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第14章 アルトラルサンズ本格始動編
第370話 アースのお願い
しおりを挟む エミリーは森の木々の中に隠れながら父の戦いをそっと見ていた。父は多くの魔騎士と魔兵に囲まれつつも、臆することもなく剣と魔法で倒し続けた。だがその父も魔騎士隊のザウス隊長には敵わなかった。攻撃を受けて堀の中に沈んでいったのだ。
「パパ!」
エミリーは思わず声を上げてその場に駆け寄ろうとしていた。だが突然、何者かにその口をふさがれて抱きかかえられた。
(しまった!)
もうエミリーにはどうすることもできない。抱えられたまま森の奥へと連れていかれてしまった。
◇◇◇
リーカーは目を開けた。そこは彼の家のソファの上だった。明るい灯りが部屋を照らし、暖炉の薪が暖かく燃えていた。
「パパ。寝ていたの?」
エミリーがリーカーの顔をのぞきこんでいた。
「パパはお疲れなのよ。さあ、お祝いしましょう。パパは魔法剣士になったのよ」
妻のアーリーがケーキをもってリビングに入ってきた。
「そうだな・・・」
リーカーはまだ悪夢から覚めきらぬようにあいまいな返事した。アーリーはそんなリーカーに笑顔を向けて言った。
「おめでとう。これであなたは魔法剣士ね」
「パパ、おめでとう」
エミリーも笑顔で祝ってくれた。
「ああ、ありがとう」
リーカーも妻と娘に笑顔で返した。リーカーは悪夢を振り払うように首を振った。これが現実の世界であるはずだと・・・彼は思いこもうとした。エミリーが言った。
「パパ、魔法で何かやって見せてよ。そうね。ここにたくさんの御馳走を並べてみて」
「ははは。料理ならママの方がおいしいよ。それよりもっといいものを見せよう」
リーカーは呪文を唱えた。すると丸い風船がいくつも現れて、部屋に浮かんだ。それは様々に色を変えた。
「じゃあ、私も」
アーリーも呪文を唱えた。すると壁に掛けてあったバイオリンが空中に浮かんで弦が音を奏で、同時にピアノも演奏し始めた。家の中はまるで幻想的な劇場の様になり、3人をうっとりとさせた。そこに召喚した小さなかわいい幻獣たちがダンスを踊りながら出て来た。それらは愛想を振りまいていた。
「ははは」
エミリーも踊って愉快そうにはしゃいでいた。それを見てリーカーとアーリーは笑って顔を見合わせた。
「パパ、パパ」
エミリーは魔法で浮かびながらリーカーを呼んでいた。
「パパ!、パパ!」
リーカーはエミリーに何度も呼ばれていた。リーカーは目を開けた。そこは薄暗く冷たい小屋の中だった。夢から覚めると、あの悲惨な出来事は現実のものだったとリーカーは思い知らされた。体をむしばむ痛みに苦しみながらもリーカーは身を起こした。そこにはエミリーと並んで一人の若い娘がいた。その娘には見覚えがあった。
「サランサ殿だな」
「はい。サランサです」
彼女は青白い顔をしていた。何か深い苦しみを抱えているようだった。エミリーは言った。
「私は森でサランサに助けられたの。パパもサランサが魔法で助けてくれたのよ。そして見つからないようにここに運んでくれたよ」
リーカーはザウス隊長に手ひどい敗北を喫したのを思い出した。必殺技を受けて堀に転落したのに傷はわずかで済んでいた。サランサが回復魔法で手当てもしてくれたようだった。
「それはすまなかった。助けていただいたとは・・・」
リーカーが身を起こしかけたが、サランサはそれを止めた。
「悪いのは父です。こんなことをしているとは・・・でもすべて私のせいです。私を将来、女王にしようとマデリー様と企んだのです。リーカー様。謝ったからと言って許されるとは思っておりません。しかし私には何もできないのです。あなたの気が済むまでこの体に剣を突き立ててください」
サランサは悲しそうに言った。彼女の肩にはあの白フクロウが止まっていた。リーカーは静かに言った。
「いいや、あなたは悪くない。すべてワーロン将軍の仕組んだことだ。それにあなたは白フクロウを使って私を助けてくれた。礼を言う。この上は、私はエミリーを連れて王宮に乗り込みつもりだ」
「いえ、お逃げください。エミリー様を連れて。王宮の中には父の配下の魔騎士や魔兵がおります。お命が危のうございます」
サランサは強く止めた。だがリーカーはゆっくる首を横に振った。
「いや、敵が多かろうが私はエミリーとともに行く。女王様のお身が危ないのだ。私が止めねばならぬ」
リーカーはきっぱりと言った。
「それならせめてエミリー様だけでもここに・・・。こんな幼いエミリー様を戦いに連れて行こうとおっしゃるのですか!」
サランサは声を上げた。
