チビは恐らくかなりの長時間をここで過ごすことになると思っていたのだろう、ジョーを見るなり嬉しそうな声を上げ、チビの声が聞こえないジョーは俺を見ている。
なんて言ってるんだ?と声が聞こえてきそうだよ。
「お帰りなさいって言ってる」
微笑み、そしてチビの方を見るジョーの横顔は、王子様なんだなーと思うには十分過ぎるほど綺麗だった。
島の国では冷遇されていたとは言っていたけど、艶々した髪や肌を見れば毎日手入れはされていたんだろうなってのが分かるし、バレバレではあったけど王女として屋敷にやってきたことを考えれば、女装ができてしまえるほど華奢だということ。
まぁ、女性と比べれば十分にゴツイ……いや、トリシュの方がガッチリしてるか。
トリシュも青色を継げなかったとかいう理由で騎士になった王族なんだから、普通に考えればジョーやジークベルトを王女に仕立てるよりも簡単……というか、自然じゃない?
高い錬金術で子作りに性別が関係ないと言っても、その常識は大陸側にはない訳で……子が欲しいとなった時には絶対に島の国に行くことになるわけだから、もしかしたら兄さんを島の国に呼ぶため、とか?
色々終わったら、トリシュじゃなくて自分が王女の振りをしようとした理由について聞いてみよう。
「あぁ、ただいま」
かなり手加減をしているらしいチビの突進を真正面から受けたジョーは、少々痛みに顔を引きつらせながらも優し気にチビの頭を撫で、かなり聞き心地の良い低い声で答えている。
そうなんだよな……声が低いんだよ。
「チビ、父さんは屋敷に戻ってきた?兄さん達はまだ洞窟の中?」
俺は兄さん達から敵とみなされてない?
「(ジークベルト達は戻ってない。ホーンドオウル侯爵って既に不死身?普通に歩いてたよ)」
詳しいことはまだなにも分からないが、今のチビの言葉からは父さんが生きていることが十分過ぎるほどに伝わってきた。
戦争を止めるには父さんを説得するしかないと思っていたし、父さんが兄さんを島の王に差し出そうとすることを止めるにもそうするしかないと思っていた。
だからこそ兄さんを全く心配する様子もなく、ただ兄さんの所に案内しろと命令する父さんを突き落とした。
それなのに、生きているのだと知ってこんなに嬉しいのは何故だろう?
「何処にいる!?」
病院?それとも寝室?
「(いつもいる仕事部屋にいる)」
え……。
えぇ!?
崖から落ちて結構な大怪我を負っていたと思うんだけど、それでも仕事してんの!?
こうしちゃいられない!
ジョーの部屋を飛び出して父さんの執務室に向かい、ノックもなしに入れば、急に飛び込んできた俺に対してカッチリと呆れたような表情を浮かべている父さんがいた。
「……え?」
怪我をしている風でもなく、顔色が悪いわけでもなく、服装が乱れているわけでもなく、執務室にはいつもと同じようにビシッと服を着こなしている父さんが、いつものように優雅に座ってそこにいる。
「アイン、入って座りなさい」
座りなさいって……そうじゃないだろ!
「父さん!俺は父さんを殺……」
「座りなさい」
……こわっ。
執務室に入ってドアを閉めてからソファーに腰をかければ、父さんの鋭い視線がこちらを向き、途端になにかの魔力を感じて、少しだけ足が痺れてすぐに治った。
だから多分、本当なら身動きが取れない位の痺れ魔法を使われたんだろうと思う。
ジョーを部屋に残してきて良かったよ。
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