刻印

文字の大きさ
26 / 232

-25

しおりを挟む
 ジャラジャラという音が頭の中で響いていた。
 ……鎖……
 その音で匠は目を開けた。

 老人に打たれた薬でしばらく眠らされていたらしい。
 ひどく視界がぼやけていた。

 音がする上方へゆっくり目を向けた。
 自分の周りを四人の男達が取り囲こみ、その横に白衣の老人がいる。
 あの男の姿は見えなかった。

 男達は自分をどこかへ移動させようとしているのか、手を縛っていた鎖を外そうとしている。
 ジャラジャラと聞こえていたのはその音だ。

 足元には金属のトレイが置かれていた。
 老人がすぐ横に屈み込みんでいるところを見ると、そのトレイから、腕の点滴のパックを取り替え終えたばかりらしかった。
 
 老人の丸い背中……。
 匠は老人との、あのおぞましい行為を思い出していた。
 嫌悪感で気分が悪くなる……。


 ダメだ……思い出すな……。
 今はチャンスだ……考えろ……。
 ……考えるんだ……ここから出る方法を……。

 強く目を閉じ、今、自分がすべき事のみに神経を集中させた。


 もうすぐ手を縛る鎖は外されるだろう。
 あの男はいない。
 相手は老人と四人の男。
 幸いにも意識を取り戻した事は、まだ気付かれていない。
 脱出するなら今しかない。

 薬でまだ頭がハッキリしない。
 体もまだ回復していない。

 ……だが……。
 もうこれ以上、ここで好き勝手に弄ばれるわけには……。


 どうする……。
 どうする……!!


 その時、ガシャン! と音がして鎖が床に落ちた。
 縛られていた腕が一瞬自由になりフワリと宙に浮く。
 その音と感覚で反射的に体が動いていた。
 自由になったばかりの右腕に渾身の力を込め、そのまま一番近くにいた男の顔面に一撃を見舞った。


「グハッ……!」

 潰れたような声を出し、男が怯むその隙を縫って前に出ると、トレイの中のハサミを握り取った。
 目の前に居た老人の首に右腕を回し、左手でハサミを喉元に突きつける。
 老人の体に触れた瞬間、あの悪夢が蘇り体が震えたが、匠は腕を緩めなかった。

 いきなりの出来事に老人は驚き「ヒィ……」と小さく声をあげ、ふい打ちを食らった男は顔を押さえてもんどりうった。



 全てが一瞬の出来事だった。

 ハァ……
 ハァ……

 そのまま、チラと後ろを見る。
 扉まで数十メートル。
 老人を盾にゆっくりと後退った。

「……手を上げて……そのままだ……。
 壁まで……さがれ…………」
 
 四人の男達に向かって言った。
 声を出すと息が苦しかった。
 だが、弱っている事を悟られるわけにはいかない。
 
 いきなりの事に驚き、動かない男達にもう一度「さがれ!」と大声で叫んだ。
 痛みで胸が張り裂けそうだった。

「お、おいっ! ……殺される!! 
 お前達! 言う事を聞け! 私がどうなってもいいのか!
 大人しくさがれ、さがれっー!」
 
 老人が恐怖し、叫んだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...