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第14章 アルトラルサンズ本格始動編
第379話 フリアマギアはドアが気になる その1
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樹の国から帰って一ヶ月ほどが経過。
水の国から来た者にしろ、雷の国から来た者にしろ、来訪して少し経つと行動範囲が広がって、自分たちの呼ばれた現場以外の場所でも目にするようになる。 (例えばローレンスさんならダム建設現場以外で買い物していたりだとか)
それは樹の国から来た者たちも例外ではなく――
フリアマギアさんたちが、私の家に通じるゼロ距離ドア付近で機械を設置して何かやっている。
それも樹の国から来たエルフが三人総出で……
「な、何やってるんですか? 人んちのドアの前で……」
「アルトラ殿! このドア凄いですね! 樹の国で噂になっていましたよ、距離を圧縮して移動できる空間魔法がかけられたっていうドアが中立地帯に存在するという話。直にこの目で見られるとは、ここに来た甲斐がありました!」
「そ、そうですか…………それで、何をやってるんですか?」
「いやぁ仕組みを解明したいと思いまして、この町に呼ばれたのも何かの縁ということで良い機会なので調べてるんですよ」
彼女の場合はこのドアが見たいのが主目的で、アルトレリア派遣の募集に応じたんじゃないかと思った。
「このドアが開発できれば、我が国でもいちいち大森林を歩いて首都へ行かなければならないということも無くなりますし、生活がもっと豊かになると思いますので、あ、許可取らずすみません。もう始めてしまってなんですが、調べてみても良いですか?」
『ゼロ距離ドア』の魔力紋は既に創成魔法によって書き換えてある。
魔力紋が書き換わったかどうかはカイベルにも確認取ってあるし、詳しく調べられてもこのドアの作成者が私だとバレることはないと思う。
それに、断ってもきっと私の見てないところでコッソリ調べようとするだろう。彼女の性格は何となく分かる。
「まあ……良いですよ。ただ……壊したり傷付けたりしないでくださいね? まだ三対しか発掘されていない貴重な品なんで」
という体。
発掘された (ことになっている)遺跡 (に作り替える予定の場所)も、古代文明の遺跡があるように後々ちゃんと偽装しておかないとな。
「それはもちろんですよ! 傷付けでもしたら世界的な損失です」
世界的!? こんなこと聞かされたら、絶対に私が作ったとは言えないな……
「それで、今その機械で何やってるんですか?」
掃除機みたいな機械でドア付近の何かを吸っている。その吸い込んでいる“何か”はキラキラと虹色に輝いている。
「ああ、これはただの掃除機ですよ。このドアの魔力を純粋魔力に変換して、可視化して、それを集め、遠心分離機で分離させて、魔力をより分け、それを調べるんですよ。我々生物には指紋とか耳紋ってあるじゃないですか? それと同じで、魔力も人それぞれ違うんじゃないかなと思って取り入れた手法でしてね」
おお! そこに行き着く人ってやっぱり出てくるんだなぁ。
「ちなみに私が今手に持っているこの粉はミスリル銀とリダクティウム鋼石を混ぜた粉です。物体に振りかけるとその周囲の魔力をリダクティウム鋼石が分解・還元、その後にミスリル銀と結合して、純粋魔力が可視化されます。それをこの掃除機で吸い取って、それを調べ、その中で最も濃い魔力がその物質に残留している魔力、つまりこの魔道具の作成者の魔力と断定します」
ミスリル銀は確か魔力を集める石よね。精霊にもダメージを与えられる武器に加工できるって言う。 (第314話参照)
もう片方の石は初耳だな。
「リダクティウム鋼石って何ですか?」
「え? この町でもダムなんかで使おうとしてるじゃないですか、エネルギー体を分解して、純粋魔力に変換する石ですよ。雷の国では雷の分解に大活躍してるっていう」
