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 ポイントは点在していた。
 何の脈絡も無く、ただ無闇に走り回った……という印象だった。
 それでもどこにヒントがあるかわからない。調べるしかなかった。

 港の貸し倉庫。
 都心のオフィス。
 郊外の一軒家……等々。

 オヤジをマンションに残し、六人はそれぞれの分担ポイントへ散った。


 郊外の一軒家へ向かう車の中、浅葱はずっと無言だった。
 助手席の深月には聞きたい事が山ほどある。
 今回探している一ノ瀬匠という人について。
 そして尊敬するおやっさんの片腕と言われるこの人、浅葱恭介という人について……。

 意を決し、浅葱の方を見るのだが、真っ直ぐ前を向いたままの顔と、何よりも人を寄せ付けそうにないその気に呑まれて何も言えず、ただ膝に置いたタブレットに向かい続けるしかなかった。


 ピリリ……

 突如鳴ったインカムに、二人は同時に神経を集中させた。
 マンションから一番近い都心へ向かった別班からの連絡だ。

「こっちはもぬけの空だ、使われた形跡さえない。完全なダミーだ」
「了解だ。じゃあ次は……」

 落胆しながらも、その声に応えオヤジの次の指示が飛ぶ。


 オヤジの前にあるPC画面にはバツ印が増えていた。
 バツ印が増えるのと同じ速度で、また新しいポイントが点滅し始める。
 それはまさに “いたちごっこ” だった。

「ぁあああーー! もうキリがねぇええ!」

 オヤジが一人、机を叩いて立ち上がる。
 ひとしきり部屋をウロウロと歩き回り、そして諦めたように元の椅子へ戻り、ドスンと座る。
 このルーティーンを、もう何度繰り返したかわからなかった。



 オヤジが指示した郊外の一軒家に着くと、浅葱はさっさと車を止め降りて行く。

「あ……浅葱さん! 敵がいるかもしれません!
 僕が今スキャンしますからちょっと待って……」
「必要ない」
 深月が言うのも聞かず、浅葱は平然と庭を横切り入って行った。

「そんな……危険です!」
 後ろで深月が叫ぶが、浅葱は扉の前で一瞬立ち止まっただけで、いきなり扉を蹴破った。
「えっ! ……あ! ……ちょ……ちょっと……! 
 無茶過ぎですよ!」


 一見、建物の中は真っ暗で人影はない。
 浅葱は手前から順に部屋の扉を次々と蹴開けていく。
 後に続く深月はタブレット片手に焦っていた。
 浅葱がテーブルや椅子を蹴って行くせいで、室内は散乱し酷い有様になっている。

 
 手がかりを……!
 何でもいい、手がかりを探さなければ……!

 深月はその荒れた部屋を必死で確認していくのだが、ここもダミーらしく何の手がかりも見つけられない。
 そこへ奥の部屋まで扉を蹴って行った浅葱が戻ってきた。


「帰るぞ。次だ」
 それだけ言うと足早に家から出て行こうとする。

「……ちょっ……! 浅葱さんっ!」
 そんな浅葱に深月は戸惑っていた。

 もっと丁寧に捜査をすれば、まだ手がかりだってあるかもしれないのに!
 それでも渋々、浅葱の後ろについて家を出ると既にエンジンが掛かっている車に飛び乗った。


「どうしてですか!? ……もっと細かく探すべきじゃないんですか!?」
 車の中で深月は食い下がった。
 だが浅葱は「無駄だ」と一言返しただけだった。

 次のポイントへ向う間も浅葱はそれ以上何も話さなかった。
 

 どうして……何故……!
 深月の中に怒りとも困惑とも取れる感情が沸き上がっていた。
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