華燭の城

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「…………ほぅ……」
 しばらくの沈黙の後、ようやく王が口を開いた。


 歪んでいた薄い唇の端がわずかに持ち上がり、そこから長く細い息を吐きながら、その大きな体を玉座から引き起こす。

「このワシが、神を手に入れた王にか……」

「はい」

「神を足元に屈服させ、その背を踏み立つ……。
 ……それも面白いかもしれぬな……。
 だがそれほどの皇子ならば、それこそ易々と貰い受けはできぬだろうに」

 引き起こした体を、今度は自ら男に近付ける。

「貰い受けなど、陛下らしくない事を……。
 そのような小国、我が国の兵力ならば落とすのはいとも簡単。
 しかもこの国は、神の国として戦さを放棄していると聞いております。
 今まではその信仰心から、神を侵略しようとする国など無かったのでしょうが……」

「フン……信仰など馬鹿ばかしい。
 そんな国は一捻り……」

 そこまで言いかけると、王は急に口をつぐみ、すでに人の気配など無い広間を二、三度見回し、グイと男の胸元を掴み引き寄せ、更に声をひそめた。

「おい、落とすのはいいが……。
 我が国が属するこの帝国も、その神国とやらを信仰しているのではないか?
 帝国の皇帝閣下は信心深いと聞いた事がある。
 だとすれば閣下に……こちらが逆賊と認識されるやも知れん。
 この巨大帝国を敵に回したのでは、いくら神の子を手に入れても分が合わんぞ?
 そこはどうする気だ?」

 王に掴まれ引き寄せられたまま、男はその問いに造作もない……と言わんばかりに、不敵な笑みを浮かべた。

「そこは話の持って行き方ひとつ……。
 この戦さの世、自国安泰のために我が子を政略結婚させ、人柱として敵国に差し出すのは、よくある話。
 うるさい役人達にも皇帝閣下にも “侵奪した” などと言わなければ良いのです。
 世界中が政情不安な今、神国さえも、いつか戦火に巻き込まれるのではないか……という恐怖心から、我が大国の庇護を求め、向こうから縁を結びたいと言って来た。
 ……とでも言っておけば、頭の固い役人達も大喜びするでしょう。
 ……陛下。
 もう、つまらない葬儀には飽きられたのでしょう?
 でしたら次は、両国の縁を結ぶ盛大な華燭かしょくの宴を……世界に陛下の力と、この国の安泰を見せつけるのです。
 これで陛下の杞憂きゆうは全て解消されると思いますが」

「盛大な華燭の宴か……それは楽しそうだな……」


 王の細い目がニヤリと笑った。
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