「ああ、あの電気を分解して魔力を拡散させる石! あれってそんな名前なんですね!」 (第279話参照)
「分解の工程を間に置かないと集められませんからね。ミスリル銀が吸着してくれるのは現状では純粋魔力だけなので。ちなみにうっすら虹色に見えるのが純粋魔力です」
あの粉で純粋魔力を集めるから、魔力濃度が濃くなって虹色に見えるようになるのか。
「その“魔力の指紋”、私が最近『魔力紋』って呼んでいるものなんですけど、この魔力紋を調べることで何か分かることがあるのではないかと、その研究をしているんですよ」
初めてカイベル以外の口から『魔力紋』のワードが出て来た。
あの『片手間探偵メイド』の夢を見なかったら、このドアを私が作ったってことがバレてたな…… (番外編2を参照)
フリアマギアさんがアルトレリアに来る前にあの夢を見れたのはやっぱり天啓だったのかも。
「あ、一つ疑問なんですが、そのミスリル銀って魔力を吸着しちゃうんですよね? どうやって魔力を引き剥がすんですか? その粉は二つの鉱石をブレンドしてあるってことは、リダクティウム鋼石では剥がせないんですよね?」
「魔力遮断の効果のある魔道具に放り込めば消滅しますよ。ただこの方法だと、せっかく集めた魔力を調べられないので私たち研究者はほぼこの手段を取りませんね。私たちは遠心分離機を使って剥がします」
吸着してるとは言え、魔力には違いないから【魔法効果解除】なら消し去れるってわけなのね。
「ところでエルフって機械が嫌いって聞きましたけど?」
「そんなまさかー? 私は大好きですよ! 機械と紋章術合わせれば出来ないことはないって感じですし」
「アルトラ殿、この方はそういうの興味無いので聞いても無駄です。確かにトゥルーエルフは毛嫌いしてるところがありますが、我々は都市住みですので、それほど抵抗はありません」
と、部下のクリストさんが代わりに答えてくれる。
多少の抵抗があるのかと思ったけど、シティーエルフは機械に対する抵抗はほとんど無いのね。
「それでその機械で何か分かったんですか?」
「いやぁ、全然。まだまだこの機械で研究し始めて二年くらいですからね。まだ大したことはできませんよ。それに古代の遺跡で発掘された魔道具なら、このドアと同じ魔力紋持ってる人物ももう多分生きてはいないでしょうしね。ところで、ここに謎の言葉が書いてありますが、これはもしや古代の言語かな?」
いや、それは私が分かりやすいように『アルトラ邸』と書いた日本語だよ。逆側のドアには『トロル村』って書いてあるし。
日本語は、文字の無かったトロル村を中心に中立地帯に私が広めたため、魔界では基本的にアルトレリアでしか使われていない。彼女には謎の言語に見えるのだろう。
「いや、フリアマギアさん、一番後ろの文字 (『邸』の字)はわかりませんが、前半の四文字はこの町でよく目にします。この地には文字が存在しなかったと聞いているので、多分アルトラ殿の故郷の言語なんじゃないですか?」
と、部下のパトリックさんがその意見を否定。
「おお、そうかそうか! ってことはアルトラ殿はやっぱりこのドアと何か関りがある……とか?」
流し目しながら私に質問を投げかけてくる。
す、鋭い……
「いや、私が領主を拝命したのと、私の家がここから物凄く遠いから使わせてもらってるだけですよ。その文字もその時に彫りました」
話題を変えるために、魔力紋についてこちらからも質問してみるか。
「ところで……その魔力紋鑑定って、どれくらいの精度なんですか?」
「う~ん……残念なことに、まだまだ指紋鑑定に比べたら精度は低いんですよね~。まだ百万人に一人くらいの確率で同じ魔力紋を持ってる者がいるという感じです。樹の国に住む亜人の人数が百万人から五百万人くらいと考えられているので一人から五人くらいは同じ魔力紋を持ってるってことですね」
それでも結構な精度だ。樹の国第一首都内くらいの範囲なら同じ魔力紋はいないんじゃないか?
