57 / 66
49
しおりを挟む
戦闘に参加してしばらく、爆発魔法を放っていた魔物を優先的に退治すると、戦闘に向いていない魔物達が住かのある森の方に向かって逃げて行った。
個々に逃げていくといった感じではなく、確実に護衛役と見て取れる魔物がいて、それで嫌でも理解させられた。
今日の魔物達は元人間なんだって。
そして何処も怪我をしていないのに、逃げずにうずくまっている1匹の魔物を見て、嫌でも理解できた。
その魔物は、兵士が落としたウロコの盾を抱きしめて泣いていたんだ。
俺は、森で倒した魔物の牙とか角とか頑丈な革やウロコを剥ぎ取り、素材として近くの町に売りに行った。
今日の魔物が向かっていたであろう町が、その町だ。
魔物の知人や兄弟、夫婦、親子……そんな繋がりがあったであろう魔物の遺体を、遺族となる魔物には返さず、あらゆる全ての部位をただの素材として切り売りした。
「こんなの……俺の方が……」
俺の方が、盗賊じゃないか。
「……アールが悪人ならば俺の父は魔王だ。アールにだけこんな仕事を押し付けていたホーンドオウル侯爵は魔王の取り巻きと言ったところか?父の研究を止めなかった俺は魔王の手先だな」
ジョーは俺の考えていることが分かる特殊能力に目覚めでもしたのだろうか?
けど……さすがにその理論は違うよ。
実行犯は確実に俺だし、魔物の部位を素材として売っていたのは俺の独断じゃないか!
いいや、しっかりしろ。
今は立ち止まってる場合じゃない。
チビと合流して、父さんの安否を確認して、王様に会ってきたことを伝えて、そこで感じた違和感を……いや、父さんの行方を追うことが先だ。
魔物達へのケジメは、このゴタゴタが片付いてからきちんと取りに行こう。
「皆、逃げていく魔物の深追いはしないで欲しい」
そのためにも、逃げていく人達は無事に逃げ切ってほしい。
僧兵達は基本的に賊と戦っている時、逃げて行く者であっても容赦なく退治対象にするし、アジトを見つけるために極少人数で後を追って一網打尽にする。
だけども今だけはそのルールに目を瞑って見逃すように頼むしかない。
逃げていく魔物が元は人間であったところまでを話してしまえば、魔物と他の危険な生物とのハーフや、ハーフ同士の子など、本当に危険な魔物にも攻撃できなくなってしまう可能性がある。
全てが全て人間というわけではない……その見分け方なんて分からないけど、それでも今日の魔物達は皆人間だと感じた。
「分かった……けど、あの個体はどうする?逃げるどころか動かないんだが……」
顔馴染みの僧兵が泣いている魔物を不思議そうに眺め、
「あの魔物の知り合いがあの盾の素材なんだろう。魔物にも感情があるなんて、びっくりだけど」
別の僧兵が泣いている魔物から視線を逸らす。
恐らく、あの魔物が泣いている理由を察したんだろう。
「睡眠の術をかける。眠っている間に森に運んでくれないか?あの盾も一緒に……」
近付き過ぎないように注意し、丁寧に魔法陣を描く。
チャチャっと描いても丁寧に描いても、発動したときの威力に差はないんだけど、俺がしてきた行動のせいで泣いている魔物……人に向かって適当になんかできるわけがない……。
本当なら、今日倒した中に魔法を使っている者がいた理由とか、こんなにも派手な戦闘になっていたのに戦っていたのは僧兵だけで、ホーンドオウル家の兵士や騎士が1人も見当たらないこととか、色々と考えなきゃならないこともあるんだけど……。
「森の入り口にいる奴らに引き渡せばいいか?」
いや……睡眠魔法で眠っている魔物を兵士達に任せると、簡単に手柄が立てられるといって間違いなく攻撃をするのだろうし、ウロコの盾は兵士達の懐に渡るだろう。
可笑しいな……。
俺の部下である筈の兵士達よりも、この僧兵達の方が信頼できる。
「兵士には見つからないように森の奥まで頼めるか?」
入り口にいる兵士に見つからないように森に入るって、どんだけ無茶振りしてんだよって自分でも思うんだけど。
「そのつもりだ。あいつらに見られたら面倒だからな」
「通行料とか言って色々取られんだよねー」
「アールの前でそれ言うなって!あぁ……分かってるからな?お前の命令じゃないってことは」
……ほぉ。
森への出入りに通行料を取っているなんて、初めて聞いたわ。
魔物の盗伐に参加せずに入り口で座っているだけの兵士達は、守るべき領民に対して理不尽な金銭要求をしていたとは。
部下の教育って、如何すればいいのか分からなくて放置していた俺の責任だな。
しかもこんな緊急時であっても、誰1人として戦いに参加せず僧兵に任せっきりとは、情けないにもほどが……もしかして、全滅させられてたりして?
