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第14章 アルトラルサンズ本格始動編

第376話 心配されるドワーフと食中毒にかからなかった種族の要因

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 その翌日――

 穏やかな昼下がり、役所の受付嬢マリリア、エリスリーン、イザベリーズと談話している最中、私にリーヴァントが訊てきた。

「フィンツさんたちどうしたんでしょうね? 体調不良を起こしたって一部で騒ぎになってましたよ? 新聞にも書いてありました!」
「そんな程度のこと新聞に書かれるの?」
「そんな程度ですか? この町の主力技術者が三人も倒れるのは一大事だと思うのですが……」

 まあ、まだそんな重要事が起こるような規模の町じゃないから、ドワーフさん四人が倒れたとなったら大きいネタなのかもしれない。

「どんな記事になってるの?」
「こんな感じの記事に」
「なになに?」

 見出しには、<< ドワーフ倒れる! 原因は過労か!? >>という文字がでかでかと記載されている。

「働き過ぎかもしれませんね。我々があれこれ注文するから……」
「いや、違うよ! 私、偶然その場に居たから知ってるけど、あれの原因は卵と牛乳だから」

 働き過ぎ……ではないと思う、適度に休んでもらうように言ってあるし。通貨制度導入時のような忙しさは今は鳴りを潜めてる、はず……
 搾乳機の制作依頼をしに行った時にはそれほど余裕が無いようには見えなかった。今まで普通にしゃべってた態度が急変して、急激に脂汗かき始めたけど……

「卵? 牛乳? 我々も食べましたが別に何ともありませんが……」

 リーヴァントには訳が分からないという表情が浮かんでいる。

「多分、種族差なんじゃない? ドワーフとトロルでは身体の構造が違うから彼らには合わなかったんでしょう」
「生物によって食べ物が合わないなんてことがあるんですか!?」

 マリリアが驚きながらの質問。

「生物によっては食べられない物はあるみたいよ。例えばアルトレリア近辺に生息する赤い狼ガルム、あれは玉ねぎを沢山食べたら多分死ぬと思う」

 まあ……姿が犬に似てるからって地球と同じとは限らないんだけど。

「「「「本当ですか!?」」」」

 今度は四人一斉に驚く。

「たかが玉ねぎ食べた程度で!?」
「試したわけではないから多分としか言えないけど、多分死ぬんじゃないかと思う。私の故郷にアレと似た生物が居るんだけど玉ねぎを食べたら死ぬって聞いた。あと、最近アルトレリアに移り住んできたネッココ。町でもたまに見るようになったと思うけど、彼女は固形物を食べると死ぬから、可愛いからって固形物はあげないでね。身体のどこかに詰まって死んじゃうから。この間、ごく少量の肉片食べただけで死にかけたからね」
「そういえば彼女は植物なんでしたっけ? 固形物食べられないんじゃ、何食べて生きてるんですか? アルトラ邸に居候してるんですよね?」

 とエリスリーン。

「水と液体状のものなら食べられるかな。何かのエキスみたいなやつとか。最近はオレンジジュースがお気に入りらしい。沢山飲むと病気になりそうだから節制するように言ってるんだけどね……」
「私たちにはその“病気”がどれほど重大なことか分かりませんけど、美味しいものを食べられないなんて何だか難儀な身体ですねぇ……」
「じゃあ、フィンツさんたちの身体にもそういった『食べられないものを食べちゃった』みたいな現象が起こったってことですか?」

 今度はイザベリーズからの質問。

「そうだね。詳しく聞いたらアクアリヴィアのお医者さん曰く、食中毒じゃないかって言われたからほぼ間違い無いと思う」
「『食中毒』って何ですか?」
「食べ物を食べたことによって引き起こされる中毒症状よ。主にお腹が痛くなったり、嘔吐したりする。下手をすると衰弱したり、脱水症状って言う……え~と……体内の水が不足することで死に至ることもある。食べ物が合わない……つまりその生物にとって毒となる物を食べるとそういう症状が出る」
「大変なことじゃないですか!!」

 それを聞いたリーヴァントが殊更大変そうに反応。
 確かに彼らは今やこの町の技術者として無くてはならないほどの大きい存在。そう認識しているからこの反応なのだろう。

「今回はそれほど重度ではなかったみたいだから安心して。ちゃんと栄養を摂って数日安静にしておけば治るってさ」

 これを機会にドワーフさんたちには少しの間ゆっくり休んでもらおうか。

「それは安心しました。しかし食中毒……ですか。世の中にはそんなものがあるのですね」
「でも水が足りないくらいで死んじゃうんですね。私たちはそんなに水飲んでたわけじゃないですけど、そんなに簡単に死ぬことなかったですよ?」
「多分、それも種族差で片付けられる問題かな。あなたたちトロル族は少量の水で大丈夫でも、他の種族はそうでもないかもしれないってこと。水の精霊みたいなのは水が無くなることイコール死でもあるだろうし」

