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「来週か……。思ったより早かったな」

「ああ。向こうも一刻も早く……そう思ってんだろ。
 匠が少しでも弱ってるうちに……ってな。
 一週間でどれほどの罠を張って来るのかは知らねぇが……、
 いつになるにしても、匠と流には話さねぇとな」

「……わかった」

「じゃあ、もう匠のとこに戻ってやれ。
 目を覚ました時に、お前が側にいないと不安になる」

「匠は今、俺の部屋だ」

「了解した。匠が起きたら様子を見に行くよ」




 匠が目を覚ました時には、もう夜が明けようとしていた。
 10時間近く眠っていた事になる。
 
 目の前には浅葱の姿があった。
 まだ腕枕をしたままで、浅葱の腕はしっかりと自分を守るように抱いてくれている。
 匠は身動きもせず、じっとその浅葱の顔を見つめていた。


「何かついてるか?」
 いきなり浅葱の声がして、匠はクスリと笑った。

「やっぱり、起きてたんですね……。
 腕枕……ありがとうございます。
 痛くないですか……?」

「俺を誰だと思ってる……」

 その言葉に匠はなぜか嬉しくなる。

「……はい……」 
 抱きついていた腕に、精一杯の力を込めた。

「ん? 何だ……? おかしなヤツだな……」
 そう言う浅葱の声も優しかった。

 目を閉じたまま話す浅葱のその唇を、自分から奪ってみたい衝動に駆られ、そっと体を伸ばそうとした時だった。
 左腕に激痛が襲った。

「……ンッッ!!」
 甘い時間は一気に現実へと戻される。

「ァッ……クッ……ンンッッ……っ!!」
 思わず声をあげ、腕を押さえ、痛みが引くのを待つが、それは一向に治まらない。
 痛みは体中に広がり、呼応した背中がズキズキと痛み始める。

「ンンっ!! ……ンンァアアッッ! ……!!」
「匠!……匠……!!」
 いきなり苦しみ始めた匠を、浅葱は思わず抱きしめた。

「あ……あさぎ……さ……」
 しかし、その痛みは治まる事なく匠を襲い続ける。

「待ってろ。オヤジを呼んで来る!」
 そう言って浅葱はリビングへと向った。




 深月は珍しく早朝から目を覚ましていた。
 昨日、あのまま会えなかった匠の事も気になり、ゆっくり眠れたとは言い難い体の怠さがある。
 ベッドでゴロゴロしていても気持ちが落ち着かず、一人起き出し、リビングに続くキッチンで水を飲もうとしていた時だった。

 浅葱が入って来たのを見て、
「おはようございます」
 と声を掛けた。

 だが、それに返す事も無く、
「オヤジは!?」
 と聞く浅葱の声が急を要していた。


「おやっさんは、まだここには……。
 匠さん!? 匠さん、どうかしたんですか!?」

 そう聞いた時には、浅葱はもうオヤジの部屋へ向かっていた。
 その後を深月も追いかける。
 乱暴に置いたコップが、シンクでカラカラと音を立てた。


 オヤジの部屋の前でノックをし、
「オヤジ、起きてるか? 匠を診てやってくれ」
 早口でそう声を掛けると、扉はすぐに開いた。

「朝早くからすまない……匠が……」
 言い掛ける浅葱の肩をオヤジはポンと叩く。


 深月の前を行く二人は、匠の部屋を通り過ぎ、浅葱の部屋へと入って行った。

 え……浅葱さんの……部屋……?
 ……なんで……?

 訝しみながら、深月も二人に続いて浅葱の部屋に入った。
 そこには浅葱のベッドで苦しむ匠の姿があった。
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