「樹の国に住んでる人数の予想幅が随分広くないですか? 百万人から五百万人って、普通五倍も予想幅違います?」
「まあ大森林なので、どれくらい潜んでるのか見当も付かないですからね~」
「冥球全体ならどれくらいの人口がいると考えられてるんですか?」
「さあ? それはもっと予想し辛いですよ。七大国の属国ではない国まで含めると少なく見積もっても二千万人以上。一番有力なのは五千万人から七千万人ほどと言われ、その他には一億人、二億人、突飛な意見だと五億人、十億人って意見もありますね。流石にそこまで多いとは思えませんけど……」
バラッバラの意見だな……見解の相違でここまで意見に違いが出るとは。
「亜人も種族の幅が広いので、予想がし辛いんですよ。小人とかは身体が小さくて生活スペースも取らないので沢山いますし、巨人などは極端に少なくなります。水の中に棲んでる亜人なんてカウントするのも難しいですし、獣人は基本的に子だくさんが多いですから。空飛ぶ種族なんて高いところにいることが多いので数えにくいですし、それに高位精霊なんかは受肉した瞬間に魔界に突然人数が一人増えることになるので、更に予想し辛いと。下位精霊でも樹人とかも人口に含めるならもっともっと膨大な数になるかも。きっと十億じゃ足りませんよ」
「な、なるほど。確かに種族差、体格差を考えると予想し辛いですね」
地球と同じような感覚で数えるのは無理があるわけね。
魔力を集めるのに満足したのか今集めたリダクティウム鋼石とミスリル銀のブレンド粉を掃除機から取り出して別の袋に詰め込んだ。
「それを持って行って調べるんですか?」
「そうです。指紋鑑定はもっと高精度なので、魔力紋鑑定もそれくらい精度上げるのが目標です。じゃあアルトラ殿! 試しに魔力紋の採取のご協力いただけませんか?」
「えっ!? 私のを!?」
「試し、試しですって!」
これって、ドア作ったの私だって疑われてる?
それは勘繰り過ぎか?
「ま、まあ良いですけど……」
パトリックさんがブレンド粉を私の身体の一部に振りかけ、魔力が吸着したところを掃除機みたいなやつに吸い取らせる。
手筈だったのだが……
闇のドレスの肩辺りに粉がかかった瞬間――
「いっ!? 闇のドレスが分解されて吸い取られてる!?」
闇の魔力が純粋魔力へと分解され、ミスリル銀の粉に吸着しようとしているらしい!
「ちょ、闇のドレス近くに粉振りかけないでください! ドレスが吸い取られて裸になっちゃいます!」
「あ、ああ、し、失礼しました!」
急いで剥ぎ取られた部分の闇のドレスを再生。
再度露出している腕に振りかけようとしたが、フリアマギアさんがそれを制止した。
「いや、この闇の魔力を吸い取った粉だけでもう十分ですよ」
粉は虹色の光を発していた。それを掃除機で吸い取る。
クリストさんが別の機械を出して、さっき集めたブレンド粉の一部を入れている。きっとドアと私の魔力紋を照合するためだろう。
「ドアの魔力と照合できるように設定した?」
「はい」
「そんなに早く鑑定できるものなんですか?」
「簡易鑑定なので、精度は大きく落ちますけど、似てるかどうかくらいは鑑定できます」
私の魔力紋とドアの魔力紋のデータを見比べて――
「ああ……やっぱ違うかぁ~」
よし! ドアの魔力紋の偽装はちゃんと出来てる!
