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 戦闘に参加してしばらく、爆発魔法を放っていた魔物を優先的に退治すると、戦闘に向いていない魔物達が住かのある森の方に向かって逃げて行った。
 個々に逃げていくといった感じではなく、確実に護衛役と見て取れる魔物がいて、それで嫌でも理解させられた。
 今日の魔物達は元人間なんだって。
 そして何処も怪我をしていないのに、逃げずにうずくまっている1匹の魔物を見て、嫌でも理解できた。
 その魔物は、兵士が落としたウロコの盾を抱きしめて泣いていたんだ。
 俺は、森で倒した魔物の牙とか角とか頑丈な革やウロコを剥ぎ取り、素材として近くの町に売りに行った。
 今日の魔物が向かっていたであろう町が、その町だ。
 魔物の知人や兄弟、夫婦、親子……そんな繋がりがあったであろう魔物の遺体を、遺族となる魔物には返さず、あらゆる全ての部位をただの素材として切り売りした。
 「こんなの……俺の方が……」
 俺の方が、盗賊じゃないか。
 「……アールが悪人ならば俺の父は魔王だ。アールにだけこんな仕事を押し付けていたホーンドオウル侯爵は魔王の取り巻きと言ったところか?父の研究を止めなかった俺は魔王の手先だな」
 ジョーは俺の考えていることが分かる特殊能力に目覚めでもしたのだろうか?
 けど……さすがにその理論は違うよ。
 実行犯は確実に俺だし、魔物の部位を素材として売っていたのは俺の独断じゃないか!
 いいや、しっかりしろ。
 今は立ち止まってる場合じゃない。
 チビと合流して、父さんの安否を確認して、王様に会ってきたことを伝えて、そこで感じた違和感を……いや、父さんの行方を追うことが先だ。
 魔物達へのケジメは、このゴタゴタが片付いてからきちんと取りに行こう。
 「皆、逃げていく魔物の深追いはしないで欲しい」
 そのためにも、逃げていく人達は無事に逃げ切ってほしい。
 僧兵達は基本的に賊と戦っている時、逃げて行く者であっても容赦なく退治対象にするし、アジトを見つけるために極少人数で後を追って一網打尽にする。
 だけども今だけはそのルールに目を瞑って見逃すように頼むしかない。
 逃げていく魔物が元は人間であったところまでを話してしまえば、魔物と他の危険な生物とのハーフや、ハーフ同士の子など、本当に危険な魔物にも攻撃できなくなってしまう可能性がある。
 全てが全て人間というわけではない……その見分け方なんて分からないけど、それでも今日の魔物達は皆人間だと感じた。
 「分かった……けど、あの個体はどうする?逃げるどころか動かないんだが……」
 顔馴染みの僧兵が泣いている魔物を不思議そうに眺め、
 「あの魔物の知り合いがあの盾の素材なんだろう。魔物にも感情があるなんて、びっくりだけど」
 別の僧兵が泣いている魔物から視線を逸らす。
 恐らく、あの魔物が泣いている理由を察したんだろう。
 「睡眠の術をかける。眠っている間に森に運んでくれないか?あの盾も一緒に……」
 近付き過ぎないように注意し、丁寧に魔法陣を描く。
 チャチャっと描いても丁寧に描いても、発動したときの威力に差はないんだけど、俺がしてきた行動のせいで泣いている魔物……人に向かって適当になんかできるわけがない……。
 本当なら、今日倒した中に魔法を使っている者がいた理由とか、こんなにも派手な戦闘になっていたのに戦っていたのは僧兵だけで、ホーンドオウル家の兵士や騎士が1人も見当たらないこととか、色々と考えなきゃならないこともあるんだけど……。
 「森の入り口にいる奴らに引き渡せばいいか?」
 いや……睡眠魔法で眠っている魔物を兵士達に任せると、簡単に手柄が立てられるといって間違いなく攻撃をするのだろうし、ウロコの盾は兵士達の懐に渡るだろう。
 可笑しいな……。
 俺の部下である筈の兵士達よりも、この僧兵達の方が信頼できる。
 「兵士には見つからないように森の奥まで頼めるか?」
 入り口にいる兵士に見つからないように森に入るって、どんだけ無茶振りしてんだよって自分でも思うんだけど。
 「そのつもりだ。あいつらに見られたら面倒だからな」
 「通行料とか言って色々取られんだよねー」
 「アールの前でそれ言うなって!あぁ……分かってるからな?お前の命令じゃないってことは」
 ……ほぉ。
 森への出入りに通行料を取っているなんて、初めて聞いたわ。
 魔物の盗伐に参加せずに入り口で座っているだけの兵士達は、守るべき領民に対して理不尽な金銭要求をしていたとは。
 部下の教育って、如何すればいいのか分からなくて放置していた俺の責任だな。
 しかもこんな緊急時であっても、誰1人として戦いに参加せず僧兵に任せっきりとは、情けないにもほどが……もしかして、全滅させられてたりして?
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