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雨降らしは、赤面する。
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獣人にとって匂いというのはとても重要だ。匂いだけでさまざまな感情を読み取ったり表現したりできる。
中でも愛情を示す際の有効な手段であり、特に気に入った相手に対して自分の匂いをつけ、周囲の者を牽制する"マーキング"を行うことは、獣人にとってごく一般的な習慣だ。
「・・・で、お、俺に、マーキングを・・・?」
ラスターが持ってきた菓子をつまみながら、ティエティが淹れた薬茶を飲む。
落ち着きを取り戻したエリオットは、思い出したことを口にした。
何故ラスターが自分のことをリュシアンの恋人だと勘違いしたのか、と。
その問いにリュシアンは平然と、そして悪びれた様子もなく『マーキングしていたからだ』と答えた。
あの帰り際の"挨拶"にそんな意味があったとは露知らず、エリオットは目をぐるぐるさせながら混乱に混乱を重ねていった。
「獣人には効果覿面だぞ。不埒な輩はまず寄ってこない。」
「俺別に不埒じゃないっすけど~」
「で、でも、リュシアンさんがわざわざそんなことしなくても、俺には誰も、」
「意中の相手を獲られたくないからに決まっている。」
「・・・・・・・・・は?」
「・・・だから、エリオットを誰にも獲られたくないから、念入りにマーキングしたんだ。」
「・・・・・・・・・?!」
『この狐、ど真面目な顔で今なんと?』・・・とでも言う筈だったのに、驚きすぎて固まるエリオット。
リュシアンはそのエリオットの様子に大層不服そうな顔で、その場面を目の当たりにした他二人は吹き出して笑いはじめた。
「きゃはははっ!ほーら、勿体ぶって何も言わないから全然伝わってない!あははははっ!」
「ぶはっ!副長ってなかなか面倒くせぇ男だったんすね。うっわ、顔怖~~」
「・・・・・・・・・黙れ二人とも。」
「大斧無双の竜騎士様もエリオットくんには敵わないわよねぇ♡あー、可笑しい。いいもの見たわ~♡」
「・・・・・・クソッ」
自分の膝に乗せたエリオットの頭をよしよしと撫でるティエティの手を遠ざけるように場所を移すリュシアン。
そのやりとりがあまりにも可笑しかったのか、ラスターは床に転げて笑っていた。
「ハァ~・・・半年分は笑った気がする。」
「・・・明日の訓練、覚えとけよ。」
「副長もそんな一面あったんすね~。なんか安心したっすよ、俺。いつも淡々と何でもこなしてるから怒り以外の感情無いのかと思ってました。」
「・・・・・・?!」
「エリオットくんにだけっすよ。マーキングも相当粘着質な感じっすもんね~。」
「ラスター、あんたこれ以上余計なこと言ったら明日が命日よ。」
「ちょ、ちょっと、ま、待ってください!」
驚きと羞恥に耐えかねて、咄嗟に立ちあがろうとしたエリオットの腰を反射的にぐっと掴み、再度座らせたリュシアンは、彼の顔を後ろから覗き込む。
青磁色の瞳と視線が交わると、みるみるうちにエリオットの少し日に焼けた肌という肌が熟れた果実のように真っ赤に染まっていった。
「嫌・・・ではなさそうで、安心した。」
「~~~~っ、も、もう、あ、あの挨拶禁止だから!!」
「獲物を逃すわけないだろう。観念するんだな。」
「にゃ、にゃに言ってんの、この人!!?」
「エリオットは本当に愛らしい。」
「きゅ、きゅ、急に、何!?」
「思ったことは口にすべきと、たった今学んだからな。」
不敵に笑うリュシアンは、目に毒だ。
目が泳ぐエリオットが助けを求めようとティエティに視線を送る。
視線に気づいたティエティはティーカップに薬茶を注ぎ足して、にこりと笑った。
「エリオットくん、観念なさい。」
「!!!?」
「他の男に助けを求めるとはいい度胸だな。」
「はふ!!!?」
至近距離に迫ったリュシアンの青磁色は、いつもより艶やかだ。
