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第14章 アルトラルサンズ本格始動編

第378話 食中毒菌の対処 その2(牛乳のケース)

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【前書き】
 第375話で乳牛のお世話係のトロルを『チトキリン』という名前だとしていましたが、間違えていました。
 正式には『ホウルシス』という名前になります。

 誤:チトキリン  →  正:ホウルシス

 名前を変える経緯については↓の後書きに記述しています。興味のある方はどうぞ。

 端役なのでストーリー上の特別影響は無いとは思いますが、今回のエピソードで突然知らない名前が出てきて混乱する可能性を考えて、前書きに記しました。
 なお、この前書きは頃合いを見て削除します。


   ◆◇◆



 牛舎前に来た。

「この度は食中毒?とかいうのを発生させてしまい申し訳ありません。せっかくアルトラ様から任されたのに……」

 ホウルシスに謝られた。

「いや、私の判断ミスが大きいから、あなたは気にしないで今後も牛たちの世話を続けてもらいたい」
「しかしフィンツさんたちが瀕死の重傷とか……」
「いやいやいやいや! 今はもう普通に会話できるから!」

 どこかで情報がねじ曲がったのか!?

「そ、そうですか! それは安心しました! しかし、今後どのように販売すればよろしいでしょうか?」
「今から食中毒起こさないような対策するよ。この子を使ってね!」

 再びジャーンという具合にスライムを天高く掲げる。

「スライム……ですか?」
「そう。さっきこれを使って卵の食中毒が起こらないように対処してきた」
「そのスライムでですか? どうやって使うんでしょう?」
「じゃあ実験したいから、牛乳を一杯持って来てもらえる?」
「はい」

 私はホウルシスが牛乳を取りに行っている間に、この子の性質を変化させておこう。卵の時は入れた瞬間に消化してしまったから、きっと牛乳も同じように消化してしまうだろう。だから予め変化させておく。

 変化させる条件は――
  ・アウズンブラの牛乳内に存在する雑菌だけを食べるようになる
  ・少量の摂取でもエネルギーを賄うことができるようになる
  ・あまり動き回らない
  ・自己増殖しない
  ・老いてきて死ぬ時には同じ姿に転生して若返る

 まあ早い話、卵の時のスライムとほぼ同じ条件だ。
 しかし、ここにもう一つ変化を加える。
 身体の一部にしっぽのように筒状の出口を作り、スライムに入れた牛乳をここから排出するようにする。
 ああ、牛乳専用だから同時に耳とツノのような突起も生やして、体型を牛に近いフォルムにしておくか。ちょっと可愛く見えるかもしれない。
 よし! 身体の形も変化させた。

 少しするとホウルシスが牛乳をコップに入れて持ってきた。

「あれ? このスライム、先ほどもこんな形でしたか?」
「牛乳に合うように少し変化させた」
「はぁ……」

 この変化がどういう意味を持ってるのか分からないため、気の無い返事。

「じゃあこれをスライムに入れます。ジャバーっと」

 スライムの中に牛乳をぶち込む。

「スライムの中が白くなりましたね。この後どうなるんですか?」
「この筒状に変形させたところから出てくるはず」
「スライムの身体ってほとんどが水なんですよね? 牛乳が薄くなりませんか?」
「どうだろう? まあ出て来たのを飲んでみれば分かるんじゃない?」

 さっき作った筒状の出口から牛乳が流れ出す。
 それを新しいコップで受け取る。

「何も変わってないように見えますが……?」
「そう思う? じゃあちょっと専門家のところに行って、雑菌が居るかどうか聞いてくるよ」

   ◇

 ゲートで再び我が家へ。

「カイベル! この牛乳に雑菌は居るかしら?」
「いません。完全に滅菌されているようです。これなら誰が食べても食中毒が起こることはないでしょう」

 一言一句さっきと同じこと言ってるけど、まあ滅菌されてるなら問題無い!

「そう、ありがとう! じゃあホウルシスに報告してくるわ!」

 ホウルシスのところへ転移。

   ◇

「専門家に調べてもらったら、もう食中毒が出ることはないだろうってさ」
「もう調べてもらったんですか!?」
「じゃあ改めて飲んでみましょうか? 水っぽかった場合はもうちょっと改良の余地があるだろうし、じゃあ乾杯」
「乾杯」

 二人同時に牛乳を飲み干す。

「味は全然変わってません! 水っぽくなるのではと心配していましたが」
「じゃあ大丈夫そうね。スライムを通したら少し温度は冷えたみたいだけど」

 これはスライムの温度が少し低めだから、そこを通過した結果、少し温度が下がったのだろう。多分スライムの性質とは関係無い。

「出荷する上で大した違いは無いと思います。ありがとうございます! ではこのスライムを使わせていただきますね。それでこのスライムはおいくらですか?」
「今回は私の判断ミスで食中毒を出してしまったからサービスしとく」

 ああ、そうだ、このスライムも色を変えておこう。

「今からこのスライムの色を変えるね。牛専用と分かるように」

 スライムの色を半透明の白黒のホルスタイン柄に変化させた。さっき耳とツノを生やしたが、より牛らしいフォルムになった。

「これは……確かにこれならうちのスライムということがすぐに分かりますね! しかし質問なのですが、牛乳はコップ一杯ずつスライムに入れないといけないのですか? それだと物凄い労力がかかってしまうのですが……」
「搾乳機のホースをスライムに突っ込めば良いんじゃない? それで滅菌されて出て来た牛乳を回収すれば問題無いと思う。ああ、それとこのスライムのことは他言無用でお願い。もし誰かに何か聞かれたら『特殊進化した個体だから詳細は分からない』とでも言っておいて」
「なるほど! そのように致します! 何から何までありがとうございました」

