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第14章 アルトラルサンズ本格始動編

第375話 生卵と生乳、そして過ち……

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 ニワトリス乳牛アウズンブラが来たため、早速養鶏場の経営を受け持ってくれる者と牛の世話をしてくれる者を募集したところ、何人かが応じてくれたため、その中の二人に主になって経営を任せることにした。

 なお、利益については税金を差し引いたものは全部自分の物にして良いということにした。
 それぐらい生き物を扱うのは難しい。何せ一日の休みも無いわけだし。
 樹の国から買い付けたのは私だが、私への見返りも無くて良いという条件で任せた。ただし最後まで投げ出さずお世話してもらうこと、仮に投げ出すなら代わりに引き継いでくれる亜人ひとを用意することも条件に盛り込んだ。
 なお、アルトレリアに誰も経験者がいないため、今回運んで来てくれたフレデリック商隊の方々にお願いしたところ、数日なら請け負っても良いと言ってくれたためアドバイザーをお願いした。

 乳牛のお世話を受け持つことになったのは、私は今回初対面だが役所生態調査部所属のホウルシスというトロルひとが主になって三人で共同経営するそうだ。
 牛を一目見て気に入ったらしい。
 第一壁と第二壁の間に放牧用の土地を用意。まだ牛三頭しかいないので、牧場というほど広い土地は必要は無いため、比較的町に近いところで飼育してもらうことにする。
 搾乳機はフレデリックさんから譲ってもらったものを使う。ただ……この牛、本当に乳の出が凄い。一台で回すのはかなり大変なため、フィンツさんに同じようなものの作成を依頼することにする。
 と、ここまでは私が協力するが、ここから先は全てホウルシスと共同経営の二人にお任せだ。
 翌日から少量ずつであるが牛乳が市場に出回ることになる。

   ◇

 養鶏場を経営してくれる人物は、募集に応じてくれた卵好きな役所食堂の副料理長オライムスに任せることにする。彼は卵料理が得意で、卵に目が無いらしく経営者募集時に凄い熱意でアピールしてきたため彼に任せてみることに (第138話参照)
 名前もどことなくあの料理の名前に似てるし。

 みんな、卵の美味しさには気付いているから、町中が歓喜に沸いている。
 そういうわけで、とりあえず簡易的ながら養鶏場を作った。
 卸されたニワトリスは、計百羽。このうち雄が二十羽、雌が八十羽。
 一日に、なんと二個卵を産むのが通常らしいので、単純計算では一日に百六十個の卵を収穫できることになる。
 そして――

 記念すべき、この町での一回目の産卵が行われた!

「「「おーーー!!」」」

「アルトラ様、最初のを食べてみますか? 他のニワトリスも産んだので、リーヴァントさんたちも食べられますよ!」

 産み立ての卵か、初めて食べる。
 でも、ちょっとこれ……見た目アレね……う〇こ付いてる……

 水で念入りに洗浄。

「では、みなさんいただきましょう!」

「「「いただきま~~す!」」」

「美味しいですね! 産み立ての卵!」
「卵かけご飯美味しいですよね!」
「俺はそのまま飲むのも好きだけどな」
「それは少し特殊な楽しみ方かな……」

 全員生卵の味を既に知っているため、大好評。

 卵も翌日から少量ながら売りに出されることになった。

   ◇

 卵と牛乳を大々的に売り出した次の日――

 アルトレリアに一時滞在していたフレデリックさんが卸したニワトリス乳牛アウズンブラの様子を見に来た。

「あ! みなさん、まさか生で食べてるんですか!?」
「はい、ちゃんと洗浄しましたけど……」
「そんな高度な洗浄技術があるんですか?」
「いえ……ただ水で念入りに洗っただけですけど……」
「水だけで!? 何も無ければ良いのですが……」
「どういうことですか?」
「鳥は総排泄腔という直腸口、排尿口、卵管口を全部兼ねた穴から卵を産むので、食中毒を起こさせる菌が付着してるんです」
「ええ、まあそれは実際産むところを見たので知ってます、ですので水で――」
「あと、ニワトリスはコカトリスだった時の名残で、卵にはほんの少し毒性が残っています。雑菌ともども水で洗った程度では完全に取り去るのは難しいと思いますが……」
「でもうちの町では以前から生で食べてましたけど……」
「それはどこ産の卵ですか?」
「え~と……アクアリヴィア産ですけど……」
「あの国は洗浄技術がしっかりしているので大丈夫だったのだと思います………………まさか牛乳の方もそのまま販売してませんよね?」
「え? まずいですか?」
「生乳も雑菌が増殖し易いのです。どちらも殺菌しないと食中毒の可能性があります」
「ま、まあ現在のこの町は毒に耐性の高い亜人しか住んでませんので、きっと大丈夫だと思います」
「……だと良いのですが」

   ◇

 その結果――
 翌日にそれは起こった。

「フィンツさん、牛が来たんで搾乳機の製造をお願いしたいんですけど」
「搾乳機? エルフから貰ったって聞いたが?」
「一台じゃ回らないくらい沢山出るんですよ」
「まあ良いぞ、なるべく早く作ってや……る……? ……う……うぉぉ……」

 フィンツさんが突然顔面蒼白になり、お腹を押さえてうずくまった。

「どうしたんですか?」
「は……腹が痛い……うぉぉ……」
「も、もしかして初売りされた卵を生で食べましたか?」
「うぉぉ~……うんうん、た、食べた……食べた食べた! しばらくトイレに籠る……長くかかると思うからすまんが一度出直しくれ!!」

 フィンツさんはその一言を後にしてトイレに駆け込んだ。
 と、思ったら別のところからうめき声。

「おぉぉぉ……お、俺もだ……」
「俺も腹がおかしい……」

 フロセルさんとルドルフさんも腹の調子が悪いとのこと。

「お、お二人も卵を?」
「い、いや俺たちは……酒の気付けに牛乳を……」

 そっちもマズかったか……

 結局のところ製造工場の共用トイレを三つ、三人で数時間占領。
 帰れと言われたが心配で待っていたところ、最初にフィンツさんが青い顔でやつれた状態で出て来た。

「あ、アルトラ……まだ居たのか……すまんな、待たせて……」
「こ、この町にはまだ病院もありませんし、お医者さんもいませんから、アクアリヴィアの病院へ行きましょう! 私が送ります!」

 その時、またも別方向から声が。

「ご、ごめん……アルトラ様、私も連れてってもらえるかな……?」
「ヤポーニャさん!?」

 どうやらこの工場の受付で働いているヤポーニャさんも同じ症状らしい。

「べ、別のトイレに籠ってたんだよ……ちょ、ちょうどアルトラ様が居てくれて良かったよ……今から病院へ送ってもらおうと頼みに行こうと思ってたから……私もちょっとダメそうだから一緒に連れてって、お願い……」

 ということで、四人をアクアリヴィアまでゲートで送った。
 ドワーフのフィンツさん、フロセルさん、ルドルフさん、ハーフドワーフのヤポーニャさんが食中毒でダウン。しばらくアクアリヴィアの病院にて点滴生活に。
 彼らが主になってやってくれていた製造業や酒造りが停止してしまった。搾乳機の製造も当然のことながら……と、思ったがトロルの弟子が請け負ってくれることになったため、搾乳機の方は問題無し。あとで構造を見に牧場を訪れるとのこと。

 毒に耐性が無い種族、アルトレリアに居てしまったか……フレデリックさんの懸念が現実に……
 私が軽率だったばかりに申し訳ない……流通する前にカイベルに判断を仰ぐべきだった。

 町の多くの者が食べたが、ドワーフ以外のほとんどの種族が問題無し。
 ダム建設監督のローレンスさんはドワーフではあるものの、卵も牛乳も手に入らなかったため食べられなかったのが幸いした。まだ初日で流通量が少ないこともあって、少なかった流通量に救われた形だ。
 フリアマギアさんらエルフは念のため卵と牛乳を検査して、食中毒が起こりそうな数値が叩き出されたため、生で食べるのを避けたらしい。
 その時点で報告してくれればとも思ったが、トロル族がデスキラービーの毒を分解できるのを知っているため「トロル族なら大丈夫でしょ」と他種族のことは頭に無かったとか。
 私? 私も当然何とも無くピンピンしている。リディアも大丈夫だった。
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