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「タグ……」 
 浅葱の手の中のそれを見ながら匠が呟く。

 だがそれは、匠の知っている浅葱のタグ……鷲を象った物とは、全く違う形をしているようだった。

「それって……あの時、俺に握らせてくれたジンさんの……?
 最後にハルに見せた……」

「ああ、そうだ。
 これがジンのタグだ。
 匠、見てみるか?
 もうお前の目でも見えるだろう」

 浅葱は匠の……まだ包帯の巻かれている右手を取ると、しっかりと握らせるようにして、手の中へと移した。


 
 浅葱に握らされたジンのタグ。
 匠は薄明りの中でその指を開いた。
 
 そこには二つの頭を持つ蛇がいた。

「……蛇……!
 これは……双頭の……蛇……。
 浅葱さん……。
 ジンさんのタグって……蛇……なんですか……?」

 匠は自分の体の “蛇” を思い出し、背中にズキンと鈍い痛みを感じながらタグを見つめた。

「どうして……。
 よりによって、ジンさんが蛇なんて……」
 思わず言葉が零れ落ちる。

「ああ、そうだ。
 それがジンのタグ、双頭の蛇だ。
 ハルの腕に、蛇のタトゥーがあったのを覚えているか?」

「……はい……」

 忘れられるはずなどない……。
 
 匠の声が震えていた。
 そんな動揺を隠しきれない匠の姿を見ながら、浅葱は静かに話し始めた。


「……二人のご両親が亡くなった後だ……。
 俺達はこんな仕事だ、ジンもなかなか家には帰れなかった。
 そのうち、まだ学生だった春は独りの寂しさを紛らわすように、街の悪ガキどもとツルんで遊び始めた。
 最初はまだジンも笑っていた。
 だが、だんだんと春はエスカレートして行き、気付いた時にはもう、その世界から抜けられない程に名が通っていてな。
 春が自分の腕に蛇のタトゥーを彫ったと知った時、ジンは酷く自らを責めていた……。
 二人きりになってしまった大切な家族なのに、一番辛い時に自分が側に居てやれなかったからだと……。
 その時からジンは、自分のタグを双頭の蛇にしたんだ」

 そこで浅葱は一度、大きく息を吐いた。


「ジンは……俺にも多くを語らなかったが、一つだけ教えてくれた事がある。
 その双頭の蛇……。
 片方の頭はハル。
 そしてもう一つの頭は自分だと……。
 せめていつも弟を感じられるように、タグの中だけではいつも一緒……一心同体。
 ずっとかけがえのない家族であるように想いを込めた、と……。
 だからそれは、ハルがどんなに道を誤り悪に染まっても、絶対に見捨てない、離れないという、誓いだったのかもしれない……」

「ハルとジンさん……。
 二人で一つの蛇……。
 一心同体……」

「ああ……だから匠……。
 お前の背中にいるそのハルの蛇は……ジンの蛇でもあるんじゃないかと……。
 ……そう思っている……」

「……これが、ジンさんの……蛇……」

 痛みを放ち続けるだけの、この背中の蛇が……。


「すまない。
 こんな話……。
 お前にとっては、ただの気休めにしか過ぎないのはわかっている。
 ……だが……」

 小さく頭を下げ、苦脳しながらも話し続けようとする浅葱の言葉を、匠が遮った。

「いいえ……。
 それでもう、十分です……」

 匠の声に浅葱が顔を上げる。
 匠はじっと手の中のタグを見つめていた。





 次回最終話――
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