 トロル族は元々熱い土地に住んでたから少量の水でも大丈夫なように適応進化したのだろう。

「そういえばあなたたち病気したこと無いんでしょ?」 (第295話参照)
「多分無いですね」
「『病気』という言葉がよく分かりません」
「お腹痛いってどんな感じなんだろうね~」
「確か『傷が付くこと』とは違うんですよね?」
「違うね」

 幸せな身体だわ……人間もこれくらい丈夫なら生きるの楽なのに。

「熱が出て寝込んだりとか無いの?」
「“熱が出る”って身体が熱くなるんですよね?」
「無いね~」
「ありません」

 改めて言おう、幸せな身体だわ。
 と思ったら、この場に居る四人の中で一人だけ熱を経験した者が居た。リーヴァントだ。

「ああ! ありますよ! アルトラ様に初めて遭遇した時に右肩の怪我が元でしばらく寝込みました。あの時は高熱が出て、痛みと熱とで死ぬかと思いましたね」
「ああ……あの時はごめん……」

 リーヴァントは大怪我したから、その反応で高熱が出たんだろう。
 しかし、この話をされる度に罪悪感が湧く。ホントに死んでなくて良かった……

「もう気にしないでください。私は今でもピンピンしておりますので! それに何かに関連付けてこの話をすることがあるので、その度に謝られても、こちらが参ってしまいます」
「そ、そう? じゃあ今後は気にしないことにするわ。それ以外に寝込んだことは?」
「ありません。乳幼児や年を取って体力が落ちて来た方は寝込んだりすることがありますが……それ以外では聞いたことがありませんね」
「あなたたちホント丈夫よね。流石トロル族だわ」
「ところで『お医者さん』というのは何でしたっけ?」
「え~と……病気を何とかしてくれる人かな」

 『治してくれる』って言っても良いかもしれないけど、そればかりではないから、正確に伝えるには『何とかしてくれる』が近い気がする。

「いまいちピンと来ないですね……」
「そりゃ病気したことないなら分からないでしょうよ。臨時会談で風の国が派遣してくれるって話になったから、もう少ししたらどんな職業なのか分かるよ」 (第292話参照)

 しかし、今回のことを受けて、風の国で医者派遣の提案をしてくれたのは良かったかもしれない。
 ドワーフさんたち、あのまま放置してたらどうなるか分からなかったし、やっぱり病気や身体構造に詳しい医者は必要だ。

   ◇

 この後カイベルに、それぞれの種族がなぜ食中毒に罹らなかったのか聞いたところ理由が分かった。

 私の場合は、この身体が病気や細菌、ウィルス、毒を受け付けないということ。
 トロル族は、グリーン・レッド問わず免疫力が普通じゃないということ。これについてはデスキラービー騒動の時に既に分かっている。ただ、もしこの免疫力を上回るものが出て来た場合は防ぐことができないらしい。
 フレアハルトたちについては、体内に炎の魔力が燃え盛っているため、レッドドラゴン特有の病気以外は、体内の炎の魔力で焼尽してしまうため多くの毒が効かないらしい。加えて、一酸化炭素や硫化水素が多く発生するところを住処としているため、生物由来の毒以外にも高い耐性があるとか。
 トーマス、リナさんら人魚族も毒への高い耐性があるため、食中毒菌程度なら問題無かったとのこと。
 ヘルヘヴン族のジョンさん、ガーゴイル族のヘンリーさんも強い毒耐性があったため無事 (ハーバート、ジョン、ヘンリーについては第278話参照)
 水の精霊ルサールカ族のシーラさんや土の精霊ノーム族のハーバートさんは、魔力の込もっていない毒なので全く問題無かったとか。

 つまり、食べた者の中でドワーフ以外は、人間と比べるとみんな遥かに丈夫な身体ってわけだ。魔界の亜人種ってみんな丈夫なのね。それとも丈夫なのがたまたまアルトレリアに集まったのかしら?
 ただしデスキラービーほどの猛毒の場合は、トロル族以外は無事でいられないとのこと。

 しかし、卵も牛乳もそのままでは食べられない亜人ひとが居るのか……何とかしないとなぁ……
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