「もしかしたらアルトラ殿が嘘吐いてるんじゃないかと思ったんだけどなぁ……」
大分失礼なこと言ってるな……
やっぱり疑われてたか……魔力紋の存在にいち早く気付けてて良かった……
通常、こんなこと言われたら国主として怒らないといけないところなんだろうけど、予想が当たってるだけになんも言えねぇ……
無礼だなと思いながらも黙っていると――
「も、申し訳ありません! この方、他人の心の機微に疎いので、わたくしたちが変わって謝罪致します!」
――クリストさんとパトリックさんが平謝り。部下の人たちも大変ね……
「あ、そこの方!」
「はい?」
そして私の魔力紋がドアと合わないと分かると、今度は私をよそにして町行く町民に声をかけ始めた。
「このドアってどこで発掘されたんですか?」
「あ、ええと、私には分かりませんが……」
この町の者たちにとって、ドアを私が作ったことは周知の事実だがアルトレリア国民には既に根回し済み。
伝えた時期の都合上、レッドドラゴン三人とアクアリヴィア組も知っているが、『中立地帯取り決めの臨時会談』 (第293話参照)でこのドアについて聞かれて危機感を持ったため、『これを私が作った』ということがバレると町が危機的状況に陥ったり、戦争の道具にされると危惧していると説明して、『中立地帯取り決めの臨時会談』のすぐ後に町全体で約定魔法を結んだ。
他言しようとした場合、または口を滑らせそうになった場合、『口ごもって答えられない』という軽めの誓約。もっとも……自分たちの身の安全も含まれているため、この町の者で他言しようとする者はいないだろうけど……
ただし悪意を持って他言しようとした場合はその時点からこのドアの詳細が知られるまで魔法が使えなくなるという誓約も課している。私は一生涯これについて語るつもりはないのでもしかしたら一生使えなくなるかもしれないと説明した。
「ほうほう、そうですか。じゃあ別の方に聞いて回りましょう」
ドアを離れて聞き込み調査に移行したらしい。
余程このドアの秘密を知りたいのか、色んな人に聞い回るつもりのようだ。
現在では、アルトレリア民全員の共通認識として『とある遺跡』にて発掘されたことになっているが、その遺跡の場所は誰も知らない。だって存在してないからね。
だから、フリアマギアさんがどれだけ聞き回ろうとも、遺跡の場所が見つかることはない。まああまりにも見つからないことが長く続くと流石に怪しまれそうなので、私が遺跡を偽装し次第、徐々に明かしていく予定。
◇
五時間後――
方々で聞き込みして、再びドアの前に戻って来たフリアマギアさん。
「はぁ……疲れたなぁ……だ~れも知ってる人いないじゃん!」
「お、お疲れ様です」
「こうなれば本人に聞くのが一番です! アルトラ殿! どこで発掘されたんですか!?」
「企業秘密です。世界情勢を一変させかねないのでお教えすることはできません」
「そこをなんとか!」
「残念ですけど……」
「くっそぉ……じゃあ再現する他無いのかぁ~……もっと徹底的に調べるよ!」
「「はい」」
創成魔法で作っているから、再現するのは中々難しいかもしれないが、あの熱意があればいつかは再現できるかもしれない。
水の国から来た者にしろ、雷の国から来た者にしろ、来訪して少し経つと行動範囲が広がって、自分たちの呼ばれた現場以外の場所でも目にするようになる。 (例えばローレンスさんならダム建設現場以外で買い物していたりだとか)
それは樹の国から来た者たちも例外ではなく――
フリアマギアさんたちが、私の家に通じるゼロ距離ドア付近で機械を設置して何かやっている。
それも樹の国から来たエルフが三人総出で……
「な、何やってるんですか? 人んちのドアの前で……」
「アルトラ殿! このドア凄いですね! 樹の国で噂になっていましたよ、距離を圧縮して移動できる空間魔法がかけられたっていうドアが中立地帯に存在するという話。直にこの目で見られるとは、ここに来た甲斐がありました!」
「そ、そうですか…………それで、何をやってるんですか?」
「いやぁ仕組みを解明したいと思いまして、この町に呼ばれたのも何かの縁ということで良い機会なので調べてるんですよ」
彼女の場合はこのドアが見たいのが主目的で、アルトレリア派遣の募集に応じたんじゃないかと思った。
「このドアが開発できれば、我が国でもいちいち大森林を歩いて首都へ行かなければならないということも無くなりますし、生活がもっと豊かになると思いますので、あ、許可取らずすみません。もう始めてしまってなんですが、調べてみても良いですか?」
『ゼロ距離ドア』の魔力紋は既に創成魔法によって書き換えてある。
魔力紋が書き換わったかどうかはカイベルにも確認取ってあるし、詳しく調べられてもこのドアの作成者が私だとバレることはないと思う。
それに、断ってもきっと私の見てないところでコッソリ調べようとするだろう。彼女の性格は何となく分かる。
「まあ……良いですよ。ただ……壊したり傷付けたりしないでくださいね? まだ三対しか発掘されていない貴重な品なんで」
という体。
発掘された (ことになっている)遺跡 (に作り替える予定の場所)も、古代文明の遺跡があるように後々ちゃんと偽装しておかないとな。
「それはもちろんですよ! 傷付けでもしたら世界的な損失です」
世界的!? こんなこと聞かされたら、絶対に私が作ったとは言えないな……
「それで、今その機械で何やってるんですか?」
掃除機みたいな機械でドア付近の何かを吸っている。その吸い込んでいる“何か”はキラキラと虹色に輝いている。
「ああ、これはただの掃除機ですよ。このドアの魔力を純粋魔力に変換して、可視化して、それを集め、遠心分離機で分離させて、魔力をより分け、それを調べるんですよ。我々生物には指紋とか耳紋ってあるじゃないですか? それと同じで、魔力も人それぞれ違うんじゃないかなと思って取り入れた手法でしてね」
おお! そこに行き着く人ってやっぱり出てくるんだなぁ。
「ちなみに私が今手に持っているこの粉はミスリル銀とリダクティウム鋼石を混ぜた粉です。物体に振りかけるとその周囲の魔力をリダクティウム鋼石が分解・還元、その後にミスリル銀と結合して、純粋魔力が可視化されます。それをこの掃除機で吸い取って、それを調べ、その中で最も濃い魔力がその物質に残留している魔力、つまりこの魔道具の作成者の魔力と断定します」
ミスリル銀は確か魔力を集める石よね。精霊にもダメージを与えられる武器に加工できるって言う。 (第314話参照)
もう片方の石は初耳だな。
「リダクティウム鋼石って何ですか?」
「え? この町でもダムなんかで使おうとしてるじゃないですか、エネルギー体を分解して、純粋魔力に変換する石ですよ。雷の国では雷の分解に大活躍してるっていう」
「ああ、あの電気を分解して魔力を拡散させる石! あれってそんな名前なんですね!」 (第279話参照)
「分解の工程を間に置かないと集められませんからね。ミスリル銀が吸着してくれるのは現状では純粋魔力だけなので。ちなみにうっすら虹色に見えるのが純粋魔力です」
あの粉で純粋魔力を集めるから、魔力濃度が濃くなって虹色に見えるようになるのか。
「その“魔力の指紋”、私が最近『魔力紋』って呼んでいるものなんですけど、この魔力紋を調べることで何か分かることがあるのではないかと、その研究をしているんですよ」
初めてカイベル以外の口から『魔力紋』のワードが出て来た。
あの『片手間探偵メイド』の夢を見なかったら、このドアを私が作ったってことがバレてたな…… (番外編2を参照)
フリアマギアさんがアルトレリアに来る前にあの夢を見れたのはやっぱり天啓だったのかも。
「あ、一つ疑問なんですが、そのミスリル銀って魔力を吸着しちゃうんですよね? どうやって魔力を引き剥がすんですか? その粉は二つの鉱石をブレンドしてあるってことは、リダクティウム鋼石では剥がせないんですよね?」
「魔力遮断の効果のある魔道具に放り込めば消滅しますよ。ただこの方法だと、せっかく集めた魔力を調べられないので私たち研究者はほぼこの手段を取りませんね。私たちは遠心分離機を使って剥がします」
吸着してるとは言え、魔力には違いないから【魔法効果解除】なら消し去れるってわけなのね。
「ところでエルフって機械が嫌いって聞きましたけど?」
「そんなまさかー? 私は大好きですよ! 機械と紋章術合わせれば出来ないことはないって感じですし」
「アルトラ殿、この方はそういうの興味無いので聞いても無駄です。確かにトゥルーエルフは毛嫌いしてるところがありますが、我々は都市住みですので、それほど抵抗はありません」
と、部下のクリストさんが代わりに答えてくれる。
