4 / 199
- 3
しおりを挟む
「…………ほぅ……」
しばらくの沈黙の後、ようやく王が口を開いた。
歪んでいた薄い唇の端がわずかに持ち上がり、そこから長く細い息を吐きながら、その大きな体を玉座から引き起こす。
「このワシが、神を手に入れた王にか……」
「はい」
「神を足元に屈服させ、その背を踏み立つ……。
……それも面白いかもしれぬな……。
だがそれほどの皇子ならば、それこそ易々と貰い受けはできぬだろうに」
引き起こした体を、今度は自ら男に近付ける。
「貰い受けなど、陛下らしくない事を……。
そのような小国、我が国の兵力ならば落とすのはいとも簡単。
しかもこの国は、神の国として戦さを放棄していると聞いております。
今まではその信仰心から、神を侵略しようとする国など無かったのでしょうが……」
「フン……信仰など馬鹿ばかしい。
そんな国は一捻り……」
そこまで言いかけると、王は急に口をつぐみ、すでに人の気配など無い広間を二、三度見回し、グイと男の胸元を掴み引き寄せ、更に声をひそめた。
「おい、落とすのはいいが……。
我が国が属するこの帝国も、その神国とやらを信仰しているのではないか?
帝国の皇帝閣下は信心深いと聞いた事がある。
だとすれば閣下に……こちらが逆賊と認識されるやも知れん。
この巨大帝国を敵に回したのでは、いくら神の子を手に入れても分が合わんぞ?
そこはどうする気だ?」
王に掴まれ引き寄せられたまま、男はその問いに造作もない……と言わんばかりに、不敵な笑みを浮かべた。
「そこは話の持って行き方ひとつ……。
この戦さの世、自国安泰のために我が子を政略結婚させ、人柱として敵国に差し出すのは、よくある話。
うるさい役人達にも皇帝閣下にも “侵奪した” などと言わなければ良いのです。
世界中が政情不安な今、神国さえも、いつか戦火に巻き込まれるのではないか……という恐怖心から、我が大国の庇護を求め、向こうから縁を結びたいと言って来た。
……とでも言っておけば、頭の固い役人達も大喜びするでしょう。
……陛下。
もう、つまらない葬儀には飽きられたのでしょう?
でしたら次は、両国の縁を結ぶ盛大な華燭の宴を……世界に陛下の力と、この国の安泰を見せつけるのです。
これで陛下の杞憂は全て解消されると思いますが」
「盛大な華燭の宴か……それは楽しそうだな……」
王の細い目がニヤリと笑った。
しばらくの沈黙の後、ようやく王が口を開いた。
歪んでいた薄い唇の端がわずかに持ち上がり、そこから長く細い息を吐きながら、その大きな体を玉座から引き起こす。
「このワシが、神を手に入れた王にか……」
「はい」
「神を足元に屈服させ、その背を踏み立つ……。
……それも面白いかもしれぬな……。
だがそれほどの皇子ならば、それこそ易々と貰い受けはできぬだろうに」
引き起こした体を、今度は自ら男に近付ける。
「貰い受けなど、陛下らしくない事を……。
そのような小国、我が国の兵力ならば落とすのはいとも簡単。
しかもこの国は、神の国として戦さを放棄していると聞いております。
今まではその信仰心から、神を侵略しようとする国など無かったのでしょうが……」
「フン……信仰など馬鹿ばかしい。
そんな国は一捻り……」
そこまで言いかけると、王は急に口をつぐみ、すでに人の気配など無い広間を二、三度見回し、グイと男の胸元を掴み引き寄せ、更に声をひそめた。
「おい、落とすのはいいが……。
我が国が属するこの帝国も、その神国とやらを信仰しているのではないか?
帝国の皇帝閣下は信心深いと聞いた事がある。
だとすれば閣下に……こちらが逆賊と認識されるやも知れん。
この巨大帝国を敵に回したのでは、いくら神の子を手に入れても分が合わんぞ?
そこはどうする気だ?」
王に掴まれ引き寄せられたまま、男はその問いに造作もない……と言わんばかりに、不敵な笑みを浮かべた。
「そこは話の持って行き方ひとつ……。
この戦さの世、自国安泰のために我が子を政略結婚させ、人柱として敵国に差し出すのは、よくある話。
うるさい役人達にも皇帝閣下にも “侵奪した” などと言わなければ良いのです。
世界中が政情不安な今、神国さえも、いつか戦火に巻き込まれるのではないか……という恐怖心から、我が大国の庇護を求め、向こうから縁を結びたいと言って来た。
……とでも言っておけば、頭の固い役人達も大喜びするでしょう。
……陛下。
もう、つまらない葬儀には飽きられたのでしょう?
でしたら次は、両国の縁を結ぶ盛大な華燭の宴を……世界に陛下の力と、この国の安泰を見せつけるのです。
これで陛下の杞憂は全て解消されると思いますが」
「盛大な華燭の宴か……それは楽しそうだな……」
王の細い目がニヤリと笑った。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。


鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる