【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O

文字の大きさ
11 / 12

雨降らしは、赤面する。

しおりを挟む
獣人にとって匂いというのはとても重要だ。匂いだけでさまざまな感情を読み取ったり表現したりできる。


中でも愛情を示す際の有効な手段であり、特に気に入った相手に対して自分の匂いをつけ、周囲の者を牽制する"マーキング"を行うことは、獣人にとってごく一般的な習慣だ。



「・・・で、お、俺に、マーキングを・・・?」


ラスターが持ってきた菓子をつまみながら、ティエティが淹れた薬茶を飲む。



落ち着きを取り戻したエリオットは、思い出したことを口にした。
何故ラスターが自分のことをリュシアンの恋人だと勘違いしたのか、と。
その問いにリュシアンは平然と、そして悪びれた様子もなく『マーキングしていたからだ』と答えた。

あの帰り際の"挨拶"にそんな意味があったとは露知らず、エリオットは目をぐるぐるさせながら混乱に混乱を重ねていった。



「獣人には効果覿面だぞ。不埒な輩はまず寄ってこない。」

「俺別に不埒じゃないっすけど~」

「で、でも、リュシアンさんがわざわざそんなことしなくても、俺には誰も、」
「意中の相手を獲られたくないからに決まっている。」

「・・・・・・・・・は?」

「・・・だから、エリオットを誰にも獲られたくないから、念入りにマーキングしたんだ。」

「・・・・・・・・・?!」



『この狐、ど真面目な顔で今なんと?』・・・とでも言う筈だったのに、驚きすぎて固まるエリオット。
リュシアンはそのエリオットの様子に大層不服そうな顔で、その場面を目の当たりにした他二人は吹き出して笑いはじめた。


「きゃはははっ!ほーら、勿体ぶって何も言わないから全然伝わってない!あははははっ!」

「ぶはっ!副長ってなかなか面倒くせぇ男だったんすね。うっわ、顔怖~~」

「・・・・・・・・・黙れ二人とも。」

「大斧無双の竜騎士様もエリオットくんには敵わないわよねぇ♡あー、可笑しい。いいもの見たわ~♡」

「・・・・・・クソッ」



自分の膝に乗せたエリオットの頭をよしよしと撫でるティエティの手を遠ざけるように場所を移すリュシアン。
そのやりとりがあまりにも可笑しかったのか、ラスターは床に転げて笑っていた。



「ハァ~・・・半年分は笑った気がする。」

「・・・明日の訓練、覚えとけよ。」

「副長もそんな一面あったんすね~。なんか安心したっすよ、俺。いつも淡々と何でもこなしてるから怒り以外の感情無いのかと思ってました。」

「・・・・・・?!」

「エリオットくんにだけっすよ。マーキングも相当粘着質な感じっすもんね~。」

「ラスター、あんたこれ以上余計なこと言ったら明日が命日よ。」

「ちょ、ちょっと、ま、待ってください!」



驚きと羞恥に耐えかねて、咄嗟に立ちあがろうとしたエリオットの腰を反射的にぐっと掴み、再度座らせたリュシアンは、彼の顔を後ろから覗き込む。
青磁色の瞳と視線が交わると、みるみるうちにエリオットの少し日に焼けた肌という肌が熟れた果実のように真っ赤に染まっていった。



「嫌・・・ではなさそうで、安心した。」

「~~~~っ、も、もう、あ、あの挨拶禁止だから!!」

「獲物を逃すわけないだろう。観念するんだな。」

「にゃ、にゃに言ってんの、この人!!?」

「エリオットは本当に愛らしい。」

「きゅ、きゅ、急に、何!?」

「思ったことは口にすべきと、たった今学んだからな。」



不敵に笑うリュシアンは、目に毒だ。
目が泳ぐエリオットが助けを求めようとティエティに視線を送る。
視線に気づいたティエティはティーカップに薬茶を注ぎ足して、にこりと笑った。