多少の抵抗があるのかと思ったけど、シティーエルフは機械に対する抵抗はほとんど無いのね。
「それでその機械で何か分かったんですか?」
「いやぁ、全然。まだまだこの機械で研究し始めて二年くらいですからね。まだ大したことはできませんよ。それに古代の遺跡で発掘された魔道具なら、このドアと同じ魔力紋持ってる人物ももう多分生きてはいないでしょうしね。ところで、ここに謎の言葉が書いてありますが、これはもしや古代の言語かな?」
いや、それは私が分かりやすいように『アルトラ邸』と書いた日本語だよ。逆側のドアには『トロル村』って書いてあるし。
日本語は、文字の無かったトロル村を中心に中立地帯に私が広めたため、魔界では基本的にアルトレリアでしか使われていない。彼女には謎の言語に見えるのだろう。
「いや、フリアマギアさん、一番後ろの文字 (『邸』の字)はわかりませんが、前半の四文字はこの町でよく目にします。この地には文字が存在しなかったと聞いているので、多分アルトラ殿の故郷の言語なんじゃないですか?」
と、部下のパトリックさんがその意見を否定。
「おお、そうかそうか! ってことはアルトラ殿はやっぱりこのドアと何か関りがある……とか?」
流し目しながら私に質問を投げかけてくる。
す、鋭い……
「いや、私が領主を拝命したのと、私の家がここから物凄く遠いから使わせてもらってるだけですよ。その文字もその時に彫りました」
話題を変えるために、魔力紋についてこちらからも質問してみるか。
「ところで……その魔力紋鑑定って、どれくらいの精度なんですか?」
「う~ん……残念なことに、まだまだ指紋鑑定に比べたら精度は低いんですよね~。まだ百万人に一人くらいの確率で同じ魔力紋を持ってる者がいるという感じです。樹の国に住む亜人の人数が百万人から五百万人くらいと考えられているので一人から五人くらいは同じ魔力紋を持ってるってことですね」
それでも結構な精度だ。樹の国第一首都内くらいの範囲なら同じ魔力紋はいないんじゃないか?
「樹の国に住んでる人数の予想幅が随分広くないですか? 百万人から五百万人って、普通五倍も予想幅違います?」
「まあ大森林なので、どれくらい潜んでるのか見当も付かないですからね~」
「冥球全体ならどれくらいの人口がいると考えられてるんですか?」
「さあ? それはもっと予想し辛いですよ。七大国の属国ではない国まで含めると少なく見積もっても二千万人以上。一番有力なのは五千万人から七千万人ほどと言われ、その他には一億人、二億人、突飛な意見だと五億人、十億人って意見もありますね。流石にそこまで多いとは思えませんけど……」
バラッバラの意見だな……見解の相違でここまで意見に違いが出るとは。
「亜人も種族の幅が広いので、予想がし辛いんですよ。小人とかは身体が小さくて生活スペースも取らないので沢山いますし、巨人などは極端に少なくなります。水の中に棲んでる亜人なんてカウントするのも難しいですし、獣人は基本的に子だくさんが多いですから。空飛ぶ種族なんて高いところにいることが多いので数えにくいですし、それに高位精霊なんかは受肉した瞬間に魔界に突然人数が一人増えることになるので、更に予想し辛いと。下位精霊でも樹人とかも人口に含めるならもっともっと膨大な数になるかも。きっと十億じゃ足りませんよ」
「な、なるほど。確かに種族差、体格差を考えると予想し辛いですね」
地球と同じような感覚で数えるのは無理があるわけね。
魔力を集めるのに満足したのか今集めたリダクティウム鋼石とミスリル銀のブレンド粉を掃除機から取り出して別の袋に詰め込んだ。
「それを持って行って調べるんですか?」
「そうです。指紋鑑定はもっと高精度なので、魔力紋鑑定もそれくらい精度上げるのが目標です。じゃあアルトラ殿! 試しに魔力紋の採取のご協力いただけませんか?」
「えっ!? 私のを!?」
「試し、試しですって!」
これって、ドア作ったの私だって疑われてる?
それは勘繰り過ぎか?
「ま、まあ良いですけど……」
パトリックさんがブレンド粉を私の身体の一部に振りかけ、魔力が吸着したところを掃除機みたいなやつに吸い取らせる。
手筈だったのだが……
闇のドレスの肩辺りに粉がかかった瞬間――
「いっ!? 闇のドレスが分解されて吸い取られてる!?」
闇の魔力が純粋魔力へと分解され、ミスリル銀の粉に吸着しようとしているらしい!