「ああ、そうだ。エミリーも命を狙われている。逃げても魔騎士たちがいつまでも追ってくるだろう。それならば私の近くに・・・。我らにはもう道はない。自らが切り開いていかねばならぬ。死を恐れずに・・・」
リーカーは言った。その言葉にエミリーはしっかりとうなずいた。その親子の死を覚悟する決心の固さにサランサは涙をこぼした。そしてサランサ自身も決心した。
「わかりました。私が王宮に案内いたします」
「よいのか? 父上を裏切ることになるのだぞ」
「ええ、私も自分の信じる道を進みます」
サランサは涙を拭いてそう答えた。
◇◇◇◇
「リーカーは討ち取ったのだな!」
将軍執務室でワーロン将軍がザウス隊長を問うた。
「必殺技で倒したはずですが、しかし堀に沈んでしまって死体は確認しておりません」
ザウス隊長はそう答えた。
「娘のエミリーはどうした?」
「まだ見つかっておりません。遠くには行っていないはずですからじきに見つかると思いますが・・・」
ザウス隊長は言葉を濁した。ワーロン将軍は非常に不満だった。リーカーの死を確認できないばかりか、肝心のエミリーの行方すらつかんでいないとは・・・。
「貴様は当てにならんな! 何のために隊長にしてやったというのだ! 奴らの死体を見つけるまでここに戻ってくるな! 行け!」
ワーロン将軍は怒鳴り散らした。ザウスは不服そうな顔をしながら執務室を出て行った。
「どいつもこいつも使い物にならぬ。サランサは出て行くし、ザウスはあのざまだ・・・まあいい。女王の命はあとわずかだ。もうすぐ儂の天下だ」
ワーロン将軍は怒りおさまらず、ドンと机を叩いた。
◇◇◇◇
サランサは辺りを見渡して誰もいないことを確認すると、リーカーとエミリーを連れて林の小屋を出た。
「王宮へはごく一部の者しか知られていない抜け道を通ります。多分、魔騎士たちに気付かれずに王宮には入れるはずです」
先を歩くサランサは振り返って言った。リーカーは深くうなずき、エミリーの手を引いて進んだ。日の沈みかけた夕刻で辺りが薄暗くなっていた。彼らは林の木々に隠れながら、誰にも見つからずに抜け道に入っていった。
だがそれを見ているものがあった。それは一羽の魔法の黒カラスだった。3人が穴に入るのを見届けると王宮の方に飛んでいった。
◇◇◇◇
一羽の黒カラスが王宮に飛んできた。そして庭にいたザウス隊長の肩に止まり、何やらささやいた。
「何! 奴が生きている! それもこっちに向かっているだと!」
ザウス隊長は声を上げた。
「ならばここで奴を仕留めるだけよ!俺一人でな」
ザウス隊長は憤然として立ち上がった。その彼の目は不気味に光っていた。
「パパ!」
エミリーは思わず声を上げてその場に駆け寄ろうとしていた。だが突然、何者かにその口をふさがれて抱きかかえられた。
(しまった!)
もうエミリーにはどうすることもできない。抱えられたまま森の奥へと連れていかれてしまった。
◇◇◇
リーカーは目を開けた。そこは彼の家のソファの上だった。明るい灯りが部屋を照らし、暖炉の薪が暖かく燃えていた。
「パパ。寝ていたの?」
エミリーがリーカーの顔をのぞきこんでいた。
「パパはお疲れなのよ。さあ、お祝いしましょう。パパは魔法剣士になったのよ」
妻のアーリーがケーキをもってリビングに入ってきた。
「そうだな・・・」
リーカーはまだ悪夢から覚めきらぬようにあいまいな返事した。アーリーはそんなリーカーに笑顔を向けて言った。
「おめでとう。これであなたは魔法剣士ね」
「パパ、おめでとう」
エミリーも笑顔で祝ってくれた。
「ああ、ありがとう」
リーカーも妻と娘に笑顔で返した。リーカーは悪夢を振り払うように首を振った。これが現実の世界であるはずだと・・・彼は思いこもうとした。エミリーが言った。
「パパ、魔法で何かやって見せてよ。そうね。ここにたくさんの御馳走を並べてみて」
「ははは。料理ならママの方がおいしいよ。それよりもっといいものを見せよう」
リーカーは呪文を唱えた。すると丸い風船がいくつも現れて、部屋に浮かんだ。それは様々に色を変えた。
「じゃあ、私も」
アーリーも呪文を唱えた。すると壁に掛けてあったバイオリンが空中に浮かんで弦が音を奏で、同時にピアノも演奏し始めた。家の中はまるで幻想的な劇場の様になり、3人をうっとりとさせた。そこに召喚した小さなかわいい幻獣たちがダンスを踊りながら出て来た。それらは愛想を振りまいていた。
「ははは」
エミリーも踊って愉快そうにはしゃいでいた。それを見てリーカーとアーリーは笑って顔を見合わせた。
「パパ、パパ」
エミリーは魔法で浮かびながらリーカーを呼んでいた。
「パパ!、パパ!」
