その男、有能につき……

大和撫子

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第六十三話

王位継承の秘宝

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 チューベローズの甘やかで艶のある香りがコンサバトリー内に漂う。クジャクサボテンの豪華な白い花、薄紫の蘭などが咲き誇るのを、ガラス越しの太陽が光の視線を向ける。白いテーブルの上には、王子が淹れてくれた緑茶がガラスカップに注がれ、向かい合わせに二人分置かれていた。以前の時と大きく異なるのは、車椅子ではなく普通の椅子に腰かけているという点だろうか。

 王子は笑みを浮かべる。その美しいロイヤルブルーの瞳の奥に、憂いの影が見え隠れする。儚げなその笑みに、抱き締めたい衝動に駆られる。けれども俺にはまだ、その資格はない。まだ、王子に守られている今は。

 あの後、王子と俺はこの『Secret garden秘密の花薗』に来ていた。リアンは至急調べたい事がある、との事で急いで姿を消した。

「エターナル王家にはね、代々伝わる家宝があるんだ」

 王子はゆっくりと語り始めた。すぐに、以前サイラスから聞いた話が頭を過る。

「全部で五つあってね。それを手にした者が、この世界を統べるようになっているんだ。その宝さえあれば、別にエターナル一族じゃなくても構わないんだけどね。そのせいか、本当のところ……」

 言いにくそうに俯く王子。

「……実際には、一般兵たちで治まる程度の小規模なものではあるけど、秘宝を狙って王家の宮殿に忍び込もうとする奴も少なくはないんだよね」
「そうでしたか……」

 何となく、重役より一般社員の方が仕事量が多い傾向のあちらの世界と重なる。魂のレベルがこちらの世界の方が高いとは言っても、欲に目が眩むと人間の行動はさほど変わらないって事かもなぁ。王子はほんの少し笑みを浮かべると、話しを続けた。

「それでね、一か所に保管しておくと万が一の時に危険だからね、秘宝は五つの内三つを兄上が。二つを僕が持つ事で分散しているんだ」

 サイラスが言ってた通りだな。いざこざの件は言ってなかったから、四天王クラスまでは報告が必要ないくらいの些細な出来事なのだろう。一般兵の人達、毎日本当に有難う……だな。彼らのお陰で平和が保たれている訳で。

「兄上のところにはね、この世界と……その気になれば惟光が居た世界の事も見られる『天使アウリエル(※①)の水晶球』と……」

 あ、もしかして王太子殿下様が持っていたあの水晶球かな。分からんけど……

「あらゆる願いを次々と叶えると言われる『女神エイレーネー(※②)の鏡』と。でも、これは個人的なお願い事をすれば恐ろしい罰が当たると言われるもので。あくまで世界の平和の為の願い事に限定されているんだけどね。それと、『クラウ・ソラス(※③)の聖剣』があるんだ」
「そうなのですね。ネーミングも意味深いというか……」
「うん、まぁ分かり易く、てのもあるんだろうけどね。それで、僕の方にはね。『アグラ(※④)の盾』と『テミス(※⑤)の天秤』、この二つがあるんだ」

 なるほどな……これは役割的にも、

「……バランス良く上手にわけられてらっしゃるのですね」

 と答えるの留めた。一瞬、クラウ・ソラス? アグラって何だっけ? て思ったけどすぐ思い出せて良かった……天使や堕天使、神々の物語を書く為に神話や聖書、伝承なんかを色々調べておいて良かった。その時は殆ど読まれずに「やっぱりか」と苦笑した(そういやパクった奴もいたけどな、笑)けど。今になって、役立ったな。人生に無駄な事はない、ていうけどこういうちょっとした事なのかもな。

「うん、僕もそう思う。二つにわけたのは、独裁政権やらカルト教祖に傾きがちな事を防ぐ目的もあるんだろうね。人は、権力と富と名誉を手にすると欲望の塊になって豹変する傾向があるからね」

 と王子は少し寂しそうに笑った。胸が締め付けられる。王子にはずっと笑顔で居て欲しい。その為には先ず、これから来るらしい大ピンチを乗り越えないと! それが出来て初めて、王子の側にいる資格を得られるんだ。

「……それでね」

 王子はそう続けると、胸のポケットから右手で何かを取り出した。

「これを君にあげるね」

 と差し出す右手の平。そこにはシルバーの盾をかたどったペンダントトップが乗せられていた。





********

(※①…直感や透視力、超感覚・霊聴などを司る天使)
(※②…ギリシャ神話で平和を司る女神)
(※③…神の王ヌァザの剣。鞘から抜くと光を放ち敵の目を眩ませ、隠れた敵さえも見つけ出して倒す不敗の剣。呪文が刻まれた魔剣とも言われる)
(※④…病魔や災厄、全ての邪悪なものから身を守る聖なる力を持つ言葉や神の名の一つとして、呪文や護符などに使われる事が多い)
(※⑤…ギリシャ神話の正義の女神)
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