 牛乳の食中毒対応を終え、この場を後にした。

 翌日より、きちんと滅菌された卵と牛乳が店先に並ぶようになった。


   ◇


 フィンツさんたちの入院から一週間が経過――
 水の国アクアリヴィア首都トリトナの病院に様子を見にやって来た。

 コンコンコン

「こんにちは」
「おう! アルトラか!」
「三人とも大分具合良くなったみたいですね」
「お蔭様でな、ガッハッハ」
「食中毒なんて久しぶりだ、死ぬかと思ったぞ」
「これどうぞ、フルーツの盛り合わせです」
「お? お見舞いの品か? 悪いな。潤いの木の実と水律の木の実があるじゃないか!」
「潤いの木の実!? 俺にもくれ!」
「俺も!」
「全員分ありますから! ところでヤポーニャさんは?」
「別の病室だよ」
「一日に一回くらいこちらに顔を見せる。そろそろ来る頃だろ」

 噂をすれば影、背後からヤポーニャさんに声をかけられた。

「お、アルトラ様、お見舞い来てくれたんだね~! 潤いの木の実じゃないか! 私にも一つちょうだい」
「ほらよ」

 と言いながら、投げ渡すフロセルさん。

「ありがと」
「ところでフィンツさん、あとどれくらいで退院できるんですか?」
「ああ、それなんだが実はな……」

 急に笑顔から暗い表情に変わり、声の抑揚も二段ほど下がった。

「アルトラには悪いがこのままトリトナに残ろうかと思ってる」
「えっ!!? 何で!!?」

 フィンツさんが残る……!?
 フロセルさんとルドルフさんは!?

「こっちに戻って来たのも良い機会なんでな」
「すまんなアルトラ……」
「ヤヤヤ、ヤポーニャさんは……?」
「ごめん……私もそろそろ帰ろっかなって……」

 ぜ、全員……?
 嘘……だろ……こんなことでアルトレリアの主力を失うなんて……
 予想もしてなかった言葉に胸がキュッと締め付けられ、全身に脱力感、震えまで出てきた……

「ままま、待ってください! と、突然帰るなんて! せせせ、せめてアルトレリアでお別れ会くらい開いても良いんじゃないですか!?」
「しかしなぁ、自分で帰るにも、アルトレリアからは遠すぎて帰るのが難しいからな」
「トリトナの病院に運んでくれたのがちょうど良かったな」
「みんなで相談して決めたことだ」

 にゅ……入院中そんな相談してたのか……じゃあ、もう彼らの心は帰っては来ないんだな……
 本人たちがその心持ちなら仕方ない……元より“いつでも帰って良い”という口約束になっている……

「しししし、仕方ないですね……そそ、そういう約束でしたもんね! ざざ、残念ですけど、このまま、か、帰ります……」
「悪いな、アルトラ……」
「また何か縁があったらその時に会おう」
「達者でな」

 うう……これみんなにどう言おう……私が食中毒出させた所為か!?
 それにしても何て淡泊な別れなんだ……こんなに彼らとの関係性は遠いものだったのか……?

 絶望的な気持ちになっていたところ、病室内の椅子に座って潤いの木の実を食べていたヤポーニャさんが声を発する。

「三人とももうそのくらいにしておいたら? アルトラ様、顔真っ青になってちょっと涙目になってるじゃないか。私も付き合えって言われたから加わったけど、そろそろ気の毒になってきたよ……」
「え?」
「こいつら、食中毒が収まってからここ数日三人で集まって、どうやってアルトラ様を騙すか悪巧みしててさ、いつ見舞いに来るかいつ見舞いに来るかとニヤニヤしながら待ってたんだよ」

 え? これはどういうことなの?
 結局のところ彼らは、アルトレリアに帰るの? トリトナに残るの? ショックが大きくて頭が回らない。

 すると三人がニッコリ笑って――

「わっはっは! ちゃんとアルトレリアに戻るから安心しろ!」
「トリトナに残ると言うのは……?」
「ガッハッハ! 嘘だよ~~ん! 上手いこと騙せたな! 焦ったか?」
「本当に?」
「いくら酒飲みで不真面目でも、仕事はきっちりやるのが俺たちドワーフだ。まだまだ教えることは沢山ある」
「………………良かった~~……本当にみんなに何て説明しようかと……」

 脱力してその場にへたり込んでしまった。

「大丈夫かい?」
「な……なんとか……それで、いつ退院なんですか?」
「もう体力的には問題無いんだが、最終的な検査があるからあと二日後だな。その時に迎えに来てくれ」

 その後少し談笑し、私はアルトレリアに帰還。
 二日後に四人を迎えに行った。
 一人も欠けずにアルトレリアに帰って来てくれたのはありがたかった。



   ◆◇◆



【後書き】
 冒頭の前書きの話ですが、読んでいただいてる方には特に気にはならないと思いますが、私がちょっと気になるため名称を変更しました。
 と言うのも、その名付け方にあります。
 チトキリン、この名前は、『チキン』と『トリ』を交互に並べ替えてできています。養鶏場経営のキャラならこれで良いのですが、牛乳を扱うキャラだったので変更やむなしということに。
 ちなみに、ホウルシスは、『ホルスタイン』の『ホルス』と『ウシ』を交互に並べ替えて名付けています。

 次回は7月17日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
  第379話【フリアマギアはドアが気になる その1】
 次話は来週の月曜日投稿予定です。
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