その男、有能につき……

大和撫子

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第六十四話

アグラの盾のペンダント

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 そのペンダントトップは、縦がおよそ3cm、幅は2cm、厚さは約1m程の大きさで。アーサー王伝説なんかで大活躍しそうなのデザインで、中央に大きく五芒星が。その周りには水星、木星、太陽のマークと魔術文字(多分な、魔術辞典で見たような気がする)が彫られていた。

「これはね、王位継承の秘宝の『アグラの盾』をかたどったものなんだ。そこに護符で五芒星ペンタクルを。そこに伝達、コミュニケーション、商才などを司る水星、呼吸器や神経系にも良い、て言うしね。あとはあらゆる健康、あらゆる危険からの保護、成功、拡大、発展を司る木星。それと、影響力ある人の支持を獲得、成功と評判をもたらすと言われる太陽のマークを入れた。そこに、ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエルの四大天使の魔術文字をプラスしたんだ。窮地を乗り越えた後、惟光がこれから活躍していく上でも助けとなるものを厳選したんだ。『オーロラの涙』と同じく、ずっと身に着けていられるようにプラチナで。僕の手作りだよ、想いを込めて作ったんだ、惟光に使って欲しくて。だから受け取ってね」

 王子……わざわざ手作りなんて……

「……何て、恐れ多い……有り難き、幸せ……に存じます」

 胸がいっぱいになって、声がかすれる。それしか言えなかった。両手の平を差し出す。それはそっと手の平に置かれた。見た目よりずっと軽い。

「惟光ってば、大げさだよ。泣いて喜ぶなんてさ」

 と言いつつも満更でもない様子の王子。頬が薄っすら淡紅色に染まっている。なんだか釣られて俺の頬も熱いや。照れ隠しに、そうだ! 早速ペンダントをつけよう。『オーロラの涙』と一緒のチョーカーにすれば一石二鳥だよな。首から『オーロラの涙』を外しながら口を開く。

「……嬉しくて。殿下の手作りなんて身に余る光栄過ぎて。『オーロラの涙』と一緒につけてみても良いですか?」
「勿論だよ。つけてあげる。貸してご覧?」

 この流れだと、素直につけて貰った方が良いよな。

「有難うございます。お願いします」

 とチョーカーを差し出す。王子がそれを受け取ると、俺は「失礼します」と、立ち上がって王子の隣に移動し、背を向けて立膝をつく。チョーカーがつけやすいよう、一つに結んである髪を右手で右肩前に寄せて俯いた。王子の両手が、俺の首周りを挟みこむようにして回される。抜けるように白い手、スラっとした長い指。大理石みたいな滑らかな肌。その手が、チョーカーを俺の首にかけて後ろに回される。後ろでチョーカーを結んでくれる時ほんの少し白い指が首に触れ、そのすべすべした感触にゾクゾクッと全身が震えた。

 ……その手で、全身に触れて欲しい……

 そう感じた。何考えてるんだ、自体は切迫してるっていうのに。

「はい、つけたよ」

 王子の声で我に返る。

「有難うございます……あっ」

 お礼を言った途端、思わず短い声をあげた。王子が覆いかぶさるようにして俺の首に両手を回したからだ。王子にの呼吸が、耳にかかって背中の奥から震えが湧き上がって来る。それは、快楽を予感させる波……

「敏感なんだね、惟光……」

 吐息混じりに、首元で囁く王子に、ゾクゾクと全身に震えが広がる。快楽の予兆の小さな波。けれども、敏感だなんて……

「そ、そんな……」

 自分が酷く淫乱みたいな気がして恥ずかしかった。王子は腕に力を込める。

「そのまま、動かないでいて。少しの間、こうしていよう……」

 甘えるように囁く王子に、コクリと頷いて応じる。更に、肯定の意を示す為、両手を応じの腕にそっと添えた。

「……大好きだ、惟光」

 不意に告げられた秘かに待ち望んでいた言葉に、頭の芯が歓喜の衝撃に痺れた。

「……自分もです。お慕い申し上げております、殿下」

 そのまま本音を吐露する。まるで熱に浮かされたように紡ぎ出される己の声にいささか狼狽しつつ。

「惟光!」

 不意にグイッと抱き上げられるようにして立ったかと思うと、そのまま王子の腕に掻き抱かれていた。そのまま王子の胸に顔を埋める。

 ……このまま、時が止まれば良いのに……

 そう思った。

「……このまま、時が止まれば良いのにね」

 囁く王子。同じ想いだった事に、胸が喜びに打ち震える。静かに頷き、そのまま王子の抱擁に身を任せた。
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