華燭の城

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 陽が昇り、外気もわずかに暖かさを含み始めた頃、二人は部屋を出た。
 
 部屋の外は廊下さえも大理石の床で、アーチ状になった天井には細かな彫刻が施されている。
 ホールになるとそれらは一層絢爛けんらんさを増し、天井画が描かれている大広間では、二階部分にオーケストラ用のスペースもあり、宝石を散りばめ幾重にも層をなしたシャンデリアが数えきれない程、見事な輝きを放っていた。

「凄い広間だな……」
 ゆっくりと歩みを進めていたシュリも思わず足を止め、巨大な大理石の柱に身を委ね、呟いた。

「ここは、外国からのお客様をお迎えする時に使われますので、シュリ様の御披露目の宴もここで大々的に行われます。
 これが我が国の国力、そして陛下のお力なのです」

 確かに……。
 豪華絢爛な富と権力の象徴とも言えるこの城を見せられれば、どんな国でも簡単に戦さを挑もうなどとは思わなくなるだろう。
 自分の為に行うという宴も、その力を改めて国外へ見せつける為……。
 その意図がある事は明白だった。


「お体、大丈夫ですか?」
 柱にもたれかかったままのシュリにラウが声を掛ける。

「ああ……。 
 大丈夫だ……行こう」
 
 入った側と反対の扉の方を向いて体を起こしたシュリに、
「……そちらは裏方。使用人専用の出入り口ですので、こちらへ」
 ラウが手を伸べる。

「使用人の……」
 そう言われ、昨夜、廊下ですれ違った使用人達の、一様に嬉しそうで純粋な笑顔をシュリは思い出していた。

「そこに……行ってもいいかな?」

 ラウが驚いたように顔を上げた。

「それは勿論……構いませんが……。 
 高官の方々には、お披露目の宴もございますが、使用人など、下位の者にはそのような機会もございませんし……。
 皆、シュリ様にお目にかかりたく思っておりますので、願っても無い事ですが……」 

「そうか、じゃあ行こう」

「しかし、シュリ様がお出ましになられるような場所では……」

「……構わない」
 ラウが言い終わらないうちに、シュリが返事をした。

 
 豪華な正面ホールから奥の扉へと進み、長い廊下を渡ると、ラウの言った通り、通路は徐々に細く狭く、質素になっていった。
 その途中に地下へと続く階段があった。
 
 切り出したままの石を無造作に積んだだけの、手すりさえも無い急な階段のその下から、多くの人間の声が聞こえてくる。

「足元、お気を付けください」

 それだけ言うと、ラウは歩き慣れているのか、不揃いな石の階段を不自由な脚でコツコツと下りて行く。
 その後を追いシュリが下へ降りると、そこは使用人達が慌ただしく行き交う巨大な空間になった。

 半地下になっているのか、壁のかなり上部に所々、明り取り用の小さな窓がある。
 だがほとんどが石の壁か、高く積み上げられた物資で埋まっている。

 その中で多くの使用人達が、忙しく働いていた。
 皆、午後からの宴の準備に追われているらしく、指示する者の声、それに応える者の声で活気に溢れていた。
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