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 部屋でずっとオヤジが誰かと通信をしていた。
 なぜか浅葱はそこから離れようとはせず、側に立ったままだ。
 
 ソファで深月とリハビリをしていた匠にその姿は見えず、小さくやり取りされる声も、こちらまでは聞えない。
 
 だがその通信が来てすぐに、一瞬で部屋の空気が変った事は感じていた。
 いつも楽観的な深月でさえも、時折り何かを気にし、オヤジの方をチラチラと伺う……その動きは見えている。
 何が起きているんだ……。
 とうとう二人は顔を見合わせ、意を決したようにソファから立ち上がった。


 それを浅葱が『近付くな……』と目で制した。
 通信画面に映らないよう、二人に『反対側へ行け』と合図をすると、浅葱はそのまま、オヤジの横に付添うように立ち、動かなかった。


 深月は、浅葱の指示がまだ見えない匠を促し、指示通りに反対側へ回ると、自分のタブレットをチラと、オヤジと浅葱に見えるようにかざし、目配せをした。
 相手が誰かは知らないが、おやっさんは普通に話しているように見える。
 だが、浅葱さんは来るなと言う……。
 何かわからないが、嫌な感じだ。
 オヤジはその深月の動きに気が付くと、通信相手……透に悟られないように目で頷いた。


 深月のタブレットにオヤジと相手との通信が録画、中継され始めると、匠と深月はそれを無言のまま、食い入るように見つめた。
 四人の周囲が、穏やかだったマンションの部屋が、妙な緊張感に包まれようとしていた。


 そこには黒いシャツに黒ネクタイ姿の知らない男が映り、背後に見える壁は、かなり重厚で広い部屋を思わせる。
 
 この服、自分達も同じ物を持っている。
 組織の制服ともいえる軍服だ。と、いう事は組織内の人間?
 だが、おやっさんの事を先生と呼ぶ……。
 誰なんだ? この男……。
 深月と匠、同じ疑問を持っていた。


 そんな二人の疑問を他所に、オヤジとのやり取りは続き、画面の男は静かに“独り言”を話し始めた。

「私が最初に違和感を持ったのは、この審議会の出席人数。
 今までにも何度か出席しましたが、普通ならば、せいぜい五~六人。
 多くても十人程だった。
 それが今回は数十名の名前が連なっている。
 しかも有識者と称し民間人まで……。
 まぁ、民間人とはいえ、政界、財界、その関係者。
 他は医者、学者等ですが、それでも多すぎる」

「数十人だと……?」
 黙っているはずのオヤジも思わず声を上げた。
 オヤジの元にそんな情報は一つも入っていない。

「やはり、サプライズ……だったようですね」


 ……審議会?
 匠には、そんな話さえ初耳だった。
 今回の件で……自分のせいで……みんなが審議会にかけられるのか?
 思わず隣の深月の方を見るが、その言葉に驚く様子もない。

 みんな知っていたのか……。
 思わず唇を噛んだ。


 男はそのまま話し続けていた。

「今回の事件、組織を無視し、無断で人員を動かし、しかもこの破壊規模の大きさ。
 我々でも、これを揉み消すのには大変苦労しました。
 お陰で報道、警察関係各署にかなりの手間と経費がかかったわけですから、その点では審議会が開かれるのも不思議ではありません。
 だがこの件……あまりにも派手で雑だ。
 建物の大掛かりな爆破など、先生がいるチームが起こすとは……。
 少なくとも、先生を知っている者には到底、考えられない。
 いくらそこに、……です。
 浅葱君は前にも一度、爆破絡みの件で、審議会にかけられていますよね?」

 オヤジが画面を睨んだ。

「透、お前どこまで調べ……」
「その通りだ。……だからどうした」

 オヤジの声を遮って浅葱が平然と答えた。

「いや。別に。
 まぁ、それは過去の事。
 先生と知り合う前ですから、今これは大丈夫だと思っておきましょう。
 次に、この添付写真。
 もちろん、これも先生の所には届いていないのでしょうが……」
 そう言って男は一枚の写真を画面に映した。

 そこには匠が写っていた。
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