その男、有能につき……

大和撫子

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第二十四話

剥き出しの敵意VS順応力・前編

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 だ、誰だ? 俺より年下っぽいけどいきなり……

 ごほっ……げほっげほっ……ゼエーゼィ……ごほっげほっ……

「迷惑なんだよ、死んじまえ!」
 
 眉根を寄せ、憎悪に満ちた表情で再び言い放つ。ど、どう言う事だ? あからさまに敵意剥き出しじゃないか、しかも初対面だぞ?

 ベッドの上に座り込んで枕を支えに抱き締めるようにしていると、少しだけ呼吸が出来る。だけどこのまま放置はさすがにヤバい。俺だってかつて、生きる事に疲れた事は何度かあったさ。だけど死のうとまでは思わなかったぞ。しかも、いくらなんでも初対面のガキに一方的な理由で見殺しにされたかねーわ!

 ゲホゲホッ……ゴホゴホッゴホッ……

 くそっ、コイツずっと、殺意に満ちた眼差しで見てやがる。

 落ち着け、考えるんだ、コイツはどうしてこんな態度を取る? 恐らく99.9%王太子殿下がよこした奴だ。……まさか、嫉妬か? こんな俺なんかに? いや、俺の事を知ら無いだろうから有り得るか。嫉妬を剥き出しにされた過去から対処法を分析して。……俺なんかに嫉妬する奴、いる訳なかった。あ、身近に居たぞ、常に羨望の的だった弟だ。だが、あいつにそんな舐めた態度取る奴いなかったな……。仕方無い、小説により詳しくリアルな人物を書く為に、色々と調べて勉強した心理学と精神医学を活かそう! 一方的に逆恨み、嫉妬。コイツは不安なんだ。王太子殿下に愛されているのかが。かつ、ガキ特有の自惚れと自尊心、それでいてどこかに抱える自信のなさ、その不安定さを突け!

 その時、胸におさまる『オーロラの涙』がジワッと熱くなった。頼む、力を貸してくれ。あの薬湯をそこのクソガキから取り返す間これ以上咳き込まないように、会話が出来るよう呼吸の確保をしてくれ……。

 ペンダントに背中を押されるようにして口を開く。

「グッ、ゴホッ……し、初対面だろ? ゴホッゲホッ……な、何故そ……んな事する?」

 よし、かなり苦しいけど話は出来る! しめた、少し狼狽えたぞコイツ。弟と同じくらいの歳頃か、いや……もしかしたら中学生くらいかも知れん。

「お前みたいな得体の知れない奴、何で王太子殿下が特別扱いするんだよ! 生意気なんよ。死んじまえよっ!」

 怒鳴り散らす。あー……やはり嫉妬か。なら、ここは│下手《したて》に出たら益々増長されるぞ。年上を舐めるなよガキが。

「ゴホゴホッ……そ、それは……ゼィゼィ……直接、王太子……殿下に、聞け……ゴホッゴホゴホ……」

 目が泳いだ、コイツの独断で見殺しにしようとしたのに間違いないな。よし、勝負だ!

「……お、王太子殿下、は……ゴホッゴホゲホッ……面倒、見て……やれと……仰せの、筈……」

 あーやっぱり苦しい、だけどもう少し……奴はどんどん怯んで目も合わせない、もう少し……

「お、俺が……ゴホッゴホッゲホゲホッ……し、死んだら、お王太子、殿下は……どう、ゲホゴホッ……判断……なさる、かな? ゴホゴホッ……」

 クソガキがビクッとした今だ! 枕から両手を放し、そのままガキから奪い取るようにしてポットとコップを奪い取った。

「あっ!」

 一声あげ、呆然と俺を見るクソガキ。ゴホゴホ咳き込みながらポットの液体をコップに注ぐ俺。気持ちは急くけど咳き込んでなかなか上手く注げない。何とか半分ほど注いで口へと運んだ。濁った琥珀色の液体でゴボウに近い香りがする。白湯くらいの熱さで、味はかなり苦い。まだ効果は感じないけど、喘ぎながらもう半分を注いだ。

 その間、ガキは椅子の上に膝を抱えて俺を睨みつけている。随分とふてぶてしい奴だな。

 少しずつ胸の痛みが和らいで、息苦しさや喘鳴も穏やかになって来たみたいだ。もう少ししたら、楽になるだろう。ポットとコップを棚に戻した。そして枕をベッドの棚に立て掛け、そこに背中を預ける。こうすると楽だ。眠る時もこの姿勢でいこう。

 余裕の眼差しで(勿論、演技な)ガキを見つめた。ここは、俺の隠し技をかます時だな。但し、失敗したら大コケなんだが……。

 それにしても、美少年だな。さっきも言ったけどさ、小麦色の肌に子猫みたいに大きい瞳は鮮やかなピーコックグリーンなんだ。長い睫毛は勿論髪と同じ色だ。サラサラしたプラチナブロンド髪は顎の辺りまで伸ばされていて、軽くウェーブがかかっている。服装は、紺色に金ボタンの軍服……ほら、おもちゃの兵隊さんとかが着てそうなやつ。少し小柄で華奢な感じが、庇護欲をそそられて益々可愛さが引き立つんだろうな。王太子殿下も御趣味の範囲が広そうだなぁ。

 さぁ、咳も治まって呼吸も楽になったところで、隠し技といくか。ヤツは依然として俺を睨みつけているが……
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