個々に逃げていくといった感じではなく、確実に護衛役と見て取れる魔物がいて、それで嫌でも理解させられた。
今日の魔物達は元人間なんだって。
そして何処も怪我をしていないのに、逃げずにうずくまっている1匹の魔物を見て、嫌でも理解できた。
その魔物は、兵士が落としたウロコの盾を抱きしめて泣いていたんだ。
俺は、森で倒した魔物の牙とか角とか頑丈な革やウロコを剥ぎ取り、素材として近くの町に売りに行った。
今日の魔物が向かっていたであろう町が、その町だ。
魔物の知人や兄弟、夫婦、親子……そんな繋がりがあったであろう魔物の遺体を、遺族となる魔物には返さず、あらゆる全ての部位をただの素材として切り売りした。
「こんなの……俺の方が……」
俺の方が、盗賊じゃないか。
「……アールが悪人ならば俺の父は魔王だ。アールにだけこんな仕事を押し付けていたホーンドオウル侯爵は魔王の取り巻きと言ったところか?父の研究を止めなかった俺は魔王の手先だな」
ジョーは俺の考えていることが分かる特殊能力に目覚めでもしたのだろうか?
けど……さすがにその理論は違うよ。
実行犯は確実に俺だし、魔物の部位を素材として売っていたのは俺の独断じゃないか!
いいや、しっかりしろ。
今は立ち止まってる場合じゃない。
チビと合流して、父さんの安否を確認して、王様に会ってきたことを伝えて、そこで感じた違和感を……いや、父さんの行方を追うことが先だ。
魔物達へのケジメは、このゴタゴタが片付いてからきちんと取りに行こう。
「皆、逃げていく魔物の深追いはしないで欲しい」
そのためにも、逃げていく人達は無事に逃げ切ってほしい。
僧兵達は基本的に賊と戦っている時、逃げて行く者であっても容赦なく退治対象にするし、アジトを見つけるために極少人数で後を追って一網打尽にする。
だけども今だけはそのルールに目を瞑って見逃すように頼むしかない。
逃げていく魔物が元は人間であったところまでを話してしまえば、魔物と他の危険な生物とのハーフや、ハーフ同士の子など、本当に危険な魔物にも攻撃できなくなってしまう可能性がある。
全てが全て人間というわけではない……その見分け方なんて分からないけど、それでも今日の魔物達は皆人間だと感じた。
「分かった……けど、あの個体はどうする?逃げるどころか動かないんだが……」
顔馴染みの僧兵が泣いている魔物を不思議そうに眺め、
「あの魔物の知り合いがあの盾の素材なんだろう。魔物にも感情があるなんて、びっくりだけど」
別の僧兵が泣いている魔物から視線を逸らす。
恐らく、あの魔物が泣いている理由を察したんだろう。
「睡眠の術をかける。眠っている間に森に運んでくれないか?あの盾も一緒に……」
近付き過ぎないように注意し、丁寧に魔法陣を描く。
チャチャっと描いても丁寧に描いても、発動したときの威力に差はないんだけど、俺がしてきた行動のせいで泣いている魔物……人に向かって適当になんかできるわけがない……。
本当なら、今日倒した中に魔法を使っている者がいた理由とか、こんなにも派手な戦闘になっていたのに戦っていたのは僧兵だけで、ホーンドオウル家の兵士や騎士が1人も見当たらないこととか、色々と考えなきゃならないこともあるんだけど……。
「森の入り口にいる奴らに引き渡せばいいか?」
いや……睡眠魔法で眠っている魔物を兵士達に任せると、簡単に手柄が立てられるといって間違いなく攻撃をするのだろうし、ウロコの盾は兵士達の懐に渡るだろう。
可笑しいな……。
俺の部下である筈の兵士達よりも、この僧兵達の方が信頼できる。
「兵士には見つからないように森の奥まで頼めるか?」
入り口にいる兵士に見つからないように森に入るって、どんだけ無茶振りしてんだよって自分でも思うんだけど。
「そのつもりだ。あいつらに見られたら面倒だからな」