「エリオットくん、観念なさい。」

「!!!?」

「他の男に助けを求めるとはいい度胸だな。」

「はふ!!!?」




至近距離に迫ったリュシアンの青磁色は、いつもより艶やかだ。


息も絶え絶えに見た空は、鮮やかな橙色で、窓の向こうで二頭の竜が喉を鳴らし、睨み合っているのがよく見えた。








おしまい























しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

的中率100%の占い師ですが、運命の相手を追い返そうとしたら不器用な軍人がやってきました

水凪しおん
BL
煌都の裏路地でひっそりと恋愛相談専門の占い所を営む青年・紫苑。 彼は的中率百パーセントの腕を持つが、実はオメガであり、運命や本能に縛られる人生を深く憎んでいた。 ある日、自らの運命の相手が訪れるという予言を見た紫苑は店を閉めようとするが、間一髪で軍の青年将校・李翔が訪れてしまう。 李翔は幼い頃に出会った「忘れられない人」を探していた。 運命から逃れるために冷たく突き放す紫苑。 だが、李翔の誠実さと不器用な優しさに触れるうち、紫苑の頑なだった心は少しずつ溶かされていく。 過去の記憶が交差する中、紫苑は李翔の命の危機を救うため、自ら忌み嫌っていた運命に立ち向かう決意をする。 東洋の情緒漂う架空の巨大都市を舞台に、運命に抗いながらも惹かれ合う二人を描く中華風オメガバース・ファンタジー。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

美容整形するために夜間魔法学校に通っているだなんて言えない

陽花紫
BL
整形男子レイは、異世界転移をした際に整形前の顔に戻ってしまう。 魔法が当たり前の世界で美容医療などあるはずもなく、レイは魔法で整形をするために夜間魔法学校に通いはじめる。幸いにも、魔力はほんの少しだけあった。レイは不純な動機を隠しながら、クラスメイト達と日々を過ごしていく。 小説家になろうにも掲載中です。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸Twitterもぜひ遊びに来てください🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

過労死で異世界転生したら、勇者の魂を持つ僕が魔王の城で目覚めた。なぜか「魂の半身」と呼ばれ異常なまでに溺愛されてる件

水凪しおん
BL
ブラック企業で過労死した俺、雪斗(ユキト)が次に目覚めたのは、なんと異世界の魔王の城だった。 赤ん坊の姿で転生した俺は、自分がこの世界を滅ぼす魔王を討つための「勇者の魂」を持つと知る。 目の前にいるのは、冷酷非情と噂の魔王ゼノン。 「ああ、終わった……食べられるんだ」 絶望する俺を前に、しかし魔王はうっとりと目を細め、こう囁いた。 「ようやく会えた、我が魂の半身よ」 それから始まったのは、地獄のような日々――ではなく、至れり尽くせりの甘やかし生活!? 最高級の食事、ふわふわの寝具、傅役(もりやく)までつけられ、魔王自らが甲斐甲斐しくお菓子を食べさせてくる始末。 この溺愛は、俺を油断させて力を奪うための罠に違いない! そう信じて疑わない俺の勘違いをよそに、魔王の独占欲と愛情はどんどんエスカレートしていき……。 永い孤独を生きてきた最強魔王と、自己肯定感ゼロの元社畜勇者。 敵対するはずの運命が交わる時、世界を揺るがす壮大な愛の物語が始まる。

脳筋剣士と鈍感薬師 ~騎士様、こいつです~

季エス
BL
「ルカーシュは、駄目よ」  その時胸に到来した思いは安堵であり、寂しさでもあった。  ルカーシュは薬師だ。幼馴染と共に、魔王を倒すために村を出た。彼は剣士だった。薬師のルカーシュは足手纏いだった。途中で仲間が増えたが、それでも足手纏いである事に変わりはなかった。そうしてついに、追い出される日が来たのだ。  ルカーシュはそっと、瞼を伏せた。  明日、明日になったら、笑おう。そして、礼と別れを言うのだ。  だから、今だけは、泣いてもいいかな。

『君を幸せにする』と毎日プロポーズしてくるチート宮廷魔術師に、飽きられるためにOKしたら、なぜか溺愛が止まらない。

春凪アラシ
BL
「君を一生幸せにする」――その言葉が、これほど厄介だなんて思わなかった。 チート宮廷魔術師×うさぎ獣人の道具屋。
毎朝押しかけてプロポーズしてくる天才宮廷魔術師・シグに、うんざりしながらも返事をしてしまったうさぎ獣人の道具屋である俺・トア。 
でもこれは恋人になるためじゃない、“一目惚れの幻想を崩し、幻滅させて諦めさせる作戦”のはずだった。 ……なのに、なんでコイツ、飽きることなく俺の元に来るんだよ? 
“うさぎ獣人らしくない俺”に、どうしてそんな真っ直ぐな目を向けるんだ――? 見た目も性格も不釣り合いなふたりが織りなす、ちょっと不器用な異種族BL。 同じ世界観の「「世界一美しい僕が、初恋の一目惚れ軍人に振られました」僕の辞書に諦めはないので全力で振り向かせます」を投稿してます!トアも出てくるので良かったらご覧ください✨

処理中です...