【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O

文字の大きさ
上 下
11 / 11

雨降らしは、赤面する。

しおりを挟む
獣人にとって匂いというのはとても重要だ。匂いだけでさまざまな感情を読み取ったり表現したりできる。


中でも愛情を示す際の有効な手段であり、特に気に入った相手に対して自分の匂いをつけ、周囲の者を牽制する"マーキング"を行うことは、獣人にとってごく一般的な習慣だ。



「・・・で、お、俺に、マーキングを・・・?」


ラスターが持ってきた菓子をつまみながら、ティエティが淹れた薬茶を飲む。



落ち着きを取り戻したエリオットは、思い出したことを口にした。
何故ラスターが自分のことをリュシアンの恋人だと勘違いしたのか、と。
その問いにリュシアンは平然と、そして悪びれた様子もなく『マーキングしていたからだ』と答えた。

あの帰り際の"挨拶"にそんな意味があったとは露知らず、エリオットは目をぐるぐるさせながら混乱に混乱を重ねていった。



「獣人には効果覿面だぞ。不埒な輩はまず寄ってこない。」

「俺別に不埒じゃないっすけど~」

「で、でも、リュシアンさんがわざわざそんなことしなくても、俺には誰も、」
「意中の相手を獲られたくないからに決まっている。」

「・・・・・・・・・は?」

「・・・だから、エリオットを誰にも獲られたくないから、念入りにマーキングしたんだ。」

「・・・・・・・・・?!」



『この狐、ど真面目な顔で今なんと?』・・・とでも言う筈だったのに、驚きすぎて固まるエリオット。
リュシアンはそのエリオットの様子に大層不服そうな顔で、その場面を目の当たりにした他二人は吹き出して笑いはじめた。


「きゃはははっ!ほーら、勿体ぶって何も言わないから全然伝わってない!あははははっ!」

「ぶはっ!副長ってなかなか面倒くせぇ男だったんすね。うっわ、顔怖~~」

「・・・・・・・・・黙れ二人とも。」

「大斧無双の竜騎士様もエリオットくんには敵わないわよねぇ♡あー、可笑しい。いいもの見たわ~♡」

「・・・・・・クソッ」



自分の膝に乗せたエリオットの頭をよしよしと撫でるティエティの手を遠ざけるように場所を移すリュシアン。
そのやりとりがあまりにも可笑しかったのか、ラスターは床に転げて笑っていた。



「ハァ~・・・半年分は笑った気がする。」

「・・・明日の訓練、覚えとけよ。」

「副長もそんな一面あったんすね~。なんか安心したっすよ、俺。いつも淡々と何でもこなしてるから怒り以外の感情無いのかと思ってました。」

「・・・・・・?!」

「エリオットくんにだけっすよ。マーキングも相当粘着質な感じっすもんね~。」

「ラスター、あんたこれ以上余計なこと言ったら明日が命日よ。」

「ちょ、ちょっと、ま、待ってください!」



驚きと羞恥に耐えかねて、咄嗟に立ちあがろうとしたエリオットの腰を反射的にぐっと掴み、再度座らせたリュシアンは、彼の顔を後ろから覗き込む。
青磁色の瞳と視線が交わると、みるみるうちにエリオットの少し日に焼けた肌という肌が熟れた果実のように真っ赤に染まっていった。



「嫌・・・ではなさそうで、安心した。」

「~~~~っ、も、もう、あ、あの挨拶禁止だから!!」

「獲物を逃すわけないだろう。観念するんだな。」

「にゃ、にゃに言ってんの、この人!!?」

「エリオットは本当に愛らしい。」

「きゅ、きゅ、急に、何!?」

「思ったことは口にすべきと、たった今学んだからな。」



不敵に笑うリュシアンは、目に毒だ。
目が泳ぐエリオットが助けを求めようとティエティに視線を送る。
視線に気づいたティエティはティーカップに薬茶を注ぎ足して、にこりと笑った。



「エリオットくん、観念なさい。」

「!!!?」

「他の男に助けを求めるとはいい度胸だな。」

「はふ!!!?」




至近距離に迫ったリュシアンの青磁色は、いつもより艶やかだ。


息も絶え絶えに見た空は、鮮やかな橙色で、窓の向こうで二頭の竜が喉を鳴らし、睨み合っているのがよく見えた。








おしまい























しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

春雨
2023.10.01 春雨

続きが凄く気になります!!!更新、楽しんで待っています!(急かすような言い方ですいません💦)

N2O
2023.10.01 N2O

ころねこっこ。様

がんばるぞ!と、気合いが入ります🙆‍♀️
ありがとうございます♪

解除
マリア
2023.10.01 マリア

これ続き気になります!
面白そうです!

N2O
2023.10.01 N2O

マリア 様

そう言っていただけて、とても嬉しいです!
楽しんでいただけるよう、がんばります。
感想ありがとうございました✨

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

龍神様の神使

石動なつめ
BL
顔にある花の痣のせいで、忌み子として疎まれて育った雪花は、ある日父から龍神の生贄となるように命じられる。 しかし当の龍神は雪花を喰らおうとせず「うちで働け」と連れ帰ってくれる事となった。 そこで雪花は彼の神使である蛇の妖・立待と出会う。彼から優しく接される内に雪花の心の傷は癒えて行き、お互いにだんだんと惹かれ合うのだが――。 ※少々際どいかな、という内容・描写のある話につきましては、タイトルに「*」をつけております。

【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。

N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い) × 期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい) Special thanks illustration by 白鯨堂こち ※ご都合主義です。 ※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。