「ちょ、闇のドレス近くに粉振りかけないでください! ドレスが吸い取られて裸になっちゃいます!」
「あ、ああ、し、失礼しました!」
急いで剥ぎ取られた部分の闇のドレスを再生。
再度露出している腕に振りかけようとしたが、フリアマギアさんがそれを制止した。
「いや、この闇の魔力を吸い取った粉だけでもう十分ですよ」
粉は虹色の光を発していた。それを掃除機で吸い取る。
クリストさんが別の機械を出して、さっき集めたブレンド粉の一部を入れている。きっとドアと私の魔力紋を照合するためだろう。
「ドアの魔力と照合できるように設定した?」
「はい」
「そんなに早く鑑定できるものなんですか?」
「簡易鑑定なので、精度は大きく落ちますけど、似てるかどうかくらいは鑑定できます」
私の魔力紋とドアの魔力紋のデータを見比べて――
「ああ……やっぱ違うかぁ~」
よし! ドアの魔力紋の偽装はちゃんと出来てる!
「もしかしたらアルトラ殿が嘘吐いてるんじゃないかと思ったんだけどなぁ……」
大分失礼なこと言ってるな……
やっぱり疑われてたか……魔力紋の存在にいち早く気付けてて良かった……
通常、こんなこと言われたら国主として怒らないといけないところなんだろうけど、予想が当たってるだけになんも言えねぇ……
無礼だなと思いながらも黙っていると――
「も、申し訳ありません! この方、他人の心の機微に疎いので、わたくしたちが変わって謝罪致します!」
――クリストさんとパトリックさんが平謝り。部下の人たちも大変ね……
「あ、そこの方!」
「はい?」
そして私の魔力紋がドアと合わないと分かると、今度は私をよそにして町行く町民に声をかけ始めた。
「このドアってどこで発掘されたんですか?」
「あ、ええと、私には分かりませんが……」
この町の者たちにとって、ドアを私が作ったことは周知の事実だがアルトレリア国民には既に根回し済み。
伝えた時期の都合上、レッドドラゴン三人とアクアリヴィア組も知っているが、『中立地帯取り決めの臨時会談』 (第293話参照)でこのドアについて聞かれて危機感を持ったため、『これを私が作った』ということがバレると町が危機的状況に陥ったり、戦争の道具にされると危惧していると説明して、『中立地帯取り決めの臨時会談』のすぐ後に町全体で約定魔法を結んだ。
他言しようとした場合、または口を滑らせそうになった場合、『口ごもって答えられない』という軽めの誓約。もっとも……自分たちの身の安全も含まれているため、この町の者で他言しようとする者はいないだろうけど……
ただし悪意を持って他言しようとした場合はその時点からこのドアの詳細が知られるまで魔法が使えなくなるという誓約も課している。私は一生涯これについて語るつもりはないのでもしかしたら一生使えなくなるかもしれないと説明した。
「ほうほう、そうですか。じゃあ別の方に聞いて回りましょう」
ドアを離れて聞き込み調査に移行したらしい。
余程このドアの秘密を知りたいのか、色んな人に聞い回るつもりのようだ。
現在では、アルトレリア民全員の共通認識として『とある遺跡』にて発掘されたことになっているが、その遺跡の場所は誰も知らない。だって存在してないからね。
だから、フリアマギアさんがどれだけ聞き回ろうとも、遺跡の場所が見つかることはない。まああまりにも見つからないことが長く続くと流石に怪しまれそうなので、私が遺跡を偽装し次第、徐々に明かしていく予定。
◇
五時間後――
方々で聞き込みして、再びドアの前に戻って来たフリアマギアさん。
「はぁ……疲れたなぁ……だ~れも知ってる人いないじゃん!」
「お、お疲れ様です」
「こうなれば本人に聞くのが一番です! アルトラ殿! どこで発掘されたんですか!?」
「企業秘密です。世界情勢を一変させかねないのでお教えすることはできません」
「そこをなんとか!」
「残念ですけど……」
「くっそぉ……じゃあ再現する他無いのかぁ~……もっと徹底的に調べるよ!」
「「はい」」
創成魔法で作っているから、再現するのは中々難しいかもしれないが、あの熱意があればいつかは再現できるかもしれない。
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