「通行料とか言って色々取られんだよねー」
「アールの前でそれ言うなって!あぁ……分かってるからな?お前の命令じゃないってことは」
……ほぉ。
森への出入りに通行料を取っているなんて、初めて聞いたわ。
魔物の盗伐に参加せずに入り口で座っているだけの兵士達は、守るべき領民に対して理不尽な金銭要求をしていたとは。
部下の教育って、如何すればいいのか分からなくて放置していた俺の責任だな。
しかもこんな緊急時であっても、誰1人として戦いに参加せず僧兵に任せっきりとは、情けないにもほどが……もしかして、全滅させられてたりして?
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる
ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。
※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。
※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話)
※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい?
※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。
※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。
※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。
僕がサポーターになった理由
弥生 桜香
BL
この世界には能力というものが存在する
生きている人全員に何らかの力がある
「光」「闇」「火」「水」「地」「木」「風」「雷」「氷」などの能力(ちから)
でも、そんな能力にあふれる世界なのに僕ーー空野紫織(そらの しおり)は無属性だった
だけど、僕には支えがあった
そして、その支えによって、僕は彼を支えるサポーターを目指す
僕は弱い
弱いからこそ、ある力だけを駆使して僕は彼を支えたい
だから、頑張ろうと思う……
って、えっ?何でこんな事になる訳????
ちょっと、どういう事っ!
嘘だろうっ!
幕開けは高校生入学か幼き頃か
それとも前世か
僕自身も知らない、思いもよらない物語が始まった
孤独な蝶は仮面を被る
緋影 ナヅキ
BL
とある街の山の中に建っている、小中高一貫である全寮制男子校、華織学園(かしきのがくえん)─通称:“王道学園”。
全学園生徒の憧れの的である生徒会役員は、全員容姿や頭脳が飛び抜けて良く、運動力や芸術力等の他の能力にも優れていた。また、とても個性豊かであったが、役員仲は比較的良好だった。
さて、そんな生徒会役員のうちの1人である、会計の水無月真琴。
彼は己の本質を隠しながらも、他のメンバーと各々仕事をこなし、極々平穏に、楽しく日々を過ごしていた。
あの日、例の不思議な転入生が来るまでは…
ーーーーーーーーー
作者は執筆初心者なので、おかしくなったりするかもしれませんが、温かく見守って(?)くれると嬉しいです。
学生のため、ストック残量状況によっては土曜更新が出来ないことがあるかもしれません。ご了承下さい。
所々シリアス&コメディ(?)風味有り
*表紙は、我が妹である あくす(Twitter名) に描いてもらった真琴です。かわいい
*多少内容を修正しました。2023/07/05
*お気に入り数200突破!!有難う御座います!2023/08/25
*エブリスタでも投稿し始めました。アルファポリス先行です。2023/03/20
王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる