その男、有能につき……

大和撫子

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第四十七話

風空界のプリンス再び

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「わざわざ療養所に来てくれるなんて、却って恐縮しちゃうよなぁ……」
「お見舞いに来て下さる、そう思えば良いですよ」

 央雅は笑顔でそう答えた。もうすっかり仕事モードに入っている。けれども今までと違って俺を見つめるその眼差しは、穏やかに凪いでいた。

「そっか、そう考えれば良いのか」
「はい、実際に『改めてお礼とお見舞いに』との事ですしね」

 という訳で、三日目の朝を迎えた。朝食を終え、央雅はいつもの軍服に。俺は例によってレオとノアに藍色の無地の着物を着せて貰った。帯の色は浅葱色だ。

 あれから央雅とは食事を共にし、幼い頃の思い出や学生時代の事など、色々な話をした。どうやら彼は剣道少年だったらしい。何だかピッタリなイメージだ。読書好きだった俺とはやっぱり正反対だったな。眠る時はレオとノアが隣にベッドを運んで央雅が寝られるよう準備がなされた。入浴は交代で入るくらいで、まさに寝食を共にしたという感じだ。

 少しだけ魔術の事を聞いてみた。央雅によると、コツはイメージ力らしい。「実際やってみたら上級魔法はともかく平均レベルの魔術なら案外チートかもしれん、小説を書くほどの空想力があれば結構簡単なんじゃないか」なんて言ってたけど。それって央雅が出来る奴だからそう感じるだけなんじゃないかなぁ。でも、試しにこっそりやってみよう、なんて思っている。勿論、誰にも見られていない時にな。

 という事で今、風空界のプリンスを迎える為にベッドはカーテンで仕切られ、部屋の中央には大理石で出来た楕円形のテーブルと、木製の白い椅子が八つ用意されていた。テーブルの中央には、白い花瓶に白とオレンジ、黄色のダリアの花がセンス良く活けられている。

 俺はベッドの側に用意された深緑糸のソファで央雅と座って待機しているところだ。まぁ、何とか央雅とコミュニケーションが取れるようになって良かったよ。前、リアンが言っていたけど、体調が回復して安定したら、彩光界始め各国の王族との挨拶周りや各名所を見て回りましょう、て言ってたし。そうなると央雅の世話になる事も増えていくだろうからな。早くそうなれるよう元気にならなきゃだ。

 コンコンコンとドアをノックする音。続いて、「失礼致します、風空界の方々がお見えになりました」とレオナードの声。俺は小心者につき緊張してきた。素早く立ち上がって迎え入れる準備をする央雅。俺は静かに立ち上がり、「はい、どうぞ」と答えつつ応接用のテーブルの前に歩き出した。央雅が『|主らしく、優雅に堂々としていてください。大丈夫ですよ』とアドバイスしてくれたのを参考にしてみたけど、俺とそう変わらない時期に異世界転移して、もうこの世界での重要人物になっている。やっぱりすげーよなぁ。

 ノアがドアを開け、そこへこの間チラッと見た青い軍服姿の高身長の丁寧に頭を下げて入って来た。美丈夫が入って来た。藤色の波打つ髪は腰の辺りまで伸ばされ、後ろで一つにきっちりと結ばれている。穏やかそうに見えて鋭い輝きを宿す黄緑色の涼やかな目元、右腕にあのセディを抱いて。セディは先日と売って変わってパステルブルーを基調にした王子の衣装……ほら、絵本なんかでよく見る提灯袖のブラウスに南瓜をくり抜いたようなパンツ、白タイツ姿の……に身を包み、相変わらずニコニコと嬉しそうに俺を見ている。

 美丈夫は俺に向き合うなり、セディを静かにおろし、腰にしがみつかせるときっちりと頭を下げた。気付けばノアが俺の左側に一歩下がって。右側には央雅が同じく一歩下がって控えている。レオはお茶の準備でもしているらしく、キッチンがパール色に輝いていた。

「惟光様、先日は我が国風空界のプリンス、セドリック・オーウェン様を助けて頂きまして有難うございました。国王が直接お礼に行きたいが御病気との事で気を遣わせては申し訳ないと、くれぐれもお礼を申し上げるようにとの事でした。こちらは宜しければ我が国の名物の品、風空界の五種類の風が楽しめる風空器にございます」

 と左手に抱えていた三十センチほどの白い小包みを両手で差し出した。国王自らの挨拶なんてとんでもねーや。でも風空器は興味あるぞ。

「わざわご足労頂きまして有難うございます。お土産まで頂きまして恐れ入ります」

 と両手で受け取った。あー緊張する。すかさずノアが半歩前に出て片膝をつきながら両手を捧げる。土産物を渡せ、て事だろう。素直に渡した。受け取るなり頭を下げ、サッと部屋の奥へ去る。

「申し遅れましたが、私の名はFergusファーガスと申します」

 Fergusファーガス、脳内に綴りが浮かぶ。確か「勇者」って意味だ。

「宜しくお願いします。さぁ、こちらにどうぞ」

 俺はテーブルへと誘導した。その時、

「にぃたん!」

 と言うセディの声と同時に「セドリック様!」という焦ったようなFergusファーガスの声が響いたと思ったら、物凄い勢いでセディが俺の腕の中に飛び込んできた。反射的に抱きとめはしたものの、勢い余って後ろに倒れそうになる。ヤベー、俺ってホント軟弱だな。それでも背中をまともに打つのは覚悟してセディだけは守ろう。すると、トン、と軽い音と共に両肩を支えられた。央雅だ。「有難う」と礼を述べると、「いいえ」と爽やかに微笑んだ。うーん、カッコイイぞ央雅。さすがだ。そして恐縮しっぱなしFergusファーガス。気もち、凄くよく分かるぜ。

「にぃたん、あしょぼ」

 セディは笑顔で目を輝かせた。白いワゴンに紅茶と数種類のビスケットが盛られたものを乗せてやってきたレオとノア。この二人と央雅に、焦りまくっているFergusファーガスの相手を任せ、俺はセディと遊ぶ事になった。さて、何をして遊ぶのかな? でもこの子の体力にはついていける自信ないから、どうしようか。……そうだ!

「むかしむかしのお話しをしようか」

 セディに持ちかけてみる。

「うん!」

 嬉しそうに身を乗り出した。やった!

「じゃあ、いくよ」

 即興で物語を作って語り聞かせる事にした。お話、気に入ってくれたら嬉しいな。
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