息も絶え絶えに見た空は、鮮やかな橙色で、窓の向こうで二頭の竜が喉を鳴らし、睨み合っているのがよく見えた。
おしまい
中でも愛情を示す際の有効な手段であり、特に気に入った相手に対して自分の匂いをつけ、周囲の者を牽制する"マーキング"を行うことは、獣人にとってごく一般的な習慣だ。
「・・・で、お、俺に、マーキングを・・・?」
ラスターが持ってきた菓子をつまみながら、ティエティが淹れた薬茶を飲む。
落ち着きを取り戻したエリオットは、思い出したことを口にした。
何故ラスターが自分のことをリュシアンの恋人だと勘違いしたのか、と。
その問いにリュシアンは平然と、そして悪びれた様子もなく『マーキングしていたからだ』と答えた。
あの帰り際の"挨拶"にそんな意味があったとは露知らず、エリオットは目をぐるぐるさせながら混乱に混乱を重ねていった。
「獣人には効果覿面だぞ。不埒な輩はまず寄ってこない。」
「俺別に不埒じゃないっすけど~」
「で、でも、リュシアンさんがわざわざそんなことしなくても、俺には誰も、」
「意中の相手を獲られたくないからに決まっている。」
「・・・・・・・・・は?」
「・・・だから、エリオットを誰にも獲られたくないから、念入りにマーキングしたんだ。」
「・・・・・・・・・?!」
『この狐、ど真面目な顔で今なんと?』・・・とでも言う筈だったのに、驚きすぎて固まるエリオット。
リュシアンはそのエリオットの様子に大層不服そうな顔で、その場面を目の当たりにした他二人は吹き出して笑いはじめた。
「きゃはははっ!ほーら、勿体ぶって何も言わないから全然伝わってない!あははははっ!」
「ぶはっ!副長ってなかなか面倒くせぇ男だったんすね。うっわ、顔怖~~」
「・・・・・・・・・黙れ二人とも。」
「大斧無双の竜騎士様もエリオットくんには敵わないわよねぇ♡あー、可笑しい。いいもの見たわ~♡」
「・・・・・・クソッ」
自分の膝に乗せたエリオットの頭をよしよしと撫でるティエティの手を遠ざけるように場所を移すリュシアン。
そのやりとりがあまりにも可笑しかったのか、ラスターは床に転げて笑っていた。
「ハァ~・・・半年分は笑った気がする。」
「・・・明日の訓練、覚えとけよ。」
「副長もそんな一面あったんすね~。なんか安心したっすよ、俺。いつも淡々と何でもこなしてるから怒り以外の感情無いのかと思ってました。」
「・・・・・・?!」
「エリオットくんにだけっすよ。マーキングも相当粘着質な感じっすもんね~。」
「ラスター、あんたこれ以上余計なこと言ったら明日が命日よ。」
「ちょ、ちょっと、ま、待ってください!」
驚きと羞恥に耐えかねて、咄嗟に立ちあがろうとしたエリオットの腰を反射的にぐっと掴み、再度座らせたリュシアンは、彼の顔を後ろから覗き込む。
青磁色の瞳と視線が交わると、みるみるうちにエリオットの少し日に焼けた肌という肌が熟れた果実のように真っ赤に染まっていった。
「嫌・・・ではなさそうで、安心した。」
「~~~~っ、も、もう、あ、あの挨拶禁止だから!!」
「獲物を逃すわけないだろう。観念するんだな。」
「にゃ、にゃに言ってんの、この人!!?」
「エリオットは本当に愛らしい。」
「きゅ、きゅ、急に、何!?」
「思ったことは口にすべきと、たった今学んだからな。」
不敵に笑うリュシアンは、目に毒だ。
目が泳ぐエリオットが助けを求めようとティエティに視線を送る。
視線に気づいたティエティはティーカップに薬茶を注ぎ足して、にこりと笑った。
「エリオットくん、観念なさい。」
「!!!?」
「他の男に助けを求めるとはいい度胸だな。」
「はふ!!!?」
至近距離に迫ったリュシアンの青磁色は、いつもより艶やかだ。
息も絶え絶えに見た空は、鮮やかな橙色で、窓の向こうで二頭の竜が喉を鳴らし、睨み合っているのがよく見えた。
おしまい
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