リーカーはエミリーに何度も呼ばれていた。リーカーは目を開けた。そこは薄暗く冷たい小屋の中だった。夢から覚めると、あの悲惨な出来事は現実のものだったとリーカーは思い知らされた。体をむしばむ痛みに苦しみながらもリーカーは身を起こした。そこにはエミリーと並んで一人の若い娘がいた。その娘には見覚えがあった。
「サランサ殿だな」
「はい。サランサです」
彼女は青白い顔をしていた。何か深い苦しみを抱えているようだった。エミリーは言った。
「私は森でサランサに助けられたの。パパもサランサが魔法で助けてくれたのよ。そして見つからないようにここに運んでくれたよ」
リーカーはザウス隊長に手ひどい敗北を喫したのを思い出した。必殺技を受けて堀に転落したのに傷はわずかで済んでいた。サランサが回復魔法で手当てもしてくれたようだった。
「それはすまなかった。助けていただいたとは・・・」
リーカーが身を起こしかけたが、サランサはそれを止めた。
「悪いのは父です。こんなことをしているとは・・・でもすべて私のせいです。私を将来、女王にしようとマデリー様と企んだのです。リーカー様。謝ったからと言って許されるとは思っておりません。しかし私には何もできないのです。あなたの気が済むまでこの体に剣を突き立ててください」
サランサは悲しそうに言った。彼女の肩にはあの白フクロウが止まっていた。リーカーは静かに言った。
「いいや、あなたは悪くない。すべてワーロン将軍の仕組んだことだ。それにあなたは白フクロウを使って私を助けてくれた。礼を言う。この上は、私はエミリーを連れて王宮に乗り込みつもりだ」
「いえ、お逃げください。エミリー様を連れて。王宮の中には父の配下の魔騎士や魔兵がおります。お命が危のうございます」
サランサは強く止めた。だがリーカーはゆっくる首を横に振った。
「いや、敵が多かろうが私はエミリーとともに行く。女王様のお身が危ないのだ。私が止めねばならぬ」
リーカーはきっぱりと言った。
「それならせめてエミリー様だけでもここに・・・。こんな幼いエミリー様を戦いに連れて行こうとおっしゃるのですか!」
サランサは声を上げた。
「ああ、そうだ。エミリーも命を狙われている。逃げても魔騎士たちがいつまでも追ってくるだろう。それならば私の近くに・・・。我らにはもう道はない。自らが切り開いていかねばならぬ。死を恐れずに・・・」
リーカーは言った。その言葉にエミリーはしっかりとうなずいた。その親子の死を覚悟する決心の固さにサランサは涙をこぼした。そしてサランサ自身も決心した。
「わかりました。私が王宮に案内いたします」
「よいのか? 父上を裏切ることになるのだぞ」
「ええ、私も自分の信じる道を進みます」
サランサは涙を拭いてそう答えた。
◇◇◇◇
「リーカーは討ち取ったのだな!」
将軍執務室でワーロン将軍がザウス隊長を問うた。
「必殺技で倒したはずですが、しかし堀に沈んでしまって死体は確認しておりません」
ザウス隊長はそう答えた。
「娘のエミリーはどうした?」
「まだ見つかっておりません。遠くには行っていないはずですからじきに見つかると思いますが・・・」
ザウス隊長は言葉を濁した。ワーロン将軍は非常に不満だった。リーカーの死を確認できないばかりか、肝心のエミリーの行方すらつかんでいないとは・・・。
「貴様は当てにならんな! 何のために隊長にしてやったというのだ! 奴らの死体を見つけるまでここに戻ってくるな! 行け!」
ワーロン将軍は怒鳴り散らした。ザウスは不服そうな顔をしながら執務室を出て行った。
「どいつもこいつも使い物にならぬ。サランサは出て行くし、ザウスはあのざまだ・・・まあいい。女王の命はあとわずかだ。もうすぐ儂の天下だ」
ワーロン将軍は怒りおさまらず、ドンと机を叩いた。
◇◇◇◇
サランサは辺りを見渡して誰もいないことを確認すると、リーカーとエミリーを連れて林の小屋を出た。
「王宮へはごく一部の者しか知られていない抜け道を通ります。多分、魔騎士たちに気付かれずに王宮には入れるはずです」
先を歩くサランサは振り返って言った。リーカーは深くうなずき、エミリーの手を引いて進んだ。日の沈みかけた夕刻で辺りが薄暗くなっていた。彼らは林の木々に隠れながら、誰にも見つからずに抜け道に入っていった。
だがそれを見ているものがあった。それは一羽の魔法の黒カラスだった。3人が穴に入るのを見届けると王宮の方に飛んでいった。
◇◇◇◇
一羽の黒カラスが王宮に飛んできた。そして庭にいたザウス隊長の肩に止まり、何やらささやいた。
「何! 奴が生きている! それもこっちに向かっているだと!」
ザウス隊長は声を上げた。
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